スティーヴン・ジェイ・グールドの「がんばれカミナリ竜」は、1990年代に発表された本です。久し振りにこの本を読んでみました。
この科学エッセイシリーズは、「ダーウィン以来」以来私の愛読書にしています。この「ダーウィン以来」のシリーズは、表題だけ見ると子供向けの読み物みたいなのですが、(「がんばれカミナリ竜」の場合、電車の中で本を取り出す時には、少し勇気がいるのです。表紙にでかい恐竜の絵が描いてあって、子供の読み物のようなタイトルが書いてある)中身はなかなか硬派で、読み応えがあります。
いくつかの科学エッセイが編集されていますが、この中で面白かったのは、英文タイプライターの文字の配列と進化についてのエッセイです。現在パソコンで使われているキーボードですが、このキーボードのことを「QWERTY」(クワーティ)と言います。何故この様に呼ぶのかと言えば、第一列のキーが「QWERTY」と並んでいるからです。で、このキーの配列なのですが、英語の単語の70%以上は「DHIATENSOR」の10種類の文字でタイプできるそうで、そうであればこのキーを使いやすい第2列に並べればよいはずなのですが、実際には並んでいないのです。以前は、確かにそういう配列のタイプライターがあったのですが、何故か消え去ってしまいました。
そこで、グールドの考察です。「QWERTY」が体勢を占めた理由というのは、機種の改良等のハードウェアーというよりは、教師や推進者といったソフトウェアに負うところが大きいという見方です。これが広く使われるきっかけとなったのは、1888年にタイプの早打ち競争が行われ、たまたまキーの位置を暗記していた「QWERTY」のユーザーが勝った(これがブラインドタッチの起源)ことで広く宣伝されたのが、優秀性と勘違いした多くのユーザーに使われる要因になったということです。これには、その他の多くの偶然も重なったことが「QWERTY」に取って有利に働いたということが言え、同じように「生物の進化」というのも偶然が重なった結果として、現在に至っているということで理解すべきというのが彼の見解です。
大変判りやすい例えと、教養溢れる文章がこの本の好きな理由です。ものの起源を探るというのは、なかなか面白いものです。
グールドが鬼籍に入ってしまい、このような知的好奇心を擽るエッセイが読めなくなってしまったのが、今でもとても残念です。
PS グールドの「QWERTY」に関する記述は、実はどうも誤りなのだそうです。でもグールドは古生物学者であって、「QWERTY」配列の歴史を調査している専門家ではないのですから、彼が間接的に他から引用したとすれば、誤りは仕方のないことかもしれません。彼は既に鬼籍に入り反論の余地が無いのですから、当時のグールドは当時は正しいと言われていた情報を基に考察していたと解釈するべきなのかも。