神が宿るところ

古社寺、磐座、不思議・パワースポット、古代史など極私的な興味の対象を見に行く

月山神社(出羽国式内社・その3)

2015-01-17 23:18:29 | 神社
月山神社(がっさんじんじゃ)。
場所:山形県東田川郡庄内町立谷沢字本沢31(「月山」(標高1,984m)頂上)。「羽黒山」方面から山形県道211号線(月山公園線)に入り、終点が「月山」八合目駐車場。そこから登山道を約2時間半歩く。なお、冬期間には参拝が困難であるため、「出羽三山神社」の三神合祭殿で祭祀が行われる。
社伝によれば、推古天皇元年(593年)、崇峻天皇の第三皇子・蜂子皇子が三本足の霊烏に導かれて先ず「羽黒山」を開山し、次いで「月山」と「湯殿山」を開山したのが創始という。蜂子皇子は、父の崇峻天皇が蘇我馬子に暗殺されたことから、聖徳太子の勧めにより宮中を脱出し、船で北へ向った。八乙女浦(現・山形県鶴岡市由良)に上陸し、出羽三山を開いて蔵王権現を感得したとされる。これは伝説に過ぎないが、宝亀4年(773年)、「月山神」に神封2戸寄進という記事(「新抄格勅符抄」)があり、古い由緒のある神社であることは確かである。
現在の主祭神は「月讀命」(ツキヨミ)で、アマテラスの弟神・スサノオの兄神として「イザナギの三貴子」の1柱ともされるが、「記・紀」には殆どエピソードがなく、謎の神である(なお、「記・紀」には性別が判る記述はない。)。ツキヨミ(ツクヨミ)を主祭神とする神社も極めて少なく、①伊勢国の内宮(皇大神宮)別宮の月讀宮、外宮(豊受大神宮)別宮の月夜見宮、②式内社では、壱岐国の「月読神社」と、これを勧請したとされる山城国の「月読神社」(「葛野坐月読神社」)、③当神社、くらいしかという(その他は、殆どがこれらの神社から勧請したものと思われる。)。ツキヨミを祭神としながら、「月山神社」というのは、本来はツキヨミとは関係が無く、月の神が宿る山としての「月山」そのものを信仰するものであったのだろう。出羽三山では、羽黒山が現世、月山が死、湯殿山が再生を司るとの伝承があるというが、月の神に不死または再生の信仰があることは世界各地の伝説にみられるという。月の満ち欠けにより、満月から欠けていって新月で消えても、再び三日月から満月に戻るというサイクルが死と再生を表したものと考えられたのだろう。古代日本でも、万葉集に「月夜見の 持てるをち水」という言葉があり、ツクヨミが「変若水(おちみず)」という若返りの霊薬を持っていると信じられていたらしい。「月読」というのも、月の満ち欠けを読み取ることによって、暦=時の支配者を示したものとされることもある。こうしたこともあって、中世には「月山(神)」は浄土信仰とも結びつき、阿弥陀如来が本地仏とされるようになったと思われる。
ところで、「月山」は古代にも田川郡にあったはずであるが、「日本紀略」の貞観10年(868年)条、「日本三代実録」仁和元年(885年)条、「延喜式神名帳」のいずれにも、「月山神」は飽海郡にあったとされている。これにより、「月山」という山自体を祀ることから離れて、少なくとも9世紀半ばには「月山神社」(社殿)は出羽国府に近い飽海郡に移されていたことが判る。因みに「鳥海山大物忌神社 吹浦口之宮」の社伝によれば、貞観10年(868年)に吹浦の「大物忌神社」に勧請されたとする。何故そういうことになったのかは不明だが、思うに9世紀半ばには律令制が緩み、東北地方では蝦夷の反乱が頻発していたので、出羽国式内社9座のうち名神大社である「鳥海山大物忌神社」と「月山神社」をともに祀り、そのパワーで治安を取り戻そうとしたのではないだろうか。因みに、「日本三代実録」によれば、「大物忌神」と「月山神」は殆ど並列して神階が上がっていくが、当初は「月山神」のほうが「大物忌神」よりも高位にあった(貞観6年(864年)に「月山神」が従三位、「大物忌神」は正四位上)。それが途中で追い着かれ、元慶4年(880年)には、ともに従二位に上った(ただし、「大物忌神」は勲三等、「月山神」は勲四等)。なお、「本朝世紀」天慶2年(939年)の記事では、「大物忌神」は正二位となっている。これは、「大物忌神」が戦乱を予言する神として尊崇されたことによるものかと思われる。
さて、中世以降は「出羽三山」の主峰として修験が隆盛したが、明治以降には神仏分離により、明治7年に国幣中社、明治18年に官幣中社、大正3年には官幣大社(東北地方で唯一)に進んだ。現在では、「出羽神社」・「湯殿山神社」と合わせて宗教法人「出羽三山神社」となっている。


出羽三山神社のHP

玄松子さんのHPから(月山本宮)


写真1:「月山中之宮」の社号標。正面に「御田原神社(みだはらじんじゃ)」(祭神:奇稲田姫神)


写真2:「なで兎」。古くから月読神の神使(使わしめ)は兎であり、この兎を撫でると悪運から逃れられるという。


写真3:「月山本宮」参道入口(「月山」登山道)の鳥居


写真4:しばらく登って振り返ると、雲の向こうに「鳥海山」が見えた。


写真5:9合目の「仏生池(ぶすいけ)」と「真名井神社」


写真6:登山道の難所「行者返し」


写真7:「行者返し」途中の「来名戸神社」


写真8:「月山神社本宮」。これより先は撮影禁止。
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