「御手洗」と書いて、通常は「おてあらい」と読むが、一方では「みたらい」と読む。その昔、歴史的には「みたらし」と呼んでいた。その「みたらし」が、いまも名称として使われているのが馴染の団子の「みたらし団子」である。
神社の近くに流れている川を通称「御手洗川(みたらしがわ)」という。特定の川の名称ではなく、神社の参拝者が手を洗ったり口をすすいだりする川のこと。その御手洗川で有名なのが京都・下鴨神社。いまでも続いている夏の御手洗祭りで販売されていた団子を「みたらし団子」と呼ぶようになった。
京都のみたらし団子は有名だが、絶大な人気を誇るみたらし団子が大阪にある。全国に名を馳せた、おっちゃん、お兄ちゃんの夜の街(半世紀前のこと。いまはビックリするほどにきれいな街に変貌)、十三にある。阪急十三駅の西改札を出て50mほどいったところに、それは見事な「喜八州(きやす)」の看板が掲げられている。いつ通っても行列が目を惹く「喜八州総本舗本店」である。
喜八洲という屋号は、創業時(昭和23年創業)に「菓子業により八洲(日本中)の皆様に、大いに喜んで頂こう」という意味合いで、名付けられたようだ。「最高の材料を使い、手頃なお値段で手作りの味を甘党のお客様に!」をモットーに名物の酒饅頭をはじめ、人気のみたらし団子、ジャンボサイズのきんつば・花ぼた餅・焼き餅などの浅生菓子から、力士最中・初霜・栗饅頭・三笠などの贈答用の和菓子まで、およそ40種類以上の和菓子を取り揃えている。大阪人の味に対応するために、全商品を本社の工場で製造しているのもこだわりひとつようだ。
商品の中でも、やはり人気一番の「みたらし団子」を求めて店頭に並ぶ。1本(108円)から買えるので串を片手に小腹の足しにという若者も多いが、5本、10本入りが飛ぶように売れる。私も、せっかくなので並び、たれ付け、焼き具合、スピード化された包装のそれぞれのテクニックを見ながら待った。
より多くのタレがからみ、団子に旨味が凝縮されるといわれている俵型の「きやすのみたらし団子」。老若男女を問わず、だれもがその味を楽しめる人気商品。
甘いたれとモチモチのお餅が絶妙に絡んだみたらし団子は、味にうるさい大阪人の胃袋を捉えている。
その味はというと、餅粉と米粉を絶妙なバランスで配合し蒸し上げた団子を、注文してから強い直火で炙る。お姉さんが「あぶり加減は?」と客一人一人に聞いてくれる。ステーキと同じように焦げ目三段階の炙り方である。「焦げ目少なく・ふつう・焦げ目多く」に分かれている。
私はふつうといったが、それでも結構な焦げ目がついている。私の後ろのオジサンは「焦げ目たっぷり」と。販売員さんは「少し苦くなるかもしれませんが・・」という返事に、オジサンは「苦いのがいいのや!」と語気を強めて返事していた。たかがみたらし団子、されど・・・である。
香ばしく焦げ目が付いたら、自社特性のタレの中をくぐらせる。タレは北海道厚岸産の上質昆布でダシをとり、香川県産たまり醤油と白ざら糖を使った喜八州独自の特別仕立。また、団子の形が俵(円筒状)なのは炙った時に焦げ目がつきやすく、また、タレの絡みをよくするためとのことだった。
歴史をつくるお店には、店のこだわりにお客さんが信頼を寄せている。味はもちろんそうだが、お店のしきたりや習慣にもなじんでいる。それに大阪人は、客がお店をつくり守ってやっているという何とも大阪らしい下町風土あふれる上目線が働いているようにも思う。
両者の歯車が絶妙にからまり動いているのが大阪の商いかもしれない。十三を本拠地に商売を育む喜八州総本舗の本旨が見えてくるようだった。
リポート&写真/ 渡邉雄二
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