眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

あなたが主役

2020-06-01 09:20:01 | オフサイドトラップ
「選ばれたのはうれしいですけど、少し野心を抱いていたので、少し残念です」
「いえいえ、あなたは選ばれたのだから、すごい人ですよ」
「少しの小遣いにでもなればと、本当は思っていたんです」
「小遣いどこかろか、これから幾らでも、方法次第では入ってきますよ」

「でも、最初に100万はかかるんですよね。それもこちらから負担する条件なんですよね」
「まあそれは、前にも申し上げたとおり、必ず近い将来に倍にも十倍にもなって返ってくるものですから」
「だといいですけど、どうもそこのところが半信半疑でして。自分に対してですけど」
「無理もありません。最初はみなさんそうおっしゃいますから。逆に、そのような賢明な方だからこそ、後に成功できる可能性が高いと私共は考えております。十分に検討してからのご判断で結構ですから」
「昔から、疑い深い方でして。子供の頃からですけど」

「職業的にも悪い資質ではないと思いますよ。ですが、あなたの作品の素晴らしさに疑いを挟む余地はないと私は思います。あなたの作品はとても素晴らしかったです」
「そうですかね? 完全な自己満足だと、親しい人はみんな言ってますけど。親しいと言っても、さほど親しいと言うか……。つまり、その辺の人が」
「私から言わせれば、それはその人たちの見る目を疑うべきではないでしょうか。その人たちは、あなたの作品の良さを理解するセンスに欠けていた。そういうことはよくありますよ。たまたまあなたの近くにいて理解の少ない人の意見よりも、むしろより多くのものを見て経験豊富な私たちの意見の方に、耳を傾けていただきたいと思うのです」

「彼らは正直だから、意外に信用しているのです。私の目の前で、つまらないって言います。清々しいくらいです」
「厳しい人たちのようですね。ですが、一面的な評価です。狭いところでの評価を真に受けすぎるのも考えものです。私たちの目は、すべての面において客観的で、より公平です。あなたの作品は実に素晴らしいものでした」
「つまらないと素晴らしいの、ギャップがまだ埋まらないんですけどね」
「わかりますよ。でも、それを埋めることが、これからの私たちの仕事になると思うのです」

「少し、言ってもらえると助かるんですけど、どこが良かったとか……」
「言葉のたたずまいが、素晴らしいと思いましたね。それを身近な場所に留めておくのはもったいないと思います。ぜひもっと大きな世界に向けて、発表の場を広げようじゃないですか。その素晴らしさをわかってくれる人は、発表の場が広ければ広いほど、より多く見つけられるはずです。ぜひそのお手伝いを、私たちにさせていただきたいと思います。私共は、決して労力を惜しまずに、あなたの作品への深い愛と情熱を持って、世界に向けた後押しをさせていただきます」

「たたずまいですか? うーん。普通じゃないですかね。みんなは普通じゃないって言いますけど、特に悪い意味で」
「いいえ、断じてそんなことはありません。とても素晴らしいものです。自信を持っていただいて結構です」
「もっと狭いところで、この辺がとか、具体的になかったですかね。ないかもしれませんが」

「おっしゃることはよくわかりますが、私共はある一点をピックアップして良し悪しをつけるやり方には反対です。あの部分が良かった、あの部分は悪かった、あの部分は退屈で、あの部分は感動したと、個別に例を挙げて評価することはいくらでもできるんです。ですが結局のところ、それをやると1つ1つバラバラの話になってしまい、話としてはやはり小さな話に終わってしまうのです。そういうことは本当は作品を作り上げる段階では緻密に検証されるべき事柄なのですが、評価する段階に至ってはやはり大切なのは、全体としてのバランスです。私たちは一歩下がったところから、全体を見通してトータルで作品を評価します。そして、それが私たちの変わらない最終評価です。そこにあなたの作品が選ばれたということなんですね」

「ありがとうございます。トータルでよかったんですね。なんとなく理解しました」
「わかってくださると幸いです。どうか自信を持って、自身の作品に向き合っていただきたいものです」

「自信があったということがないんで。子供の頃から」
「素晴らしかったですよ。私の言葉で自信を持ってください。それが第一歩ですから」
「多くの人の目に触れることができるのなら、その方がいいような気がしてきましたね」
「きっと夢が膨らみますよ。私たちは、夢のお手伝いをするだけですけれど。主役はあなたです」

「本当に私が主役になれますかね」
「なれますとも。あなたはそのために選ばれたようなものですから。なれないはずがないんです」
「本当に選ばれたんですよね」
「あなたが素晴らしいから、選ばれたんですよ」
「ずっと、つまらないって言われていたんだけど」
「いえいえ、つまらないはずがない」
「そうですかね」

「そうですよ。何と言っても、世界観が素晴らしい」
「ありがとうございます」


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