ゴール前に幾度も上がるクロスは、ストライカーの前を通過していくばかりだった。ゴールに必要な特急券を持つ者は現れなかった。ゲームはノンストップで進みアディショナルタイムに突入した。
最後の最後までゴールのない長いトンネルを抜ける出口は見つからなかった。もはや互いに力を使い果たし、決定的な仕事をするような者はいない。花火の上がらないスコアレスドロー。いつ笛が鳴ってもおかしくはない。互いに傷つかない結果を受け入れて歩いている選手もいた。5分、10分、15分……。それでも笛は鳴らなかった。これは変だ。
それぞれのポジションを捨てて選手たちが審判を取り囲んだ。
「何やってんだ。時間が止まっている」
「ゴールが見たかったんだ」
審判はストライカーを見上げて言った。
「俺たちだって!」
「みんな必死にやった結果でしょう」
結果を受け入れることもプロの宿命だ。
「観客だって見たかったはずだよ」
「だけど、それでも終わらせないと」
「そうだよ。みんなを家に帰してあげないと」
「コンプライアンス守らないとね」
「どこにも帰りたくない!」
(思ってた試合じゃなかった)
審判はまだ駄々をこねていた。
「俺たちだってそれはそうだけど」
サイドバックが気持ちを寄せた。
「しっかりして!」
キャプテンが厳しく言い放った。
「今日が終わるから明日が始まるんでしょ。区切りをつけるのがあなたの役目だ」
「うん」
審判は膝を震わせながら立ち上がった。
「さあ笛を」
長いベルが鳴る。
「まもなく名古屋行き最終列車が発車いたします。
ご乗車の方はお急ぎください」
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