尾道駅側からいくつかのフェリーが向島との連絡船として運航されている。
その一つである、駅前から出るフェリーは、私が半世紀前に高校通学で使っていた。その歴史は古いと思う。人、自転車、バイクのみが乗船できる小さな船である。それが、いまも変わらず、片道5分ほどの所要時間で、利用する人の交通手段として重宝されている。その昔と変わらぬ風情が残っているので、思い出に浸るものには嬉しい。
通学に使っていたこのルートのフェリーは、片道100円という安い値段である。当時は、いまの十分の一の10円だったことを記憶している。
向島の船着き場から歩いて数分の所に母校があったが、平成15年に統合され廃校になった。いまは、他の私立中学校・高等学校が、当時の母校の校舎を改修し使っていたが、当時の面影がいまも残っていた。
母校をあとにし、陽射しが照りつける中、歩いて15分のところに昭和の雰囲気を漂わせるラムネやサイダーをつくるお店に向かった。このお店は旅雑誌や女性誌にもよく取り上げられている。せっかく機会なので寄ってみた。
私と同世代と思われる笑顔の可愛らしいご夫人が事務所から出て来られた。雑誌等でもよく見かける顔だった。まさに昭和の”看板娘”。
もう80年近くラムネやサイダーを製造しているという。しかしながら、ラムネをビンごと持ち帰ることは出来ない。ビンは製造していないので、ここで飲んで行ってほしいとのことだった。
子供の頃、いつも飲んでいたラムネ。この炭酸が、照りつける陽射しの中で、喉を潤す清涼剤になった。話している最中にもひっきりなしにお客さんが立ち寄っていく。
しまなみ海道をツーリングするライダーや車で訪れる人たちも昭和の味を求めて立ち寄っていくようだ。
3年前の出来事だったが、時は過ぎ去り、また一つ想い出の中に加わった。機会があれば、再びこの地を訪ねることが楽しみである。