自然エネルギー 世界の挑戦③ スペイン・アンダルシア
スペインは太陽熱発電で世界をリードしてきました。太陽熱発電所が次々と建設されている同国南部アンダルシア州を訪ねました。(セビリア=小玉純一)
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太陽熱発電 進む技術革新
州都セビリアから自動車で1時間弱。セ氏40度の炎天下、ヒマワリ畑の彼方に、光輝くタワーが見えてきました。集光型タワー式太陽熱発電所「ヘマソーラー」。スペイン語で「太陽の宝石」を意味します。5月24日に商業運転を始めたばかりです。
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太陽光集めて
近づくにつれタワーの明るい部分を直視できなくなりました。到着すると、記者にもサングラスのほか、ヘルメット、安全靴、ベストが貸与されました。
支度を済ませ、警備担当者の運転する自動車で所内を回ります。建設した企業セネルの広報担当者マリアナ・フェルナンデス氏が同行し発電の仕組みを説明しました。
タワー上部の集光器(レシーバー)に、反射鏡(ヘリオスタット)で光を集め、その熱を溶融塩(高温で液体となった塩)に伝えてお湯を沸かし、発生した蒸気でタービンを回します。
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反射鏡の面積は一つあたり、115平方メートル。太陽を追尾し効率よく集光します。タワーを中心とする直径1500メートルの円形に、2650基が敷設されています。
タワーの高さは500メートル。タワーの集光器はセ氏900度超まで耐えられ、溶融塩はセ氏500度以上に達します。
24時問発電可
ヘマソーラーの新しさは溶融塩熱伝導の技術にあるといいます。運営会社の発表によれば、蓄熱により太陽光がない時でも15時間発電可能。冬を含め24時間発電を数カ月続けることができます。
フェルナンデス氏は「世界をリードする技術に携わって働けるのは誇りです」と語っていました。
ヘマソーラーの出力は1万9900キロワット。アンダルシア州の2万5千世帯に電力を供給しています。年3万トン以上の二酸化炭素排出量を削減できる見通しといいます。
(つづく)
太陽熱発電と太陽光発電
太陽熱発電は太陽光を集めた熱を利用し発電します。蒸気でタービンを回すのが一般的。太陽光発電は太陽電池を用いて光エネルギーを電気に直接変えます。熱エネルギーを介しません。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月3日付掲載
晴天300日太陽は資源
スペイン・アンダルシア州には「ヘマソーラー」の他にも太陽熱発電所が次々建設されてきました。
その一つが「PS10」。2007年に集光型タワー式太陽熱発電所としては世界で初めて商業運転を開始しました。隣接する「PS20」は、「PS10」の2倍の規模。2009年に操業を始めました。
欧州初のパラボリック・トラフ式発電所も同州で同年から稼働しています。曲面状の反射鏡でチューブ(管)に光を集め、チューブを通る油に熱を伝えて湯を沸かし、発生した蒸気で発電します。
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発想を“転換”
同州が太陽熱発電所建設に熱心な理由は何でしょうか。州政府エネルギー局のマリァ・コリネット氏に尋ねると、「資源があるからです。それは太陽です」と即答しました。
スペインは化石燃料のほぼすべてを輸入に頼っています。従来型の発想なら“資源小国”。一方、同州では年間の晴天日数が300日を超えており、太陽光を資源と考えれば資源は豊富です。
持続性がある
一方、セビリア大学のマニュエル・シルバ教授は、スペインで太陽熱発電に関する研究が積み重ねられてきたことを強調します。
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スペインでの太陽熱発電の研究が本格化したのは1973年、イスラエル・アラブ戦争後に石油価格が高騰したのを受けてのことでした。最初の研究用ヘリオスタット(反射鏡)が1978年、アンダルシア州アルメリアに設置されました。
その後80年代に石油価格が安定し、太陽エネルギーへの関心が世界的に薄れたなかでも、同州ではドイツとの協力で研究が続きました。
「降り注ぐ太陽光があります。これを使わない手は無いでしょう」とシルバ教授。「太陽には化石燃料よりも持続性があり、需要を満たす大きな潜在力もあります」
(セビリア=小玉純一)(つづく)
アンダルシア州の再生可能エネルギー
同州政府によると、再生可能エネルギーの利用はこの10年間で3倍化。2010年の電力生産の約3分の1を占め、その内訳は風力が61・2%、太陽光が14・7%、太陽熱が6・7%です。同州の人口は800万人。面積は北海道よりやや広い。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月4日日付
買い取りが投資促す
事業に見通し
太陽熱発電事業が増えてきた要因についてセビリア大学のシルバ教授は「新技術を使った事業を奨励する枠組み、フィードインタリフ(FIT)を政府が導入したことが大きい」といいます。FITとは日本で固定価格買い取り制度といわれるものです。
再生可能エネルギーによる発電の電力を、火力発電など他の発電による電力より高い価格で送電会社が長期にわたり、買い取る仕組みです。
シルバ教授は「FITで見通しがつくため、リスクはあるものの、価格の高い新技術による事業に対しても投資を促すことになる」と、その意義を強調。他方、「新規事業が増えると、支出が増える政府としては内容を見直すことになる。金融危機、財政危機の影響も受ける」と話しました。
主な太陽熱発電のFITは25年間。建設企業セネルのサンティアゴ・アリアス氏は「『ヘマソーラー』は最悪でも25年は稼働する。銀行には15年で返済したい」といいます。
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政治家の信念
太陽熱では2014年以降の新規事業に適用する枠組みが未定です。「政府と交渉中」というスペイン太陽熱産業協会のルイス・クレスポ事務局長の見通しは強気。「スペインで稼働中のものは19カ所、建設中は11カ所。太陽熱発電事業は出発したばかりだ。発電で太陽熱が占める割合は今、とても小さいが、将来、風力をしのぐ。蓄熱可能なため発電の安定性に優れている。技術革新も進み価格も下がる」と話します。
環境活動家のエドワルド・グティアレヌ氏は「風力発電も歴史を経て価格競争ができるようになった。太陽熱もきっとそうなる。欧州は再生可能エネルギー利用を2020年に20%にする目標がある。政治家の信念が大事だ」といいます。
欧州太陽熱電気協会やグリーンピースなどによる「2009年版太陽熱発電概観」は、「世界の電力需要のうち太陽熱発電が2030年に7%、2050年に25%をまかなう」という予測も出しています。
太陽熱産業協会のクレスポ氏はいいます。「将来はスペイン、欧州よりも、米、国、北アフリカ、中東、インド、中国で事業が拡大する」
(セビリア=小玉純一写真も)(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月5日付掲載
「映画・アンダルシア」で有名になった地域ですね。地理的にも、地中海の入り口、アフリカのモロッコとの間のジブダルダル海峡・・・、ヨーロッパの南端。
本当に「太陽がいっぱい」なのはフランス南部よりこちらの方かもしれませんね。
太陽光発電は知っていましたが、太陽熱発電は知りませんでした。太陽光発電は陽が陰ったり、夜などは発電できません。
しかし、太陽熱発電の場合は余熱(蓄熱)で太陽光がない時間帯も15時間も発電できるといいます。
原子力発電の推進する人々は、「自然エネルギーは安定しない」っていいますが、太陽熱発電って充分安定性のあるのではないでしょうか。
スペインは太陽熱発電で世界をリードしてきました。太陽熱発電所が次々と建設されている同国南部アンダルシア州を訪ねました。(セビリア=小玉純一)
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太陽熱発電 進む技術革新
州都セビリアから自動車で1時間弱。セ氏40度の炎天下、ヒマワリ畑の彼方に、光輝くタワーが見えてきました。集光型タワー式太陽熱発電所「ヘマソーラー」。スペイン語で「太陽の宝石」を意味します。5月24日に商業運転を始めたばかりです。
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太陽光集めて
近づくにつれタワーの明るい部分を直視できなくなりました。到着すると、記者にもサングラスのほか、ヘルメット、安全靴、ベストが貸与されました。
支度を済ませ、警備担当者の運転する自動車で所内を回ります。建設した企業セネルの広報担当者マリアナ・フェルナンデス氏が同行し発電の仕組みを説明しました。
タワー上部の集光器(レシーバー)に、反射鏡(ヘリオスタット)で光を集め、その熱を溶融塩(高温で液体となった塩)に伝えてお湯を沸かし、発生した蒸気でタービンを回します。
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反射鏡の面積は一つあたり、115平方メートル。太陽を追尾し効率よく集光します。タワーを中心とする直径1500メートルの円形に、2650基が敷設されています。
タワーの高さは500メートル。タワーの集光器はセ氏900度超まで耐えられ、溶融塩はセ氏500度以上に達します。
24時問発電可
ヘマソーラーの新しさは溶融塩熱伝導の技術にあるといいます。運営会社の発表によれば、蓄熱により太陽光がない時でも15時間発電可能。冬を含め24時間発電を数カ月続けることができます。
フェルナンデス氏は「世界をリードする技術に携わって働けるのは誇りです」と語っていました。
ヘマソーラーの出力は1万9900キロワット。アンダルシア州の2万5千世帯に電力を供給しています。年3万トン以上の二酸化炭素排出量を削減できる見通しといいます。
(つづく)
太陽熱発電と太陽光発電
太陽熱発電は太陽光を集めた熱を利用し発電します。蒸気でタービンを回すのが一般的。太陽光発電は太陽電池を用いて光エネルギーを電気に直接変えます。熱エネルギーを介しません。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月3日付掲載
晴天300日太陽は資源
スペイン・アンダルシア州には「ヘマソーラー」の他にも太陽熱発電所が次々建設されてきました。
その一つが「PS10」。2007年に集光型タワー式太陽熱発電所としては世界で初めて商業運転を開始しました。隣接する「PS20」は、「PS10」の2倍の規模。2009年に操業を始めました。
欧州初のパラボリック・トラフ式発電所も同州で同年から稼働しています。曲面状の反射鏡でチューブ(管)に光を集め、チューブを通る油に熱を伝えて湯を沸かし、発生した蒸気で発電します。
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発想を“転換”
同州が太陽熱発電所建設に熱心な理由は何でしょうか。州政府エネルギー局のマリァ・コリネット氏に尋ねると、「資源があるからです。それは太陽です」と即答しました。
スペインは化石燃料のほぼすべてを輸入に頼っています。従来型の発想なら“資源小国”。一方、同州では年間の晴天日数が300日を超えており、太陽光を資源と考えれば資源は豊富です。
持続性がある
一方、セビリア大学のマニュエル・シルバ教授は、スペインで太陽熱発電に関する研究が積み重ねられてきたことを強調します。
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スペインでの太陽熱発電の研究が本格化したのは1973年、イスラエル・アラブ戦争後に石油価格が高騰したのを受けてのことでした。最初の研究用ヘリオスタット(反射鏡)が1978年、アンダルシア州アルメリアに設置されました。
その後80年代に石油価格が安定し、太陽エネルギーへの関心が世界的に薄れたなかでも、同州ではドイツとの協力で研究が続きました。
「降り注ぐ太陽光があります。これを使わない手は無いでしょう」とシルバ教授。「太陽には化石燃料よりも持続性があり、需要を満たす大きな潜在力もあります」
(セビリア=小玉純一)(つづく)
アンダルシア州の再生可能エネルギー
同州政府によると、再生可能エネルギーの利用はこの10年間で3倍化。2010年の電力生産の約3分の1を占め、その内訳は風力が61・2%、太陽光が14・7%、太陽熱が6・7%です。同州の人口は800万人。面積は北海道よりやや広い。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月4日日付
買い取りが投資促す
事業に見通し
太陽熱発電事業が増えてきた要因についてセビリア大学のシルバ教授は「新技術を使った事業を奨励する枠組み、フィードインタリフ(FIT)を政府が導入したことが大きい」といいます。FITとは日本で固定価格買い取り制度といわれるものです。
再生可能エネルギーによる発電の電力を、火力発電など他の発電による電力より高い価格で送電会社が長期にわたり、買い取る仕組みです。
シルバ教授は「FITで見通しがつくため、リスクはあるものの、価格の高い新技術による事業に対しても投資を促すことになる」と、その意義を強調。他方、「新規事業が増えると、支出が増える政府としては内容を見直すことになる。金融危機、財政危機の影響も受ける」と話しました。
主な太陽熱発電のFITは25年間。建設企業セネルのサンティアゴ・アリアス氏は「『ヘマソーラー』は最悪でも25年は稼働する。銀行には15年で返済したい」といいます。
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政治家の信念
太陽熱では2014年以降の新規事業に適用する枠組みが未定です。「政府と交渉中」というスペイン太陽熱産業協会のルイス・クレスポ事務局長の見通しは強気。「スペインで稼働中のものは19カ所、建設中は11カ所。太陽熱発電事業は出発したばかりだ。発電で太陽熱が占める割合は今、とても小さいが、将来、風力をしのぐ。蓄熱可能なため発電の安定性に優れている。技術革新も進み価格も下がる」と話します。
環境活動家のエドワルド・グティアレヌ氏は「風力発電も歴史を経て価格競争ができるようになった。太陽熱もきっとそうなる。欧州は再生可能エネルギー利用を2020年に20%にする目標がある。政治家の信念が大事だ」といいます。
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欧州太陽熱電気協会やグリーンピースなどによる「2009年版太陽熱発電概観」は、「世界の電力需要のうち太陽熱発電が2030年に7%、2050年に25%をまかなう」という予測も出しています。
太陽熱産業協会のクレスポ氏はいいます。「将来はスペイン、欧州よりも、米、国、北アフリカ、中東、インド、中国で事業が拡大する」
(セビリア=小玉純一写真も)(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年7月5日付掲載
「映画・アンダルシア」で有名になった地域ですね。地理的にも、地中海の入り口、アフリカのモロッコとの間のジブダルダル海峡・・・、ヨーロッパの南端。
本当に「太陽がいっぱい」なのはフランス南部よりこちらの方かもしれませんね。
太陽光発電は知っていましたが、太陽熱発電は知りませんでした。太陽光発電は陽が陰ったり、夜などは発電できません。
しかし、太陽熱発電の場合は余熱(蓄熱)で太陽光がない時間帯も15時間も発電できるといいます。
原子力発電の推進する人々は、「自然エネルギーは安定しない」っていいますが、太陽熱発電って充分安定性のあるのではないでしょうか。