この肩の痛みはどこからくるのだろう。
腕? 首? 頭?
そう単純なものとも考えにくい。それはもっと複雑な痛みのように思えた。他人の体から、遠い街から、白い雲から、夏の向こうから、癒えぬ悲しみから……。ここからは見えないところから、それは日に日に強さを増しながらやってくる。
いったいどこから?
それがわかれば、いくらでも手を打てるのに。
今度は胸の真ん中にまた違う痛みが襲ってくる。
それは目の前に正座している名人から受けるプレッシャーかもしれない。今までの相手とは別次元の強さに浮き足だった私は、すべての駒組みで後手を引く形となった。バランスの悪さを突かれ仕掛けを許すと駒損が重なり、中盤では大きな戦力不足に陥った。
私は援軍の到着を待っていた。
15時。
おやつを運んできたのは女スパイ。
名人に気づかれないように、私は特別な細工が施されたマカロンを開く。中に仕込んであるのは飛び道具一式だ。これがあれば形勢挽回は可能だ。和服の袖に潜ませながら、無事に駒台へ移動することに成功した。
マカロンの食べられる部分を美味しくいただき、コーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせた。一気に充実した戦力。もはや憂いはない。
(逆襲の一手は決まった)
私は新しく加わった角を駒台からつかみ取ると2度、3度空打ちしてから、敵陣深くに打ち込んだ。
6一角!
「先生その角は……」
記録係がタブレットを持ちながら身を乗り出していた。
「その角はどこから来ましたか?」
「あそこだよ」
そう言って私は未来を指す。
名人は頭を抱え長考に沈んだ。
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