好きな写経場「雲龍院」。京都 東山奥座敷にある御寺泉涌寺の別院である。いつもは本堂が写経場ではあるが、その日はひんやりした空気を感じる霊明殿だった。
雲龍院では写経をする前に、香辛料や生薬にも使われる、乾燥させた丁字(ちょうじ)のつぼみを口に含み、そして、けがれを除くとされている塗香を手に塗る。さらに少量の酒水(清水)を頭にふってから始める。
写経する時に使用する机は、後水尾天皇によって寄進された机をいま現在も使用されているというから精神的高揚がみなぎってくる。
香を含み、手を清め、そして朱墨で般若心経を写す。用紙には菊の御紋が刷られている。
静かな時が流れ、心も体もすべてが整えられていく。
書き終えて、霊明殿をでると、色がつき始めている紅葉や楓が風に揺られていた。