今日は、あけぼのハウスで昨年4月にもお話を伺ったことのある大西秀樹先生(埼玉医科大学国際医療センター・精神腫瘍科教授)による「治療のために必要な心のケア」の講演会に参加してきた。
直前まで体調があまり思わしくなかったので、今回は見送ろうか・・・と思っていた。が、プチ虹のサロンの二人のSさんと、Kさんも参加されるという連絡が金曜日にあり、お会いできるなら・・・と、遅ればせながら締切ぎりぎりに申し込んだ。
テーマからいえば、今、聞いておいた方がよい、と思ったのだ。「地震後、ずっと心が痛み続けています。お話を伺うことで、少しでも前向きになれればと思います。」とメールで申し込みした後、会長さんから直々にメールも頂き、とてもありがたかった。「Let’s support each other!」というメッセージだった。
会場に行く前に2人のSさんとランチをしながら、先月お会いしてからの近況報告等=自分のことも地震のことも=をした。あらためて、ああ、私は地震後のこの半月、ずーっと皆と話したいと思っていたんだと実感した。
地震後で参加者は少ないのかも・・・、と思ったけれど、とんでもない。先月と同じくらいたくさんの会員の方たちがお見えになっていた。顔見知りのレギュラーメンバーも数多くいらしていた。
講演は「がん」という言葉の意味するもの=医療関係者とすれば「進歩」だが、患者は「死」を思う=、患者は治療をする中で多様なストレスに晒されるため、100人の患者がいれば50人に精神科の診断がつくというところから始まった。
誰でも悪い知らせがあれば不安やうつ状態になるけれど、その長さと深さが問題である。正常反応であれば2週間経たずとも消えるが、2週間続けば適応障害、さらに長くなればうつ病となることを、グラフを用いて説明された。うつ病の身体症状が出ているのに化学療法の副作用と間違えることがある。体がだるい、食欲がない、考えがまとまらない、めまい等の身体症状は心の問題の可能性があることを疑う必要がある。がん医療ではうつ病の見落としがある。心と体はつながっている、ということをお話しされた。
そして大切なことは、悩みを打ち明けることのできる家族や友人の存在である、という。このことは本当に日々実感していることだ。
一つ驚いたのは、副作用の吐き気を止める薬(ノバミン)が5人に1人の割合でアカシジア(静坐不能症)を引き起こす、ということだった。下肢のムズムズ感、イライラ感等は薬をやめないと治らないという。これにより不眠となるのは本当に辛いようだ。実際に自分が試しに飲んで、一晩中階段昇降を続けたドクターがいらしたとのこと。とてもびっくりした。副作用止めで新たな別の副作用が出るのは本当に辛いことだ。
家族のケアについては、家族は第二の患者であることを強調された。100人のがん患者の家族がいれば30人に精神科の診断がつくとのこと。ストレスは患者と同じか、家族の方が多いくらいだという。家族に患者がいるということは、肉体的には健康であっても精神的には相当な負担を背負うことなのだ。だからこそ、家族はもちろん医療や社会的な仕組みを通して、皆で協力しないと乗り切れない、ということだろう。
その後、大西先生と外来で集団精神療法を行い、心理士として働いているという石田さんからお話があった。一番怖いのは決めつけてしまうこと=たとえばもう自分はダメだ等=、とお話を開始された。人それぞれに、これまでの人生で身につけた考え方のクセがある。たとえば、犬の散歩を頼まれたと仮定したときに、「犬がかわいい」と考えていれば、散歩は「ワクワクすること」で「喜んでやること」だが、「犬が怖い」と考えていれば、散歩は「憂鬱」で「どうしよう、無理・・・」という反応になる。
また、「友人のしが新聞に掲載された」という文章で、「し」の部分は「死」「詩」「師」「志」「滋(賀)」等思いつく字が数多くあるが、最初に思いついたものは1つでも(それがたとえ「死」であっても)、もう少し広くよく考える、思い込まずに他にもあるのでは、と思うことが大切である。
悩みは深く果てしないかもしれないが、困っていることが漠然としているのか、あるいは具体的にはどういうことか、漠然としたものであってもそれを突き詰めて、不安という大きな石を砕いて小さくしていくことが大切である。
小さい不安の塊の中には、実はすでに解決しているもの、考えても仕方ないもの等が集まっていることがあり、小さくしてしまえば、それを持ってでも前に進めることに気づく。これを問題解決療法という。できることを探し、できていることに気づくことが大切、と言うお話には素直に頷いた。
もちろん先が見えないという今後の不安は、私たち再発患者にとってとても大きな不安であるけれど、こうして講演会に出かけることが出来ている、ということはとてもありがたいことだ、と改めて思う。
講演後、「冷静に考えれば、そうだよねと思えることも、いざ直面すると厳しい」という感想を事務局のTさんがおっしゃった。いつもの弾けるようなパワフルな笑顔がなく、お痩せになっておられ、会長さんもおっしゃっていたとおり、本当にとても心配だ。
会長さんが最後の閉めで福島支部・いわき市から参加された方に桜の花をプレゼントされていた。一同拍手だった。乳がん患者会として今回の被災地の方たちには何もできないが、個人的にできることはしてほしい、会としては宮城、岩手、茨城県の会員あてにはがきを出そうかと思っている。年会費は自己申告で被災された、とすれば今年は無料である。これまでの阪神大震災、新潟地震の時もそうしてきた、とおっしゃった。
講演が終わり、現場で合流したKさんと4人でお茶をして帰宅した。今回の地震後、心の痛みが体の痛みを引き起こしたのを実感した。本当に心と体はつながっているのだ。そして情けなくもずいぶん弱気になってしまった。けれどみなさんにお会いして本当に良かった、と心から思った。
次回の再会を約束して別れた。
帰路、今日1日の長時間の外出を快く送り出してくれた夫と息子に春物のトップスを贈り物に買い、最寄駅まで出迎えてもらい、また外食してしまった。
日本の経済活性化のために、ちゃんと消費する、という理由をこじつけつつ。