裁判員に選ばれた。事件は凶悪な連続不倫である。そう聞いただけで気が重かった。いや面倒くさい。行きたくない。しかしこれという事情もなく、行かなければ自分の身が心配だ。
「国外追放が妥当でしょう」
気づくと私の体は激しい議論の中にあった。
「前例はそうではないでしょう」
「前例?」
「時代が違うんだよ、時代が」
裁判ではまず前例が重視されるはず。私の認識も既に古い可能性があった。口を開くのが恐ろしい。できることなら何も言いたくない。(早く帰りたい)
「被告は当時4日もろくに寝てなかったのですよ」
「責任能力を問えるのか?」
「問えるでしょう」
「あなたいつも寝てるんでしょう」
かなり踏み込んだ議論だ。
「私はもっぱら昼寝でして」
「昼夜逆転ですか」
「それは罪深い」
「それのどこが罪なんです?」
「ところで、あなた……」
あっ。気づかれた。
やっぱり何も意見せずに済むということはない。
「あなたはどういう立場ですか?」
あー、えーと、えーと、えーと。
「一旦話を整理しましょう」
そうだ。少し論点がずれているじゃないか。
「そうですな」
「犠牲者は何人でしたか」
「えーと、現在わかっているのは……」
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アンテナを芸能面に尖らせた
うちの国では不倫がニュース
(折句「揚げ豆腐」短歌)
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