眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

牛待ち家族

2013-05-08 21:30:28 | 夢追い
 牛丼は45分待ちだった。ボードに名前を書いて待たなければならない。先に待っていた子供がふらふらとして、その内こちらの方に寄りかかってきたので支えた。どこの子なんだ? ポケモンと書かれた下に名前と牛丼(並)と書いて待つ。
「どうしたの?」
 新しくやってきた客が店の奥を覗き込んでいる。
「食器が足りなくなって……」
「うそ。絶対何かある」
 何かわけがある。他に理由があるとひそひそ声で言いながら、案外人は待つ生き物のようだ。待っている者同士で親睦会が開かれることになって、ちょうどバックヤードの奥が野原になっているので、そこで山菜狩りをという話になったが、それには加わらずカウンターで待つことにした。2つ隣の男と少し会話を交わした。

「この辺りで?」
「道の向こう」
「よく来るの?」
「よくというほどでもないが」
 つれの男が瓶を持ってビールを注ぎ、続けてこちらにも向かって来そうな気配を感じたので、目を逸らした。(いっそこのまま出てしまおうか)店外には、制服を着た警官が2人、長槍を真っ直ぐ持って立っていた。何か事件があったのだろうか。その影響で、段取りが遅れてしまったのか、それとも牛丼が一通り作られるのを待って、店長自身が逮捕されるのかもしれない。
「20分待ちです」
 新しく入ってきた客が、店に入ったところで迷っている。
「15分でいけるそうです」
 奥を覗き込んで従業員が細かな訂正を加えると、男はならばと扉を閉めて中に入ると隣に座った。男は2つ隣の男と知り合いなのだった。突然、話題はその男が主導して荒っぽいもの、物騒なものへと傾いていく。気がつくと2本同時に煙草を吸っている自分がいた。これは灰皿か、これもそうか、と灰皿を3つ使いながら、代わる代わる2本の煙草を吸っていた。

 親睦会に行っていた人も、みんな多彩なトッピング材を抱えて戻ってくるとテーブルに着いて満席となった。もう、みんなは相手を名前で呼び合っていて、1つの家族のようになっている。いよいよその時は迫っていた。
 奇妙な連帯感の中で、もう待ち切れないという空気と、残り僅かな待ち時間を惜しむような空気が、交じり合っていた。
「タイトルは何にします?」
 議長がみんなに問いかける。
「待つ屋はどうです?」
 なるほどという声が上がる。
「待つわってどう?」
「うち、その方が好きやわ」
 吉野さんに続いて、賛同の声が、次々と上がった。

コメント
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