防げ 税逃れ 世界の挑戦③ 透明化求める世界市民の声
政治経済研究所理事 合田寛さん
「国別報告書」はどうして必要なのか。どうあるべきなのか。ここで、われわれは、世界の首脳が宣言し、約束した原点に立ち返る必要があります。
取り組みの転機となったのはイギリスで開催された首脳会議(サミット)で、「多国籍企業はどの税をどこで納めるかについて税当局に報告すべきだ」(主要8力国<G8>ロックアーン宣言、2013年6月)との合意がなされました。
次いでロシアで開かれたサミットで「経済活動が行われ、価値が創出される場所で、利益が課税されるべき」だ(20力国・地域<G20>サンクトペテルブルク宣言、13年9月)との合意がなされ、また「企業は税務当局に対して利益および税の世界的な配分について報告するひな型を通じて透明性を確保すべきこと」(税の付属書)が確認されています。
最重要かつ中心
サミットが掲げるこれらの理想を実現するうえで欠かすことのできないことは、多国籍企業の活動の内容を透明化し、当然負うべき社会的責任を果たさせることです。そう考えるならば、「国別報告書」をはじめとする多国籍企業の三重構造のファイルは、検討されている税源浸食と利益移転(BEPS)に関する行動計画の中でも、最も重要で中心的な課題であることが理解できます。
ところが、経済協力開発機構(OECD)が進めているBEPSプロジェクトは、「国別報告書」の作成を15の行動計画の一つとして位置づけたことはいいとしても、OECDの既存の移転価格ガイドラインの修正作業として進められているところに最大の問題があります。移転価格は確かに多国籍企業の税逃れ(BEPS)の最大の手段ですが、BEPSを可能にしているのは移転価格だけではありません。「国別報告書」を移転価格ガイドラインの枠に閉じ込めることは不当です。
そう考えると「企業の機密保護」、「煩瑣(はんさ)な手続き」などという理由を挙げ、「国別報告書」は不要だなどという経団連などの主張は完全にその根拠を失います。そもそも世界の首脳が集まって決定したサミット宣言の実現のために必要な文書について、一国の有力な経済団体が「不要」だなどとどうして言えるのでしょう。
世界有数の金融街であるロンドン・シティ。巨大な相税回避地との指摘も(ロイター)
米国や欧州では
OECDによって進められているBEPSプロジェクトを監視し、提言を行っているBEPSモニタリング・グループ(BMG)という名の市民グループがあります。BMGは、「国別報告書」はBEPSプロジェクトの中心であり、移転価格文書の一部分でないことを強調し、次のように主張しています。
―OECDは「国別報告書」を税務当局のみに提出することとしているが、多国籍企業の透明化を求めているのは、税務当局だけでなく多くの利害関係者、一般市民だ。また税務当局への報告も、親会社のある国の当局だけでなく、グループの子会社のある国の当局にも直接報告すべきである。ほとんどのOECD非加盟国や途上国は、相税条約のネットワークを持っていないので、情報交換による情報の入手は不可能だからだ。
「国別報告書」に反対する理由として、「企業機密の保護」を挙げる声もありますが、BMGはこう主張しています。
―「企業機密の保護」というけれど、どの情報が機密でどの情報が公開されるべきかについては議論が必要だ。確かに企業には商取引上明らかにできない内部情報はあるかもしれない。
しかし一国内における雇用者数、利益、資産、納税額などの総括的な情報に関しては、機密保護は反対の合理的な理由とはならない。
「国別報告書」の提出はすでに、アメリカやEU(欧州連合)では、資源採掘業や金融業など一部の産業で義務付けられています。さらに、EU理事会は昨年、域内の大企業に対して非財務情報などの情報の開示を義務づける指令を承認しましたが、あわせて大企業に対して、生みだした利益、支払った税、受け取った補助金などの国別報告書の作成を義務付けることが検討されています。
経済のグローバル化に伴って、多国籍企業は、世界経済や私たちの生活に深いかかわりを持つに至っています。ところが、多国籍企業の国境を越えた組織や活動の内容は極めて不透明な現状にあります。「国別報告書」の導入をめぐる国際的な動きの背景には、多国籍企業の透明化を求める世界市民の声があります。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年5月23日付掲載
「多国籍企業の活動の内容を透明化し、当然負うべき社会的責任を果たさせる」という当然の事。それを実現するために、「国別報告書」で多国籍企業の経済活動の実体を明らかにする必要があります。
政治経済研究所理事 合田寛さん
「国別報告書」はどうして必要なのか。どうあるべきなのか。ここで、われわれは、世界の首脳が宣言し、約束した原点に立ち返る必要があります。
取り組みの転機となったのはイギリスで開催された首脳会議(サミット)で、「多国籍企業はどの税をどこで納めるかについて税当局に報告すべきだ」(主要8力国<G8>ロックアーン宣言、2013年6月)との合意がなされました。
次いでロシアで開かれたサミットで「経済活動が行われ、価値が創出される場所で、利益が課税されるべき」だ(20力国・地域<G20>サンクトペテルブルク宣言、13年9月)との合意がなされ、また「企業は税務当局に対して利益および税の世界的な配分について報告するひな型を通じて透明性を確保すべきこと」(税の付属書)が確認されています。
最重要かつ中心
サミットが掲げるこれらの理想を実現するうえで欠かすことのできないことは、多国籍企業の活動の内容を透明化し、当然負うべき社会的責任を果たさせることです。そう考えるならば、「国別報告書」をはじめとする多国籍企業の三重構造のファイルは、検討されている税源浸食と利益移転(BEPS)に関する行動計画の中でも、最も重要で中心的な課題であることが理解できます。
ところが、経済協力開発機構(OECD)が進めているBEPSプロジェクトは、「国別報告書」の作成を15の行動計画の一つとして位置づけたことはいいとしても、OECDの既存の移転価格ガイドラインの修正作業として進められているところに最大の問題があります。移転価格は確かに多国籍企業の税逃れ(BEPS)の最大の手段ですが、BEPSを可能にしているのは移転価格だけではありません。「国別報告書」を移転価格ガイドラインの枠に閉じ込めることは不当です。
そう考えると「企業の機密保護」、「煩瑣(はんさ)な手続き」などという理由を挙げ、「国別報告書」は不要だなどという経団連などの主張は完全にその根拠を失います。そもそも世界の首脳が集まって決定したサミット宣言の実現のために必要な文書について、一国の有力な経済団体が「不要」だなどとどうして言えるのでしょう。
世界有数の金融街であるロンドン・シティ。巨大な相税回避地との指摘も(ロイター)
米国や欧州では
OECDによって進められているBEPSプロジェクトを監視し、提言を行っているBEPSモニタリング・グループ(BMG)という名の市民グループがあります。BMGは、「国別報告書」はBEPSプロジェクトの中心であり、移転価格文書の一部分でないことを強調し、次のように主張しています。
―OECDは「国別報告書」を税務当局のみに提出することとしているが、多国籍企業の透明化を求めているのは、税務当局だけでなく多くの利害関係者、一般市民だ。また税務当局への報告も、親会社のある国の当局だけでなく、グループの子会社のある国の当局にも直接報告すべきである。ほとんどのOECD非加盟国や途上国は、相税条約のネットワークを持っていないので、情報交換による情報の入手は不可能だからだ。
「国別報告書」に反対する理由として、「企業機密の保護」を挙げる声もありますが、BMGはこう主張しています。
―「企業機密の保護」というけれど、どの情報が機密でどの情報が公開されるべきかについては議論が必要だ。確かに企業には商取引上明らかにできない内部情報はあるかもしれない。
しかし一国内における雇用者数、利益、資産、納税額などの総括的な情報に関しては、機密保護は反対の合理的な理由とはならない。
「国別報告書」の提出はすでに、アメリカやEU(欧州連合)では、資源採掘業や金融業など一部の産業で義務付けられています。さらに、EU理事会は昨年、域内の大企業に対して非財務情報などの情報の開示を義務づける指令を承認しましたが、あわせて大企業に対して、生みだした利益、支払った税、受け取った補助金などの国別報告書の作成を義務付けることが検討されています。
経済のグローバル化に伴って、多国籍企業は、世界経済や私たちの生活に深いかかわりを持つに至っています。ところが、多国籍企業の国境を越えた組織や活動の内容は極めて不透明な現状にあります。「国別報告書」の導入をめぐる国際的な動きの背景には、多国籍企業の透明化を求める世界市民の声があります。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年5月23日付掲載
「多国籍企業の活動の内容を透明化し、当然負うべき社会的責任を果たさせる」という当然の事。それを実現するために、「国別報告書」で多国籍企業の経済活動の実体を明らかにする必要があります。