眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

スパイ角(ルーツ&ツール)

2021-02-20 10:42:00 | 将棋の時間
 この肩の痛みはどこからくるのだろう。
 腕? 首? 頭?
 そう単純なものとも考えにくい。それはもっと複雑な痛みのように思えた。他人の体から、遠い街から、白い雲から、夏の向こうから、癒えぬ悲しみから……。ここからは見えないところから、それは日に日に強さを増しながらやってくる。
 いったいどこから?
 それがわかれば、いくらでも手を打てるのに。

 今度は胸の真ん中にまた違う痛みが襲ってくる。
 それは目の前に正座している名人から受けるプレッシャーかもしれない。今までの相手とは別次元の強さに浮き足だった私は、すべての駒組みで後手を引く形となった。バランスの悪さを突かれ仕掛けを許すと駒損が重なり、中盤では大きな戦力不足に陥った。
 私は援軍の到着を待っていた。

 15時。
 おやつを運んできたのは女スパイ。
 名人に気づかれないように、私は特別な細工が施されたマカロンを開く。中に仕込んであるのは飛び道具一式だ。これがあれば形勢挽回は可能だ。和服の袖に潜ませながら、無事に駒台へ移動することに成功した。
 マカロンの食べられる部分を美味しくいただき、コーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせた。一気に充実した戦力。もはや憂いはない。

(逆襲の一手は決まった)

 私は新しく加わった角を駒台からつかみ取ると2度、3度空打ちしてから、敵陣深くに打ち込んだ。
 6一角!

「先生その角は……」
 記録係がタブレットを持ちながら身を乗り出していた。

「その角はどこから来ましたか?」
「あそこだよ」
 そう言って私は未来を指す。
 名人は頭を抱え長考に沈んだ。


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