日本を舞台にスパイを働いた人物としては、リヒアルト・ゾルゲのことがよく引き合いに出される。日本の最高機密に接していたゾルゲは、日本の本音が南進政策であることを、ソ連に報告した。その結果、ソ連は関東軍に備える必要がなくなり、西部の対独戦線に全力を投入できたのである。それが世界史を変えたとも評されている。ゾルゲはドイツ人であったにもかかわらず、モスクワで訓練を受けたスパイであった。赤軍参謀本部第四部に属していた。今回スパイ活動の疑惑が持たれている中共大使館の一等書記官も、人民解放軍の総参謀本部第二部に属していた。その点では似通っている。また、ゾルゲはドイツの新聞社の特派員、ドイツで学位を取得した政治学博士という二つの肩書を使っていたので、日独両方の政府の信頼を得ていた。ネットワークも縦横に張り巡らされ、意識するかしないかは別にして、多くの政治家や官僚、さらにはマスコミ関係者が、ゾルゲの協力者であった。活動期間も1933年から1941年の長期にわたった。その一等書記官も、同じようにおびただしい数の日本人と接触していたはずだ。とくに、TPPの交渉参加をめぐって、日本がどのような対応をするかについて、喉から手が出るほど情報が欲しかったのではないか。中共が今後の対米外交を行う上でも、大いに参考になるからだ。日本の治安当局は、その一等書記官の人脈を徹底的に洗い出すべきだろう。そうすれば、誰が国を売ったかが、白日の下に晒されるはずだから。
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