碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今月の「碓井広義の放送時評」 2012.02.07

2012年02月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今月は、この冬の連ドラについて書きました。


今期の連続ドラマ
主人公の「葛藤」に注目

シナリオ(脚本)はドラマの設計図であり、その良しあしがドラマの成否を決める。シナリオの核となるのは「葛藤」だ。主人公が目の前に立ちはだかる壁や困難と格闘していくプロセスにドラマが生まれる。それは警察ドラマでも恋愛物でも同じだ。何も障害がなかったり、全てが思い通りに進むならドラマは成立しない。見るに値する「葛藤」こそが物語の推進力なのだ。もちろん、それを体現する役者の力量も欠かせない。

 背景に迫る力作

そんな視点で今期の連続ドラマを見た時、まず評価したいのが山崎豊子の小説を原作とする「運命の人」(TBS-HBC)だ。1971年の沖縄返還協定に絡む密約をスクープした新聞記者と妻、資料を持ち出した外務省女性事務官の物語。実際にあった機密漏えい事件が元になっているが、当時は、密約問題よりも記者と事務官の男女関係に世間の目が向けられてしまった。報道の自由が封じられていった背景にドラマがどこまで迫れるか。この冬一番の力作である。

次に挙げたいのは、岡田恵和脚本の「最後から二番目の恋」(フジテレビ-UHB)。中年男女の恋愛における本音と建前、つまり心の中の葛藤が程よいユーモアとともに描かれている。主演の中井貴一と小泉今日子の〝大人の演技〟にも落ち着いた味わいがある。

3本目は医療サスペンス「聖なる怪物たち」(テレビ朝日-HTB)だ。病院の看護師長と妹が企てた秘密の代理出産が物語の軸となっている。妹が学園グループの御曹司と略奪婚したものの、子どもを産めない身体になったことから始まる暴走。一見昼ドラのようだが、「聖職者」と呼ばれる医師や教育者の内幕も暴いていく展開は見応えがある。

 大河ドラマ苦戦

最後に、NHK大河ドラマ「平清盛」は予想以上の逆風に苦しんでいる。要因は清盛という主人公の設定自体にある。活躍の舞台は平安末期で、日本人の好きな幕末や戦国時代と比べてなじみが薄い。また一般的に、清盛は悪玉・悪役というイメージが強い。つまり時間的にも人物的にも、視聴者との間に距離があるのだ。

とはいえ、兵庫県知事に「汚い」と言われた映画風の画像は陰影に富んでおり、主演の松山ケンイチのエネルギッシュな演技にも目を見張るべきものがある。今後、平清盛という人間が抱える葛藤を視聴者にどう伝えていくか。それが課題だ。

(北海道新聞 2012.02.06)


今週の「読んで(書評を)書いた本」 2012.02.06

2012年02月06日 | 書評した本たち

2日に1度はアマゾンから本が届く。

というか、2日に1度はアマゾンに注文しているからだけど。

それでいて、パッケージを開ける時、何が入っているだろうと、その都度どきどきする(笑)。

今日届いたのは、内田樹・中沢新一『日本の文脈』(角川書店)と、佐藤卓己『現代史のリテラシー』(岩波書店)でした。


さて、今週の「読んで(書評を)書いた本」は、以下の通りです。
 
岡崎武志 
『古本道入門~買う楽しみ、売るよろこび』 中公新書ラクレ

小長谷有紀 
『ウメサオタダオと出あう~文明学者・梅棹忠夫入門』 小学館 

久住昌之 
『昼のセント酒』 カンゼン 

ジョン・クリーランド 小林章夫:訳
『ファニー・ヒル~快楽の女の回想』 平凡社ライブラリー


・・・エロス文学の古典「ファニー・ヒル」、懐かしかった(笑)。

しかも、本学英文学科の小林章夫先生による新訳だ。

ただ、あの小林先生が、あの「濃厚なシーン」のあれやこれやを、こつこつ訳している光景を想像して、ついニヤリとしてしまいました。


* 上記の本の書評は、『週刊新潮』(2月9日号)
  に掲載されています。



松本にて

2012年02月05日 | 日々雑感

講演があり、松本へ行ってきた。

駅前は整備が行われたようで、やけにきちんとしている。

でも、昔の松本駅を知っている者としては、ますます日本中にある「同じような駅と駅前」になっていくようで、勝手な感慨だとわかっていても、少し残念。

駅から講演会場のある街の中心部へと歩く。

高校時代、帰り道の途中で、ほぼ毎日立ち寄った本屋さんの「遠兵(えんひょう)」も、「鶴林堂(かくりんどう)書店」も今はない。

これは寂しい。





現在も当時と同じように迎えてくれるのは、女鳥羽川沿いにある民芸茶房「まるも」だ。

松本に来た時には必ず寄る。





松本民芸家具の椅子やテーブル、昔ながらのほどよい暗さにほっとする。

450円のブレンドコーヒーを飲みながら、講演内容の最終チェック。

「今度は、もっとゆっくりとした時間を、ここで過ごしたいなあ」と思いつつ、2月の信州らしい冷気につつまれた外に出ました。




ガンバレ、受験生!

2012年02月04日 | 大学


本学も、「入試ウイーク」に突入した。

公表されたデータによれば、私が所属する新聞学科の一般入試「志願者数」は550名。

昨年の最終志願者数468名を上回った。

これまで60名だった「入学定員」が、2012年度から80名に拡大されたことも影響していると思う。

とはいえ、定員80名には推薦入学なども含まれているため、一般入試での「募集人員」は66名だ。

もちろん欠席者もいるはずだが、単純計算だと8.3倍となる。

うーん、なかなかの倍率です(笑)。

オープンキャンパスに来てくれた高校生たちの、説明を聞く時の真剣な顔が思い浮かぶ。

「ここで学びたい!」と本気で思ってくれる諸君には、ぜひ入って欲しいものだ。

4月にキャンパスで会いたいと思う。

ガンバレ、受験生!


『日刊ゲンダイ』で、大河ドラマ「平清盛」についてコメント

2012年02月03日 | メディアでのコメント・論評

『日刊ゲンダイ』のNHK大河ドラマ「平清盛」をめぐる記事で、コメントしました。

関西の視聴率は15.7%
NHK「平清盛」 
なぜ盛り上がらないのか?

スタートから1ヶ月で早くも黄色信号だ。松山ケンイチ主演のNHK大河ドラマ「平清盛」の視聴率が低迷している。

ビデオリサーチによると、関東地区は前週より0.3ポイント増の17.5%。これでも低調だが、本来は関東より高くてもいい、ドラマの舞台になっている関西地区がもっとひどい。

例の兵庫県知事による「画面が汚い」発言が影響したのか、初回18.8%→17.2%→18.1%で、4回目は15.7%まで落ち込んだ。

しかも、大河は「幕末、戦国時代に次いで源平合戦モノは視聴率が取れる」というヒットの法則がある。なぜパッとしないのか。

上智大学教授の碓井広義氏(メディア論)がこう言う。

「ひと言でいえば、今回の大河は“遠い”存在。平清盛が活躍した平安末期と、現代人が想像しにくい時代で親近感が抱きづらいのです。

また源平合戦とはいえ、ヒーローの源義経ではなく、敗者といったネガティブなイメージの強い平清盛を主役にした作品では感情移入がしづらい。

加えて、清盛が白河法皇の落胤という設定は飛躍し過ぎた感もある。時間と気持ちの面とダブルで遠さを感じさせるのが、要因のひとつでしょう」


キャスティングにも難点がある。源頼朝役の岡田将生が語り手も担当するが、聞き取りづらいという評判が多い。

それに――。

「清盛は名前こそ有名ですが、織田信長や徳川家康と違ってどんな人物か、誰もが把握している存在ではありません。となれば、制作側は丁寧に説明する演出が求められるが、そのフォローが欠けている」
(碓井氏=前出)


NHK放送文化研究所が「日本人の好きな歴史上の人物トップ10」なる調査を発表している。それによると、義経は7位だが、清盛はランク外――。

視聴者を置き去りにした企画、演出だったか。

(日刊ゲンダイ 2012.02.02)


岩波書店への応募資格は・・・

2012年02月02日 | 大学

今日は朝から夕方までずっと、4年生全員が集合しての「卒論口頭試問」でした。

中には、現在も就職活動中の学生が何人かいて、「3月31日まで頑張ります」。

一方、新聞には、こんな記事が・・・・


岩波書店、採用で「著者か社員の紹介必要」

岩波書店が2013年度の定期採用をめぐり、応募資格の条件として、「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」とホームページで告知していることが分かった。

事実上の縁故採用とも取られかねない告知方法で、厚生労働省就労支援室は「あまり聞いたことはない。採用の自由はあるが、厚労省としては基本的に広く門戸を開き、応募者の適性、能力に応じた採用選考をお願いしている」と話している。

同社では13年度、若干名の採用を予定している。

(読売新聞 2012.02.02)


こりゃ、すごい(笑)。

というか、「ホームページで告知」ってのも、すごいです。

さっそく岩波書店のHPを開いたら・・・

『2013年度の社員採用は一般公募ではなく、岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介を応募条件として行います。詳しい応募要項はここをクリックしてご覧ください。』

おお、ほんとだ。

さぞ身元も確かで優秀な人材が集まることだろう(笑)。


『日本経済新聞』で、「ラジオ通販」についてコメント

2012年02月02日 | メディアでのコメント・論評

『日本経済新聞』の「ラジオ通販」に関する記事でコメントしています。

市場規模、なんと770億円!(笑)

100万円を超える(家の)外壁や屋根のリフォームの注文も結構あるそうです。


シニア、通販はラジオで 
なじみの声”信頼”
実物見なくても「つい買っちゃう」

ラジオ番組の合間に流れる通信販売コーナーで買い物をする人が増えている。日本通信販売協会(東京・中央)によると、2010年度のラジオ通販の市場規模は約770億円で5年前に比べ6割増。

東日本大震災後にラジオ聴取者が増えたことも足元の販売を引き上げる。インターネットやテレビによる通販が盛んとなり商品の選択肢が広がるほど、なじみのパーソナリティが薦める “信頼感”が際立ち、シニアらの購買意欲を引き出している。

(中略)

ラジオ通販の利用者は「8割方がシニア層」(文化放送)だ。注文方法の9割が電話で、ネットは1割にすぎない。電話注文の際に、商品の詳細を尋ねる客も多く、通話時間が10分を超えるケースも珍しくないという。

実際の商品を見ずに買い、返品率も1%未満と低いラジオ。この現状についてメディア論が専門の上智大学の碓井広義教授は「ラジオは聴取者個人に語りかけてくるパーソナルメディア。聴取者はパーソナリティーの商品紹介を疑似的な口コミ情報として受け取っている」と指摘している。

(日本経済新聞 2012.02.01)

阿川佐和子さん、円熟の「聞く力」

2012年02月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

『日刊ゲンダイ』に連載中の番組時評「TV見るべきものは!!」。

今回は、阿川佐和子さん出演のトーク番組、TBS土曜朝7時半「サワコの朝」について書きました。

つい先日、阿川さんの新著『聞く力』(文春新書)も発売されたところです。


阿川佐和子のバランス感覚が
冴えるトーク番組

「週刊文春」で必ず読むものに、「阿川佐和子のこの人に会いたい」がある。すでに900回を超えるが、この手のインタビューは「その場ならでは」の話をどれだけ引き出せるのかが命。阿川佐和子は自分と相手との距離のとり方、またどこまで突っ込んだ話を聞くかなど、そのバランス感覚が見事である。

そんな阿川のトーク番組が「佐和子の部屋じゃなく「サワコの朝」(TBS)だ。先週のゲストは清水ミチコ。自身のモノマネを点線系、震え系などと分類しながらの解説と実演は楽しく、憧れの矢野顕子や恩師としての永六輔にまつわる裏話も興味深かった。「聞き手が阿川だから」の雰囲気がうかがえた。

テレビは雑誌と違ってゲストの表情や声のトーンまで伝えてしまう。いいことを言っていても顔を見れば嘘がバレてしまう怖さがある。また、いわゆる番宣やPRで出てきたゲストもその意図ばかりが目立って恥ずかしいものだ。その点、この番組は気持ちがいい。

これまでの放送の中では作家の綿矢りさ、宮沢りえ、バイオリニストの高嶋ちさ子などの回も見ごたえがあった。普段は見えない部分、知っているようで知らない側面が自然な形で出ていたからだ。天才的〝聞き役〟アガワ、円熟の技である。

(日刊ゲンダイ 2012.01.31)