鳩山由紀夫首相は、自民党の谷垣禎一総裁との党首討論で、母親から金を無心したことはないと言い切ったけど、誰もそんな言葉を信じないよね。そうでも弁明しなければ、首相の座を保てないから、嘘をついているだけでしょう。「天地神明に誓って」と言われれば言われるほど、かえって眉唾物に思えるよ。言行一致を旨としていた会津の武士にとっては、嘘をつくというのは、卑怯なことだったんだよね。嘘というのは、自分を弁解したり、逃げ回る口実として用いられるわけだから。白虎隊の生き残りで、東京帝国大学総長などを歴任した山川健次郎の家庭では、嘘という言葉自体が存在しなかったんだって。娘照子が執筆した『吾亦紅』でも、「我が家の第一の悪徳は虚言であった。私達子供はもとより、召使達もまずこの悪徳の第一を教えられたものである」というように、謹厳実直な山川らしいエピソードが書かれていて、ついつい感心させられるよね。「フロックコートを着た乃木将軍」と評されるだけあるよ。総理大臣を蹴った男として知られる伊東正義も、「嘘をつかない」というのを政治信条にしていた。伊東も会津藩士の血が流れていたので、嘘をつくことには、ためらいがあったんじゃないかな。鳩山首相や、民主党幹事長の小沢一郎が、秘書のせいにして、知らぬ、存ぜぬを通そうとしているのって、嘘を恥じる会津の武士には考えられないことだよ。
鳩山由紀夫首相が「平成の脱税王」と呼ばれ、最大与党の民主党幹事長である小沢一郎が金まみれなわけだから、現在ほど日本の政治が混乱し、政治家の権威が失墜している時代はないよね。江藤淳は『崩壊からの創造』のあとがきで、世界崩壊を目のあたりにした感慨を書いていたっけ。「大学を中心にして、時代は急速に崩壊の兆候を示しはじめた。昨年の秋に国の外に出てみると、世界もいたるところで崩壊しつつあるように見えた。私はもっと崩れろ、もっと崩れろ、と念じずにはいられない。なぜなら私はこの瞬間を待っていたからであり、それとともにすべての偽善と虚飾が洗い流されるのを待っているからである。自然の律動はもろもろの仮構が崩れ去ったあとでなければよみがえらない。そう思って現状を見ていると、すべては望ましい方向に徐々に推移しつつあるように見える」。学園紛争が吹き荒れていた昭和44年のことだけど、あのときよりも今の方が崩壊は大規模だし、足元から崩れてきている気がしてならない。それでいて、江藤のように「すべては望ましい方向に徐々に推移しつつあるように」思えるのは、崩壊を体験することで、かえって創造へ向かうことになるからでしょう。自民党政権が倒れ、政権交代をした民主党を中心にした鳩山政権は、政治への信頼を大きく損なうことばかりしている。でも、悲観する必要はないよ。それがかえって国を思う者たちを結集させ、行動へと駆り立てる原動力になるんだから。災い転じて福としなくては。