手術という『自分の体を切る』という事態に直面して、全然知らない外科の先生に自分を委ねてしまうのか・・・・・という不安に駆られました。だけどよく考えてみると、友達付き合いをしているとしても、外科医の腕は知らないこともある・・・・・有名な先生がよいかといえばそうでもないこともある・・・・・どちらにしろ、よく知らない・・・・・し、知ることもできません。私の場合は幸い良い内科の先生にめぐり合い、先生の判断を信頼することが出来ました。それに自宅からも主人の勤務先からも近いところに県立病院はありました。ある意味運命としか言いようのないことなのではないかと思います。それに、夫や息子は他人様にそうしているではないか、自分も手術を受けよう、そう思い決めて手術の決心をしました。決心をしたらしたで、万が一の事故に備えなければなりません。多少の書き物などをして、手術予定の二日前入院の日を迎えました。
入院のための外来受診をして、最後の画像検査と口腔外科のチェックを受けることになりました。口腔内の細菌が手術結果に影響を与えるらしいとのことで、最近は術前検査に組み込まれているのだそうです。電動歯ブラシのおかげか、何の異常もありませんでした。病室に落ち着いて、手術までの予定などを聞きました。『もう止められない・・・・・』とちょっと揺れることもありましたが、『ケ・セ・ラ・セ・ラ』とも思って予定通りこなしました。娘が手術前後の付き添いにきてくれました。手術直後の事態を想像できませんでしたから、その娘の付き添いがどんなにありがたいものか、手術前は思いもよりませんでした。夫が一人暮らしをする自宅の面倒を見てもらえるのがありがたいというのは、前回の入院で良く分かっていました。
手術当日となりました。午前中術後のための硬膜外麻酔のチューブを入れられて、確認のためのレントゲン写真を撮りました。その後看護士さんのお迎えが来て、主人と娘と前日から来ていた息子に付き添われて手術室前まで行きました。手術室前で病棟の看護士さんから手術室の看護士さんに引き渡され(?)て、何となく逮捕されたような異様な気分で手術室に向かいました。主人と息子は日々慣れている局面なので(まあ立場は違っていますが)それほどでもないと思いますが、娘がどんな気持ちだったろうかと思います。息子が小さい頃虫垂炎の手術を受けることになったことがあります。同じような場面で、夫は外科の先生と一緒に手術室に入っていきました。私は手術室の入り口で制御されて、ドアが閉ざされました。あの時の口惜しさが入り混じった辛さをよく覚えています。それに私は娘に、あろうことか、『さよなら』と言ったんだそうです・・・・・!!!!!
手術台まで連れてこられて、私は本当に身一つで台に横になりました。麻酔をかけられるほんの短い間に、「馬子にも衣裳とはこのことだ」と実感したのを覚えています。手術台に乗っているのは私という意識ではなく私の体という『もの』だと思いました。・・・・・・後はもう、翌日の朝まで、何時だったのか、8時は過ぎていたように思いますが、何にも覚えてはいません。手術が長引いて予定より遅れ、『覚醒して確認してから行くよ・・・・・』と話していた息子は仕事に戻らなければならず、どんなにか気がかりだったろうかと思います。そして夫と娘の呼びかけにうなづいたのだそうですが、私は何一つ覚えておらず、一番辛いかもしれない当日の夜を何にも知りませんでした。夫と娘は、切除部分を見せてもらって手術の説明を受けたそうです。出血はしたが、輸血はしなかったと言われた外科の先生のお話しで安心したと後で聞きました。覚醒しない私に娘は帰るに帰れない気持ちだったそうですが、夫からどういう状態なのか教えられ大丈夫と言い聞かされてしぶしぶ帰ったんだそうです。
明くる朝「柿本さん」と呼び掛けられる声に気付いて目を覚ました時、手術が終わったことはわかりましたが、自分がどうなっているのか呑み込めませんでした。チューブがたくさんあるのが見えました。麻酔科の先生が来られて、気道がどうとかでその先生が担当してくださったとか・・・・・、今から鼻に通したチューブを抜くとか・・・・・、これも訳が分からないまま過ぎました。そして看護士さんから娘が来ていること、外科の病棟に戻ることなどを教えられて、これまた夢現、担架台に移されて駆け足のような速さで(と感じましたが)病室に戻りました。
このスピードが功を奏したのか、私はすっかり覚醒しました。そしたらものすごい痛みが襲ってきました。どこが痛いのかわからない、我慢できない苦しさ・・・・・悲鳴を上げそうな気持ちになっていたら、看護士さんが見つけて先生に注進、痛み止めを筋注されて落ち着きました。その後回ってこられた先生に、「あれがまた来るかと思うと恐ろしい・・・・・」とお話ししたところ、不審がって背中の麻酔剤の量をあげて下さいました。後で息子(麻酔科なんですが)に聞いたところによると、背中の麻酔は術後の痛み止めなんだそうです。多分私は手術の麻酔が効きすぎて翌朝まで覚醒しなかったくらいですから、背中の麻酔剤の量を抑えてあったんだと思います。それで一変に覚醒して、一変に痛みが襲ったのだと思っています。
そういうわけで私の手術は成功しましたが、私は思ってもみなかった『術後』を体験することになりました。これからのことはまた『続き』にしたいと思います。