だんだんと速く、ナチュラルに、狂ったピエロのように、その調子で……、回転するステージの周辺には無数の指揮者がみえる。だんだんと秋らしく、よりパワフルに、路地裏の猫のように……。ついにすべての指示を無視することに決めると回転は止まり、目の前には一人の指揮者が残った。#twnovel
ドレミの上を乱れ打ち、ドからドの上を行きつ戻りつして、ついに鍵盤を乗り越えてあらゆる場所を叩いた。鍵盤をひっくり返して、鍵盤の裏側を叩いた。棒を投げ出して、今度は指だけで叩いた。次は鍵盤を投げ出して、棒だけとなり歩き始めた。歩き出し踊り出し、徐々にそれは激しさを増して暴れ出していく。僕の肩の上に、ついにそれはやってきた。
「痛い、痛い」
熊と一緒になって、歌いながら踊りながら僕を攻撃した。突然、電池が切れたように眠った。
(あっ、眠った)
ソファーの端っこで、今はその寝息だけが聞こえる。タコが近づいてくるとソファーの横の床に座った。(ソファーの端っこから落ちたりしないように)
目覚めた時、僕はいない。(僕はいなくなる人だ)
・
何を書こうかと迷っている。何かを書き始めればいいのだが迷っているのが好きなものだから、しばらくは迷っていることになる。そうして迷っていると白くなり、僕は何でもなくなる。
ゆっくりと空から落ちていた。ゆっくりと感じるほどに落ちてくるのならそれは雪に違いない。落ち葉ではない。そう確信したくて、しばらく外を見ていた。確信は得られないまま、木、ビル、壁、コーン、それは背景だけになり、僕は窓の外の警備員を見つめていた。警備員は少しも動かなかったのでどれくらいの時間が経ったのかわからない。雪だ。また雪が降ってきた。雪だ。確かに雪が降ってきたのだ。もうすぐ12月の列車が僕の体を貫いて行き過ぎるだろう。僕は書くことによって時間を遡って行くことができる。けれども、いったいいつまで行けばいいのだろう。
池を覗くようにカップを覗き込むとその中に、空が見えた。コーヒーがなくなったので、真っ白い。雪は、もう止んでいる。
「切符を拝見いたします」
・
「痛い、痛い」
熊と一緒になって、歌いながら踊りながら僕を攻撃した。突然、電池が切れたように眠った。
(あっ、眠った)
ソファーの端っこで、今はその寝息だけが聞こえる。タコが近づいてくるとソファーの横の床に座った。(ソファーの端っこから落ちたりしないように)
目覚めた時、僕はいない。(僕はいなくなる人だ)
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何を書こうかと迷っている。何かを書き始めればいいのだが迷っているのが好きなものだから、しばらくは迷っていることになる。そうして迷っていると白くなり、僕は何でもなくなる。
ゆっくりと空から落ちていた。ゆっくりと感じるほどに落ちてくるのならそれは雪に違いない。落ち葉ではない。そう確信したくて、しばらく外を見ていた。確信は得られないまま、木、ビル、壁、コーン、それは背景だけになり、僕は窓の外の警備員を見つめていた。警備員は少しも動かなかったのでどれくらいの時間が経ったのかわからない。雪だ。また雪が降ってきた。雪だ。確かに雪が降ってきたのだ。もうすぐ12月の列車が僕の体を貫いて行き過ぎるだろう。僕は書くことによって時間を遡って行くことができる。けれども、いったいいつまで行けばいいのだろう。
池を覗くようにカップを覗き込むとその中に、空が見えた。コーヒーがなくなったので、真っ白い。雪は、もう止んでいる。
「切符を拝見いたします」
・
「少しだけ離れることはできますか?」
「一緒に中に入ることはできませんか?」
それはできないというのでタコは自分の代わりにユウの胸にプーちゃんを抱かせた。
「嫌だ! ママがいい!」
泣き叫んで抵抗するユウはドアの向こうに消え、それは堅く閉ざされた。けれども、泣き叫ぶ声はより一層激しさを増して、ドアを突き破った。必死に励ましたりなだめたりする看護師さんの声も、すぐにその嵐の中に呑み込まれてしまうのだった。
「大丈夫。」
撮影に寄り添えなかったママが呼びかけた。タコは、ドア越しに昔話を始めた。
・
トンネルに入り、トンネルを抜ける度に空は濃く深まってゆくようだった。バッテリーの残量が少なくなった。
「しあわせに暮らしました」
過去形は、すべてを過去に葬ってしまう。今までにあった、何もかもが別れに結びついてしまう。
僕は一冊の本を探して、12月の隅々を探し回っていた。膨大な数の本があった。人を避けたり、猫と話したりしながら、入り組んだ道を進んだ。徐々に自分の望むものが近づいているような匂いがして、胸が高鳴った。けれども、それは錯覚だった。似た形をしているけれど、それは微妙に離れたもの、あるいは全くかけ離れたものだった。これだけの数があるのだから、きっと大丈夫……。歩き始めた時に抱いていた気持ちは、少しずつ落ちて行き、次第に歩き疲れていった。同じ道に戻り、同じ人を見た。人は同じ場所でじっとしてただ一冊の本と向き合い続けていた。それは、僕がまだ見つけられないもの。これだけの数があっても、ないということがあるのか。どこを歩いていても、もはや意味なく同じ道であるように思え、やがて自分が探しているものが何であるか、思い出せない時が続いた。
突然、雲行きが変わり、ベルが鳴り、夜が落ちてきた。
トンネルを抜けると、そこは全く新しい別の色を持った表紙が並ぶ道だった。雨上がりの匂いが記憶を呼び覚ました。足は軽く、何かを知っているように、自らの進むべき方向に進んでいた。曲がり角を越えたところに、本はあって月の光を浴びて輝いていた。
「あるじゃないか」
見つけたことがうれしくて、もう手を伸ばす必要もなかった。
(お世話になりました)
僕は最初のタイトルを消し去った。そして、新しい名前をつけて、窓に向けて送信ボタンを押した。
その時、12月の列車をトンネルが呑み込んだ。
「一緒に中に入ることはできませんか?」
それはできないというのでタコは自分の代わりにユウの胸にプーちゃんを抱かせた。
「嫌だ! ママがいい!」
泣き叫んで抵抗するユウはドアの向こうに消え、それは堅く閉ざされた。けれども、泣き叫ぶ声はより一層激しさを増して、ドアを突き破った。必死に励ましたりなだめたりする看護師さんの声も、すぐにその嵐の中に呑み込まれてしまうのだった。
「大丈夫。」
撮影に寄り添えなかったママが呼びかけた。タコは、ドア越しに昔話を始めた。
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トンネルに入り、トンネルを抜ける度に空は濃く深まってゆくようだった。バッテリーの残量が少なくなった。
「しあわせに暮らしました」
過去形は、すべてを過去に葬ってしまう。今までにあった、何もかもが別れに結びついてしまう。
僕は一冊の本を探して、12月の隅々を探し回っていた。膨大な数の本があった。人を避けたり、猫と話したりしながら、入り組んだ道を進んだ。徐々に自分の望むものが近づいているような匂いがして、胸が高鳴った。けれども、それは錯覚だった。似た形をしているけれど、それは微妙に離れたもの、あるいは全くかけ離れたものだった。これだけの数があるのだから、きっと大丈夫……。歩き始めた時に抱いていた気持ちは、少しずつ落ちて行き、次第に歩き疲れていった。同じ道に戻り、同じ人を見た。人は同じ場所でじっとしてただ一冊の本と向き合い続けていた。それは、僕がまだ見つけられないもの。これだけの数があっても、ないということがあるのか。どこを歩いていても、もはや意味なく同じ道であるように思え、やがて自分が探しているものが何であるか、思い出せない時が続いた。
突然、雲行きが変わり、ベルが鳴り、夜が落ちてきた。
トンネルを抜けると、そこは全く新しい別の色を持った表紙が並ぶ道だった。雨上がりの匂いが記憶を呼び覚ました。足は軽く、何かを知っているように、自らの進むべき方向に進んでいた。曲がり角を越えたところに、本はあって月の光を浴びて輝いていた。
「あるじゃないか」
見つけたことがうれしくて、もう手を伸ばす必要もなかった。
(お世話になりました)
僕は最初のタイトルを消し去った。そして、新しい名前をつけて、窓に向けて送信ボタンを押した。
その時、12月の列車をトンネルが呑み込んだ。