一つ手前の駅で降りた。ふらふらと家とは反対の方へ僕は歩き始めた。見知らぬ街の方へ行きたくなった。見知らぬ街を欲する自分が時々目覚める。駅から少し行くと細い道に出た。空が低い。学生たちが横一列になって歩く。もう雨は上がったようだ。僕は傘を閉じた。物憂い表情をした女が風船を配っている。こちらの方まで手が伸びてきそうなので、少し膨らみながら通り過ぎた。タブレットを手にサラリーマン川柳を募る男たち。
「お兄さん。一ついかがですか」そんなにパッと浮かぶものだろうか。
街頭インタビューに立つ犬。
「パパの好きなとこを教えて」
なかなか答える者がいないようだ。犬が嫌いなのかパパが嫌いなのか、避けて通る人が続いた。その時、水色のランドセルを背負った女の子が駆け寄ってきた。
「まあかわいい!」ぎゅっと犬を抱きしめながら言った。
「大好き! パパと同じくらい!」
見知らぬ街は時を忘れさせる。自分を空っぽにしてくれる。無になって歩く内に歩いていることも忘れている。どこを見てもカフェは人でいっぱいだ。
ああなんかもう疲れたねひとり旅。
硝子に顔を寄せた拍子に店の旗が倒れてきた。立てようと何度試しても立たない。旗を持ってもがいていると若者が近づいてきた。
「出発は何時ですか」
・
ちゃんと眠れない時、デタラメな夢を見る。散らかりっぱなしの部屋がもっと散らかるような夢。その中ではハラハラしたり迷ったり誤ったりする。現実と同じように感情も揺れる。目覚めた時には、遠くへ旅して帰ってきたような気分になる。特に筋書きがあるわけでもなく、夢の中で何かを成し遂げたわけでもないけど、どこか清々しい余韻のようなものが残っている。断片的な風景が消えない内に、枕元でメモを取る。ささやかだけど、思い出を大切にしたい。
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