「私がいたところでは何もかもが落ち着いていて、緩急というものがなかった。こうして追い立てられたり、行き詰まってしまうのも悪くはない。元には戻れなくても、私はここに来たことを楽しみたい。力を失った自分にできることを今は探したい」
ここは本当に地球なの。
ポメラとの距離が100万キロほど開いていた。好きなものを前にして指が止まることが恐ろしかった。紙とペンを使って下書きを殴り書きしている。(きれいには書けない時もある)
「中途半端に飲みたくない」
ランチには決まってコーラを飲んでいた。あの日のおじさんの言葉が理解できた気がした。一度ポメラが開いたらとことん打ち込みたいのだ。ポメラがいない間、自分が失われていく不安が募る。想像することができなかった世界。僕は僕だろうか。クリエイティブだろうか。誰が知るだろうか。夢かもしれない。地球にはまだ夢がある。
スタート地点は山の頂上にあるというので、皆嫌がっていた。スタッフも、観客も、選手もだ。走り出す前に体力を吸い取られてしまうようで、馬鹿げている。きっとよい記録は出せないだろう。そう思うとなぜか気楽でもあった。
もうすぐカテゴリ・バスがやってくる。バスを待つ人々の前で、僕はまな板小説のあらすじについて語っている。彼女はまな板の上で葱を切る。葱を蓄えることが彼女のサイクルであり生き甲斐にもなっていた。けれども、彼女が消えた瞬間、まな板は掲示板と誤認され心ない書き込みに彼女の聖域は荒らされてしまう。少年と彼女の交わることのない闘いが続く。彼女は強く葱を切る。葱を切ることは道を歩くことにつながっている。ある時、彼女は葱を切る仕草を責められる。男はまな板にされたことに憤っている。なぜなら、それは言葉の受け皿だったからだ。
自作にいついてなら遠慮なく語ることができる。バスがやってきた。僕は乗ることができなかった。ここにいるのは選ばれた人々だった。
マラソンのコースは電車の中を通っていた。逆行して走るため、観客はみんな逆を向いていた。すれ違うワゴン・ロボットが毎回コップをこぼすのを、僕は手助けしてしまう。ロボットは少しはにかみながら、申し訳ないという顔をする。
「いいんだよ」ほっとけないよ。
タイムが削られて行く。けれども、その行いは観衆の信頼を集め、後に大きな成果を生むのではないかと囁かれている。
改札を抜けるとカテゴリの神さまが横を走っていた。
「何が足りないのです?」
「数えきれるようなものではない」
「例えば何です」
「例えようもない。たどり着くゴールを探しているのか」
「それがみんなの物語でしょ」
「足りない何かを探すより欲しいものを1つ見つければいいだろうに」
「その何が違うと言うんですか」
「次元だよ」
「このルートは合っていますか」
「ここに来るのは早すぎたようだな」
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