戦後レジームから脱却するということは、日本の心を取り戻すことでないだろうか。そこで考えなくてはならないのは、親と子の絆でないかと思う▼柳田国男の『母の手毬歌』に「親棄山」が収録されている。その有名な昔話について、柳田は「親棄山とはけしからぬ話、聴くも耳のけがれと思う人もあるだろうが、これはそういう驚くような話題を出して、まず聴く者の注意を引き寄せようとする手だてであって、じっさいには人に孝行をすすめる話なのである」と書いている▼柳田によれば、その話の筋は単純である。ある一つの国に、親が60歳になると、山に棄ててこなければならぬという、とんでもない習わしがあった。それが心のやさしい者の行いによって、そんなことをする者がいなくなったという話である。全国のどこにでもある昔話で、親孝行の大切さが説かれているのである。昔は60歳から高齢者扱いをされていたのだが、今以上にお年寄りを大事にしていたのだった▼経済合理性だけで、物事を判断してはならない。高齢化社会の到来によって、これまでは考えられなかったような認知症が問題になり、老老介護は悲惨なものがある。しかし、それでも親孝行を忘れてはならないだろう。近江聖人と呼ばれた中江藤樹は、母親の面倒をみるために、武士をやめたのである。「孝行のしたい時分に親はなし」ということわざもあるが、人間としての根本は親と子の絆なのだから。
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