仕掛けに備えて身構えているとドリブラーはふしぎなおどりを踊りはじめた。
「おちょくってるの?」
「踊っているとアイデアが湧くのさ」
「じゃあ、まだ今はないんだね」
ならば今がチャンス。踊りの隙を突いてボールを奪える。
「飛び込むな!」
ベンチからの指示が俺の足を止める。
「どうして?」
行かなければ奪えないじゃないか。
「味方のフォーローを待て!」
デュエルで奪えるのに。
「時を稼げ! 話しかけろ!」
監督に逆らってベンチに下がりたくはない。
「いつもどこで踊っているの?」
「踊り出したらそこがステージさ」
「怖くはないの?」
「何をそんなに恐れる?」
「ボールが足から離れてる。俺取れそうなんだけど」
「はあ? それにしては距離があるじゃないか」
「わけあって今は詰めれないんだ」
「そうか。まあ俺には関係ないけどさ」
「踊りは楽しい?」
「決まってるだろ。アイデアがどんどん湧いてくる」
「俺を抜くつもりなのか?」
「ああ、時が来たらそうするよ。お前も踊ってみなよ」
「俺?」
「そんな風に突っ立ってたら、いざという時に対応できないぜ」
(だとしたらどういう優しさだ)
話しながら見つめている内に、俺の体は徐々に揺れ始めていた。
「ほら、恥ずかしがってないで」
「いや別に」
惑わされるな。俺はただ時間を稼げばいいのだ。
「俺と同じじゃなくていいんだぜ。好きに踊ればいい」
「俺はダンサーじゃない」
「俺だってそうさ」
「今はそうは見えないけどな」
「個を切り取って見れば何にだって見えるだろう」
「それはまあそうだろうが」
「俺たちは今デュエルの最中にいる」
「本当か」
俺自身の意思だけで動けるならいつでも勝てるのにな。
「こうしている間にも無数の仕掛けが温められているのだ」
「無駄な時間ではないと俺も信じたい」
援軍はまだか。ただ待つことは時を虚しくする。
俺はもう待ち切れそうもない。
「本気で勝とうと思うなら新しい仕掛けが必要だ」
「そうか」
「だから踊っている!」
「楽しそうだな」
「デュエルはどこにある?」
「至る所にあるんじゃない?」
「そう。負けん気の中にあるのだ。
そしてボールは踊りの中にあり、
踊りは人生の中にある」
「そういうもんか」
「だから踊っている!」
「だったら俺も!」
もう理由なんてどうでもいい。
互いの援軍がやってくると俺たちを取り囲むように踊り始めた。やっぱりみんなも踊りに来たみたいだな。
(ボールはどこだ?)
いやもうそんなことはどうでもいいだろう。
「踊れ! 踊れ!」
主審も駆けつけて、笛を鳴らしながら踊っている。
そうだ。
これが、
俺たちのフリースタイル・フットボールだ!
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