500年前の画家の生活を知る書簡集。
アルブレヒト・デューラーは、ドイツ・ルネサンス期の有名な画家です。彼の家譜や覚え書き、手紙等の自伝的な資料を集めたのがこの本です。デューラー家には、記録癖があったらしく、家系や手紙に家の事や置かれた状況がこと細かに記されています。500年前の手紙によって、当時の画家とパトロン、支えてくれる家族や仲間の様子が知ることができて、とても興味深い内容です。
デューラーの母は、大変な多産であって、24年間で18人も子供を生んだことが記されています。第三子であるデューラー54歳の時に書かれた家系ですが、その時点で生きていた兄弟はわずか3人で、ほとんどが幼くして或いは成人した後に亡くなっているようです。現在の状況を考えるととても想像できないくらい、厳しい生活だったようです。画家としての彼も自己の生活のための金策に苦労し、パトロンや支援者に絵やお金に纏わる出来事を細かに報告している様子がこの書簡から読みとれます。自画像に見られるような静かに佇む彼の姿とは違って、ブラックジョークが好きだったり、パトロンに対して辛辣な意見を書いたりする画家であり、或る意味画商でもあったデューラーの真の姿を知ることができます。
松丸本舗は、著者が考えた理想の本棚を持つ実験的な書店で、オープンからわずか3年で閉店してしまった。この本では、この書店の企画から閉店までの経緯を著者自身が解説し、またこの書店を訪れた著名人の感想も併せて収録している。
松岡正剛の本を何冊か読んだことがあるが、予備知識が無い自分には難解でとっつきにくかった印象がある。博覧強記で独自の観点を持つ彼の理想の書店がどのようなものか興味があり読んでみた。
まず写真を見た印象として、予想した通り緻密に練られたコンセプトで、ある程度教養のある人には理解できる面白い書店だったようだ。本をテーマごとに分けて、本と本の繋がりが判るように並べる。それで知の世界の広がりを表現する。書店にはフリーに動けるアドバイザーを置いたり、本棚の形を工夫したり、本を縦横に積み上げたり、本に纏わるグッズを提案したり、様々な面白い試みがされていたらしい。本好き(特に教養書)には、居心地の良い空間だったのだろう。著名人の寄稿も、この書店の面白さを好意的に紹介する内容が多かった。
わずか3年で閉店してしまったのは、商業的には上手くいかなかったということだろう。本棚も見た目は面白いけれど、難しい単行本が多く、気になる本があっても本棚から抜くのに抵抗があったのかもしれない。本があり過ぎて居心地が良くなかったのかもしれない。購買意欲を上げる何かが足りなかったのだろう。それは実際に行った人しか判らないと思う。もし今後、松丸本舗が再開される事があれば、是非訪れてみたいと思う。
ちなみにこの本は、500ページ余りで内容も上手くまとめてあるが、分厚くて持ちにくくて疲れた。著者の専門である編集工学を活用して、もう少し薄くて持ちやすい本にして欲しかった。
著者の考える装丁とは、「本の個性を読み込んで、かたちにする。飾りで読者の気を惹くのではなく、その本にとっての一番明確で必要なものを明確に演出する」
本を手にする時、まず気になるのは装丁です。タイトルの文字、本の形、厚さ、デザインなど自分の好みに合っていそうな装丁の本は、それだけで内容への期待が高まります。この本では著者の作品の中から選んだ120冊を紹介しています。
装丁のタイトル文字、イラスト、本の構造、アートの流用などをテーマ順に著者の様々なアイデアを具現化した作品が記載されていて、とても面白かった。大半は文芸作品のカバーですが、この本に記載された小説はほとんど読んだことが無いため、果たして装丁と本文の印象が同じかどうかが少し気になりました。
この装丁という仕事は、本の製作の一分野ですが、デザイナーのオリジナルのアイデアが反映できる唯一の領域ではないかと思います。アート系としては、地味だけど羨ましくなる仕事です。