税と新自由主義① 投資家「わが階級の勝利」
政治経済研究所理事 合田寛さん
新自由主義とは何か、どうすれば乗り越えられるか。政治経済研究所理事の合田寛さんに聞きました。(杉本恒如)
―新型コロナウイルス危機は新自由主義とどのような関係があります力
新型コロナのパンデミック(世界的流行)は世界の重層的な危機を明るみに出しました。医療崩壊の危機、貧困と極端な不平等の危機、金融・財政・経済の危機などです。これらは新自由主義の政策によって以前から進行していた危機です。
新自由主義は、第2次世界大戦後に先進諸国が採用したケインズ政策に対する反動攻勢として登場しました。労働運動や社会主義運動の圧力を強く受けたケインズ政策は、国家が完全雇用や不平等是正をめざして資本の活動に介入することを容認しました。諸国民のたたかいを背景に、資本への社会的規制が進み、労働組合の活動が活発化し、税と社会保障による所得の再分配が強められました。これを資本蓄積の危機とみた資本の側が思想闘争を企てたのです。

新型コロナウイルスの感染爆発が起きているロシアのモスクワ市内で、駅を消毒する人たち=11月2日(ロイター)
利潤追求を優先
1947年、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらが創設したモンペルラン協会が新自由主義の拠点となりました。彼らは「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開しました。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」なのです。とりわけ巨大資本が支配する今日の資本主義の下では、新自由主義思想は巨大資本の利潤追求の自由を優先する政策として表れます。資本所得への減税、社会保障制度の解体、資本への規制緩和、国有企業の民営化、労働組合活動の制限などです。労働者や中小企業には市場原理を説いて競争と自己責任の荒波に放り出しますが、巨大資本のためには平気で市場原理をゆがめます。
いま世界の人々を苦しめている医療崩壊、失業、賃金低下、格差拡大などは、新自由主義の政策が長年続けられた結果、生み出された危機なのです。
―新自由主義とグローバル化はどう関係していますか。
新自由主義思想と結びついて新自由主義の政策を世界に広げたのがグローバル化です。ここでいうグローバル化とは、資本が国境を越えて自由に移動することです。新自由主義思想の下、米英両国の主導で1980年代以降に世界中で進められた金融自由化や貿易自由化により、国境を越えた資本移動が自由になりました。その結果何が起きたかは、税制をみれば明らかです。
大企業と富裕な個人は租税回避地に所得を移し、自国の高い税率を逃れました。ある国が他国の資本を呼び込むために資本所得への課税を軽減すると、他国も追随して減税します。際限のない「底辺への競争」が起こりました。各国は国境を自由に越えられない労働や消費を課税対象に選び、社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)を引き上げました。資本課税から労働課税へのシフトが進みました。
米国の投資家ウォーレン・パフェットが述べています。「過去20年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き下げたのだ」(2011年9月30日付、米紙ワシントン・ポスト)と。
権利の切り下げ
―「底辺への競争」が資本家階級に勝利をもたらしたのですね。
これは税の世界だけの出来事ではありません。各国はグローバル資本を優遇する経済特区をつくり、労働・環境規制の緩和、低賃金、減税、補助金などによる資本誘致を競っています。税収が減れば「財政均衡」を旗印に社会保障を切り縮めています。労働者階級の権利を全般的に切り下げる「底辺への竸争」が起きています。
その結果、グローバル資本は高利潤を得て株価が高騰しました。資本家階級の所得が増加して富が累積する一方、労働者階級の所得は停滞して貧困が累積しました。グローバル化と新自由主義は相まって、グローバル資本が支配する世界をつくり出したのです。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月10日付掲載
「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」。
「底辺への競争」とは、法人税の減税、消費税・付加価値税の増税、社会保障の削減、労働者の権利切り下げ。
政治経済研究所理事 合田寛さん
新自由主義とは何か、どうすれば乗り越えられるか。政治経済研究所理事の合田寛さんに聞きました。(杉本恒如)
―新型コロナウイルス危機は新自由主義とどのような関係があります力
新型コロナのパンデミック(世界的流行)は世界の重層的な危機を明るみに出しました。医療崩壊の危機、貧困と極端な不平等の危機、金融・財政・経済の危機などです。これらは新自由主義の政策によって以前から進行していた危機です。
新自由主義は、第2次世界大戦後に先進諸国が採用したケインズ政策に対する反動攻勢として登場しました。労働運動や社会主義運動の圧力を強く受けたケインズ政策は、国家が完全雇用や不平等是正をめざして資本の活動に介入することを容認しました。諸国民のたたかいを背景に、資本への社会的規制が進み、労働組合の活動が活発化し、税と社会保障による所得の再分配が強められました。これを資本蓄積の危機とみた資本の側が思想闘争を企てたのです。

新型コロナウイルスの感染爆発が起きているロシアのモスクワ市内で、駅を消毒する人たち=11月2日(ロイター)
利潤追求を優先
1947年、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらが創設したモンペルラン協会が新自由主義の拠点となりました。彼らは「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開しました。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」なのです。とりわけ巨大資本が支配する今日の資本主義の下では、新自由主義思想は巨大資本の利潤追求の自由を優先する政策として表れます。資本所得への減税、社会保障制度の解体、資本への規制緩和、国有企業の民営化、労働組合活動の制限などです。労働者や中小企業には市場原理を説いて競争と自己責任の荒波に放り出しますが、巨大資本のためには平気で市場原理をゆがめます。
いま世界の人々を苦しめている医療崩壊、失業、賃金低下、格差拡大などは、新自由主義の政策が長年続けられた結果、生み出された危機なのです。
―新自由主義とグローバル化はどう関係していますか。
新自由主義思想と結びついて新自由主義の政策を世界に広げたのがグローバル化です。ここでいうグローバル化とは、資本が国境を越えて自由に移動することです。新自由主義思想の下、米英両国の主導で1980年代以降に世界中で進められた金融自由化や貿易自由化により、国境を越えた資本移動が自由になりました。その結果何が起きたかは、税制をみれば明らかです。
大企業と富裕な個人は租税回避地に所得を移し、自国の高い税率を逃れました。ある国が他国の資本を呼び込むために資本所得への課税を軽減すると、他国も追随して減税します。際限のない「底辺への競争」が起こりました。各国は国境を自由に越えられない労働や消費を課税対象に選び、社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)を引き上げました。資本課税から労働課税へのシフトが進みました。
米国の投資家ウォーレン・パフェットが述べています。「過去20年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き下げたのだ」(2011年9月30日付、米紙ワシントン・ポスト)と。
権利の切り下げ
―「底辺への競争」が資本家階級に勝利をもたらしたのですね。
これは税の世界だけの出来事ではありません。各国はグローバル資本を優遇する経済特区をつくり、労働・環境規制の緩和、低賃金、減税、補助金などによる資本誘致を競っています。税収が減れば「財政均衡」を旗印に社会保障を切り縮めています。労働者階級の権利を全般的に切り下げる「底辺への竸争」が起きています。
その結果、グローバル資本は高利潤を得て株価が高騰しました。資本家階級の所得が増加して富が累積する一方、労働者階級の所得は停滞して貧困が累積しました。グローバル化と新自由主義は相まって、グローバル資本が支配する世界をつくり出したのです。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月10日付掲載
「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」。
「底辺への競争」とは、法人税の減税、消費税・付加価値税の増税、社会保障の削減、労働者の権利切り下げ。