子供の頃、天文少年だった時期がありました。
きっかけは有名な天文学者の伝記を読んだこと(私のお気に入りはウィリアム・ハーシェルでした)と、たまたま新聞で読んだ新星発見のニュースでした。天文への情熱は、中学生の頃まで続きましたが、受験勉強が忙しくなるとともに興味が失われてしまいました。(今は時々、望遠鏡で星を見ることはあります)私のような元天文少年も多いと思いますが、同じような状況にあっても情熱を失わず、彗星発見という夢を実現させた人達を紹介したのが、この本です。雑誌に連載したものを、本にまとめたものですが、大変面白く読めました。
彗星捜索者のことをコメットハンターと言います。彼らに共通するのは、彗星を捜索することへの高いモチベーションです。この本で紹介されている人達は、ほとんどが50歳以上で、捜索を始めてから20年以上の長きに渡って活動し、彗星を発見したベテランです。職業は、自営業、先生、公的機関の方が多く、普通の会社員はほとんどいません。比較的時間の融通が効くことと、絶対条件として空が暗い地域を活動の拠点としていることが共通しています。また、機材は様々ですが、フジノン150mm双眼鏡で広範囲を眼視で捜索するか、デジタルカメラで撮影した画像をパソコン画面で探す方法が主流のようです。
彼らが彗星捜索を始めたきっかけは、夜空に浮かぶ彗星の姿を見たことと、自分が発見した彗星には、自分の名が残るという名誉欲みたいなものが動機になっているようです。現代は名誉よりも金銭的な成功をもて囃す時代なので、彗星捜索のような地味な活動には日が当たらないようです。でも戦後の復興期には、日本人の彗星発見がトップニュースになった時代もありました。
ホンダと言えば、本田宗一郎さんを思い出しますが、彗星捜索の先駆者だった本田実さんのことも忘れてはいけない。彼は、戦後の荒廃の中、彗星発見で多くの日本人を勇気付けたそうです。日本人だってやればできる。世界にホンダの名を最初に知らしめたのは彼でした。
彗星発見には運も必要で、努力だけでは報われない面もあります。しかし、そういうひとつの事に打ち込む人達の生き方や業績を読むと、自分の生活にも大変参考になります。自分の人生において何がやりたいのか、たまには考えてみる必要がありそうです。