この句の「秋深き」は、「秋深し」と同じ。「秋さぶ」「秋闌ける」などとも言い、冬の迫った晩秋のこと。それにしても、近頃は夜になると虫の音も細り、風も冷やかだ。冬が近い。
「隣は何をする人ぞ」は作者の立ち位置が問題だ。普通、「向こう三軒両隣」、「遠い親戚より近くの他人」という諺があるくらいで、普通隣を知らないはずがない。それを知らないのだから、普通ではない。最近隣に人が引っ越してきたとか、自分が引っ越してきたとか、も考えられる。又は、旅先など旅館やホテル、知人の家でのことかもしれない。いづれにしてもこんな句、知らないことを自慢しているようで、面白くも何ともない。
さて、支考の笈日記にこの句が登場する。作者は芭蕉、死の十数日前のことである。どうでも良いような句に解説が付くと、俄然光彩を放ち出し、歴史に残る名句となる。俳句とは、実に不思議な世界である。