眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

証文の出し遅れ

2020-11-13 01:07:00 | 幻日記
 後ろに待つ者がいないから、それほど落ち着いていられるのではないか。男は金を払う折になって、ポイントカードをさがしている。
「お持ちでしょうか」
 膨らんだ財布に顔を埋めるようにして、幾層に連なるポケットを探っている。ございますでしょうか……。こちらとしては、待つ以外に何もすることがない。純粋な待機。人生にはそのような時間もある。お客様、プロポーズしながら指輪をおさがしですか。よっ、泥縄名人!
「なかったです」
「かしこまりました」
(で、ないんかーい! なんや、ないんかーい!)
 純粋な待機から純粋タイムロス。人生の時間の半分以上は、他人のために消費しなければならない。

 客が去った後に人生の時間を哀しんでいると床を走る物が目についた。中型のゴキブリだった。すぐに隣の部屋の戸棚に行き緑色のスプレーをさがす。ラッカー、ネズミ、556、アリ。違うな。形はみんな似ているけどどれも違う。目当ての物が見つからず、赤白のスプレーを取って現場に戻った。

(ほいっ!)

 既に奴は逃亡した後だった。
(おらんのかーい! 待ってないんかーい!)

 シューーーーーーーーーーーーーーーーーーー♪

 何もいないカーペットに向けて惜別の噴射。

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