民主党政権がおたおたしているのは、権力を用いるすべを知らないからだろう。保守主義者であれば、その恐さを知っているから、セーブしようとするが、どうしていいかわからないのだ。保守派の文化人として名をはせた田中美知太郎や猪木正道、さらには勝田吉太郎もアナーキズムの研究家であったり、一時それに心酔した経歴がある。田中の場合は、極貧のルンペンプロレタリアートに、言い知れぬ共感を覚えたといわれる。猪木は社会主義の様々な流れを日本に紹介した第一人者であったが、マルクスよりはバクーニンに惹かれた。浅羽通明は『アナーキズムー名著でたどる日本思想入門』のなかで、アナーキズムと保守主義の類似性を問題にした。「保守主義者は、近代国家が自由主義を掲げるのを、その自由が徹底されたときの恐ろしさゆえに批判する。アナーキストは、近代国家の自由主義を、自由と呼べない不徹底な自由しか認めぬゆえに批判する。ベクトルはまるで逆ながら、不徹底と欺瞞、ダブル・スタンダードに敏感であるところでは両者は奇妙に一致してしまうのだ」。あらゆる権力は腐敗するわけで、それを直視する点では、まったく一緒なのである。政権交代すれば全てが解決するというのは、最初から見果てぬ夢であった。それをネットで冷笑していたのは、保守主義者特有の嗅覚で見破ったからだろう。そして、もう一方には、アナーキスト特有の権力への不信感があったからだろう。この二つの思想的潮流がネット言論の双璧であり、民主党政権の悪政にノンを突きつけたのである。
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