武漢肺炎の感染者が爆発的に増加し、どこの国も手の施しようがなくなっている。かろうじて日本だけが感染者数と死亡者数が微増傾向で、今のところは持ちこたえている▼永井陽之助は『NEXT』1985年7月号に掲載された「『現代戦略』とクラウゼヴィッツ」のインタビューで、「自己のもつ手段の限界に見あった次元に、政策目標の水準をさげる政治的英知」を説いていた▼サーズのときの経験から、中途半端に検査体制が整っていたがために、かえって医療機関に人が殺到して、重症患者に手が回らなくなっているのが韓国である。これに対して日本は、重症者の治療を最重点に考え、軽症者には自宅待機を呼びかけている。重症者の命を救うという戦略を選択したのである▼徹底したリアリストであった永井は、危機においては「あまり雄大なヴィジョンを描いたり、大風呂敷を拡げたりすることは、はなはだ危険である」とも述べていた。決断の際には、クラウゼヴィッツが『戦争論』で言及した「摩擦」を無視してはならない。完璧を求めるのは不可能である。現場におけるミス、予見しがたい出来事、運不運ということが付き物である。「自己の持つ手段の限界」を見極め、攻めではなく、守りに徹することが大事なのである。
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