今月1日、広島地方裁判所は、鞆の浦の埋め立て・架橋をめぐる裁判で、「埋め立て差し止め」の画期的判決を出しています。
それに関して、「しんぶん赤旗」に講評記事が掲載されました。
昼のの常夜灯_02
国民の財産・景観を守る明快な判決
(主文)「広島県知事は、広島県及び福山市に対し、本件公有水面の埋立てを免許する処分をしてはならない」
1日、広島地方裁判所は、公有水面埋立法に基づく免許の差し止めを求める「靹の浦の世界遺産登録を実現する生活・歴史・景観保全訴訟」において、原告の請求を認容する明快な判決を出しました。
判決は、本件免許によって景観利益に重大な損害を生ずる恐れがあり、差し止め訴訟が適法であると判断、原告の請求をほぼ全面的に認め、免許が法の要件を満たしておらず違法と判断しました。
景観利益有する者の訴え適法と
言うまでもなく、本件の埋め立て架橋工事が、鞆の浦のかけがえのない歴史的文化的景観を破壊し、復元不可能の事態を生み、世界遺産登録への道も閉ざすことになると、その公共事業を違法・暴挙と断じ、対して、鞆の歴史的、文化的価値を高く評価したのです。
判決理由は本案争点前の判断として「鞆の景観は美しい景観であるだけでなく、歴史的、文化的価値を有するものであり、このような鞆の景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者の景観利益は、私法上の法律関係において、法律上保護に値するものである。そして、公有水面埋立法及びその関連法規の規定のほか、上記の景観利益の性質に照らせば、公有水面埋立法及びその関連法規は、上記の法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むものと解せられる。
また、鞆町に居住している者は、鞆の景観による恵沢を日常的に享受している者であると推認されるから、行訴法37条の4第3項所定の法律上の利益を有する者に当たる。さらに、本件埋立免許がなされれば、上記景観利益について重大な損害が生ずるおそれがあると認められ、これを避けるため他に適当な方法があるともいえない。したがって、上記景観利益を有する者の訴えは適法である」としました。
景観への影響と知事裁量権では
さらに、本案の争点に関する判断は、本件事業が鞆の景観に及ぼす影響並びに広島県知事の裁量権の範囲に言及、「広島県及び福山市(以下「事業者ら」という)が予定している対策は、鞆の景観侵害を補填するものとはなり得ない。鞆は、私法上保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸内海における美的景観を構成するものとして、また、文化的、歴史的価値を有する景観として、いわば国民の財産とも言うべき公益である。しかも、本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば、本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が鞆の景観に及ぼす影響は、決して軽視できない重大なものであり、瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから、これについての政策判断は慎重になされるべきであり、その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり、その判断内容が不合理なものである場合には、本件埋立免許は、合理性を欠くものとして、行訴法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を越えた場合に当たるというべきである」との基本認識にたって、事業者の言う「必要性及び公共性」の6項目について吟味。
そのいずれに付いても、結論は、「根拠とずる各点は、調査、検討が不十分であるか、又は、一定の必要性、合理性は認められたとしても、それのみによって本件埋立それ自体の必要性を肯定することの合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって、広島県知事が本件埋立免許をすることは、行訴法37条の4第5項所定の裁量権の範囲を越えた場合に当たるから、主文第2項のとおり、これを差し止めることとする」と厳しく断じました。
歴史に刻まれる画期的な判決に
福山市鞆町の住民ら163人が、07年4月23日、県を相手取って提訴、以来原告、被告双方からの証拠調べも尽くされ、裁判長自ら直接現地の検証を行い、09年2月の結審、そして今回の判決、2年5カ月の長期にわたり十分な時間をかけて判断された判決です。
その内容はまさに、画期的・歴史的な司法判断・判決であり、長く歴史に刻まれるものです。
鞆港_07
時代の大きな流れ反映、今後に生きる
「景観法」や「改正行政事件訴訟法」、「歴史・町づくり法」など数年来の法整備や、都市や自然の景観を重視した町づくりが広がるもとで、どのような司法判断がなされるか、全国が息を殺して見守る中での判決でした。
時代の大きな流れを反映し、それを促進する判決が、全国で自然・歴史景観や文化財を国民の財産、生活権(基本的人権)として主張する、同様の訴えを起こしている今後の運動を、大きく激励することは疑いの余地のないものです。
振り返れば、1983年の事業決定から26年を経て、広島県と福山市は、なお時代錯誤の計画にしがみつき、勝手な理屈を並べ住民を翻弄しながら公共事業を強行しようとしています。こうした在り方に、日本の文化度を問う問題として、事業の賛否を問う住民運動への裁断、免許差し止めの判断が下された意義ははかりしれません。
まさに、日本の今後の在り方を決める判決と言えます。
万葉集に8首 歴史彩る記録
広島県福山市の鞆の浦は、瀬戸内海のほぼ中央部に位置する港町です。
東西の潮流が合流するため、古くから潮待ちの港として、政治・経済・文化・情報の集積の港として繁栄しました。万葉集に8首もの歌が残されているのをはじめ、中・近世の歴史を彩る多種多様な記録が残されています。江戸期朝鮮通信使節は、鞆港を「日東第一形勝」(日本一の景勝地)と称賛。その後大正14年、国の名勝鞆公園に指定され、昭和9年には日本初の国立公園に指定されています。
最近では、07年に「美しい日本の歴史的風土100選」にも選ばれ、円形の港の美しさと多数の国、県、市が指定する文化財。さらに、世界で唯一とされる近世の港湾施設いわゆる5点セットが現存し、世界遺産候補地を調査するユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は、比肩すべきもののない貴重な遺産として世界総会で2度にわたって事業中止を求めて決議を挙げています。
鞆の浦の文化的価値を高めるさらなる理由の一つに、以上のような空間の恵沢を受け、住民の昔ながらの平穏な生活が今も続いているということを加えなければなりません。いわゆる博物館のようでなく、また鞆の浦の文化的価値を高めるさらなる理由の一つに、以上のような空間の恵沢を受け、住民の昔ながらの平穏な生活が今も続いているということを加えなければなりません。いわゆる博物館のようでなく、また観光客に媚びを売る観光地でもなく、飾らない、ゆったりとした人々の日常に、新しい今日的な価値と魅力があるのではないでしょうか。
控訴強行した県と市の首長
原告と「住民の会」は、10月6日控訴しないよう、県・市両首長への直接申し入れを求め、要望書を提出。結局、両首長は、求めに対し一貫して拒否の態度を変えず、15日控訴を強行しました。
国民的財産とする景観の公益・価値を否定、当該景観は住民らの暮らし・文化そのものとの原告の訴えを排し、「判決を認めれば必要な事業ができなくなる」などの浅薄なすり替えを理由に、貴重な世界遺産級とされる文化財と景観・住環境破壊の、従来型公共事業に固執しています。
(高橋善信・鞆の自然と環境を守る会事務局長)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2009年10月20日、21日付けに掲載。
【写真は、私が2007年11月に訪れた時のものです】
今、行われている神戸市長選挙でも、開発を優先にした市政から、市民のくらし・福祉・教育を優先にした市政に転換したいものです。
それに関して、「しんぶん赤旗」に講評記事が掲載されました。
昼のの常夜灯_02
国民の財産・景観を守る明快な判決
(主文)「広島県知事は、広島県及び福山市に対し、本件公有水面の埋立てを免許する処分をしてはならない」
1日、広島地方裁判所は、公有水面埋立法に基づく免許の差し止めを求める「靹の浦の世界遺産登録を実現する生活・歴史・景観保全訴訟」において、原告の請求を認容する明快な判決を出しました。
判決は、本件免許によって景観利益に重大な損害を生ずる恐れがあり、差し止め訴訟が適法であると判断、原告の請求をほぼ全面的に認め、免許が法の要件を満たしておらず違法と判断しました。
景観利益有する者の訴え適法と
言うまでもなく、本件の埋め立て架橋工事が、鞆の浦のかけがえのない歴史的文化的景観を破壊し、復元不可能の事態を生み、世界遺産登録への道も閉ざすことになると、その公共事業を違法・暴挙と断じ、対して、鞆の歴史的、文化的価値を高く評価したのです。
判決理由は本案争点前の判断として「鞆の景観は美しい景観であるだけでなく、歴史的、文化的価値を有するものであり、このような鞆の景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者の景観利益は、私法上の法律関係において、法律上保護に値するものである。そして、公有水面埋立法及びその関連法規の規定のほか、上記の景観利益の性質に照らせば、公有水面埋立法及びその関連法規は、上記の法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むものと解せられる。
また、鞆町に居住している者は、鞆の景観による恵沢を日常的に享受している者であると推認されるから、行訴法37条の4第3項所定の法律上の利益を有する者に当たる。さらに、本件埋立免許がなされれば、上記景観利益について重大な損害が生ずるおそれがあると認められ、これを避けるため他に適当な方法があるともいえない。したがって、上記景観利益を有する者の訴えは適法である」としました。
景観への影響と知事裁量権では
さらに、本案の争点に関する判断は、本件事業が鞆の景観に及ぼす影響並びに広島県知事の裁量権の範囲に言及、「広島県及び福山市(以下「事業者ら」という)が予定している対策は、鞆の景観侵害を補填するものとはなり得ない。鞆は、私法上保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸内海における美的景観を構成するものとして、また、文化的、歴史的価値を有する景観として、いわば国民の財産とも言うべき公益である。しかも、本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば、本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が鞆の景観に及ぼす影響は、決して軽視できない重大なものであり、瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから、これについての政策判断は慎重になされるべきであり、その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり、その判断内容が不合理なものである場合には、本件埋立免許は、合理性を欠くものとして、行訴法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を越えた場合に当たるというべきである」との基本認識にたって、事業者の言う「必要性及び公共性」の6項目について吟味。
そのいずれに付いても、結論は、「根拠とずる各点は、調査、検討が不十分であるか、又は、一定の必要性、合理性は認められたとしても、それのみによって本件埋立それ自体の必要性を肯定することの合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって、広島県知事が本件埋立免許をすることは、行訴法37条の4第5項所定の裁量権の範囲を越えた場合に当たるから、主文第2項のとおり、これを差し止めることとする」と厳しく断じました。
歴史に刻まれる画期的な判決に
福山市鞆町の住民ら163人が、07年4月23日、県を相手取って提訴、以来原告、被告双方からの証拠調べも尽くされ、裁判長自ら直接現地の検証を行い、09年2月の結審、そして今回の判決、2年5カ月の長期にわたり十分な時間をかけて判断された判決です。
その内容はまさに、画期的・歴史的な司法判断・判決であり、長く歴史に刻まれるものです。
鞆港_07
時代の大きな流れ反映、今後に生きる
「景観法」や「改正行政事件訴訟法」、「歴史・町づくり法」など数年来の法整備や、都市や自然の景観を重視した町づくりが広がるもとで、どのような司法判断がなされるか、全国が息を殺して見守る中での判決でした。
時代の大きな流れを反映し、それを促進する判決が、全国で自然・歴史景観や文化財を国民の財産、生活権(基本的人権)として主張する、同様の訴えを起こしている今後の運動を、大きく激励することは疑いの余地のないものです。
振り返れば、1983年の事業決定から26年を経て、広島県と福山市は、なお時代錯誤の計画にしがみつき、勝手な理屈を並べ住民を翻弄しながら公共事業を強行しようとしています。こうした在り方に、日本の文化度を問う問題として、事業の賛否を問う住民運動への裁断、免許差し止めの判断が下された意義ははかりしれません。
まさに、日本の今後の在り方を決める判決と言えます。
万葉集に8首 歴史彩る記録
広島県福山市の鞆の浦は、瀬戸内海のほぼ中央部に位置する港町です。
東西の潮流が合流するため、古くから潮待ちの港として、政治・経済・文化・情報の集積の港として繁栄しました。万葉集に8首もの歌が残されているのをはじめ、中・近世の歴史を彩る多種多様な記録が残されています。江戸期朝鮮通信使節は、鞆港を「日東第一形勝」(日本一の景勝地)と称賛。その後大正14年、国の名勝鞆公園に指定され、昭和9年には日本初の国立公園に指定されています。
最近では、07年に「美しい日本の歴史的風土100選」にも選ばれ、円形の港の美しさと多数の国、県、市が指定する文化財。さらに、世界で唯一とされる近世の港湾施設いわゆる5点セットが現存し、世界遺産候補地を調査するユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は、比肩すべきもののない貴重な遺産として世界総会で2度にわたって事業中止を求めて決議を挙げています。
鞆の浦の文化的価値を高めるさらなる理由の一つに、以上のような空間の恵沢を受け、住民の昔ながらの平穏な生活が今も続いているということを加えなければなりません。いわゆる博物館のようでなく、また鞆の浦の文化的価値を高めるさらなる理由の一つに、以上のような空間の恵沢を受け、住民の昔ながらの平穏な生活が今も続いているということを加えなければなりません。いわゆる博物館のようでなく、また観光客に媚びを売る観光地でもなく、飾らない、ゆったりとした人々の日常に、新しい今日的な価値と魅力があるのではないでしょうか。
控訴強行した県と市の首長
原告と「住民の会」は、10月6日控訴しないよう、県・市両首長への直接申し入れを求め、要望書を提出。結局、両首長は、求めに対し一貫して拒否の態度を変えず、15日控訴を強行しました。
国民的財産とする景観の公益・価値を否定、当該景観は住民らの暮らし・文化そのものとの原告の訴えを排し、「判決を認めれば必要な事業ができなくなる」などの浅薄なすり替えを理由に、貴重な世界遺産級とされる文化財と景観・住環境破壊の、従来型公共事業に固執しています。
(高橋善信・鞆の自然と環境を守る会事務局長)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2009年10月20日、21日付けに掲載。
【写真は、私が2007年11月に訪れた時のものです】
今、行われている神戸市長選挙でも、開発を優先にした市政から、市民のくらし・福祉・教育を優先にした市政に転換したいものです。