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日本共産党兵庫県委員会で働いています。

粉飾された賃金抑制策 「経労委報告」を読む① 格差・貧困は縮小するか

2023-02-20 07:11:26 | 働く権利・賃金・雇用問題について
粉飾された賃金抑制策 「経労委報告」を読む① 格差・貧困は縮小するか
日本福祉大学名誉教授 大木一訓さん

2023春闘を前に、今年も経団連は「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)を発表した。今回は、物価高騰を上回る賃上げと今後の「構造的な賃上げ」を提起した、「大きな転換点」となる「報告」だと主張されている。しかし一読して、深い違和感を覚えざるをえなかった。

低賃金の反省なし
第一に、「報告」も認めているように、今日の日本の賃金は先進諸国のなかでも最悪の低賃金となっている。数字のうえだけでなく、日々の必要にも事欠く労働者と家族が現実に多数生みだされるようになってしまっている。その惨状をつくりだした主犯の一人が、長年にわたり春闘に敵対し賃金を抑制してきた経団連であることは、誰もが認めるところではないだろうか。だが「報告」は、冒頭で1974年以来の「報告」の歴史を振り返っているのだが、そこには今日の低賃金にかかわる反省がまったく見られないのである。「構造的な賃上げ」と言うなら、経団連の従来の賃金政策についての批判的検討と改革が不可欠なはずだが、あるのは願望の羅列ばかりである。
第二に、「報告」が、賃上げはあくまで「人への投資」として行うべきだと主張している点である。より多くの収益を確保するための資本投資として「賃上げ」は行うのだ、したがって「賃上げ」は必ず生産性向上による「成長」と結びついたものとして実施されなければならない。これが「報告」の主張である。いいかえれば、ただちに実行できる内部留保取り崩しや大株主・大企業役員の収入削減による賃上げは行わない、ということである。
経団連のいう「賃上げ」は、「生産性向上」への協力という、いわば条件付きの「賃上げ」なのである。そして実際に生産性が向上して莫大(ばくだい)な利益が出たとしても、労働生産性の伸びに見合った賃上げは行われない、というのがこれまでの実績であった。
「人への投資」にはいま一つ大きな問題がある。「報告」は、「賃金引き上げ」だけでなく「総合的な処遇改善・人材育成」も「人への投資」にふくまれるといい、後者も「成長の果実の働き手への分配」として考えるよう提唱している。実際、最近は賃上げ率計算の際、賃金以外の人材関係経費も含めて計上する動きが見られる。そこでは「賃上げ」が水増しされるだけでなく、賃金規定そのものが融解されてしまう危険がはらまれている。
第三は、「報告」が「賃金と物価の好循環」を提唱して、賃金とともに物価を上昇させる必要を述べていることである。消費税減税をふくむ物価の引き下げ・安定に真剣に取り組む姿勢が見えないなかで、企業がコスト増を物価に転嫁しやすくする方策として賃上げを提起しているのではないか、という疑念を庶民は払拭できないでいる。

多くの言行不一致
第四に、「報告」には、多くのはなはだしい言行不一致が見られる。「雇用者の約4割に上る有期雇用労働者、パートタイム労働者の処遇改善」が大事だといいながら、地域最低賃金の引き上げには抵抗・反対し、業種別の特定最低賃金については廃止を要求している。中小企業の賃金改善には「取引条件の改善と適正な価格転嫁が不可欠だ」と言いながら、大多数の大企業が下請け企業との間でそのための協議さえしていないのが実態である。さらに、「分厚い中間層の形成」が大事だと言いながら、中心となる正規労働者層について、「ジョブ型雇用」への移行などをつうじて「多様な正社員の制度を適用・拡充する」よう推奨しており、「グローバル人材」や「高度人材」を頂点とするさまざまな格差の導入・拡大を推し進めている。
こうして見てくると、経団連の今次「賃上げ」政策の延長戦上では、大企業の人材不足部門での大幅賃上げが演出されつつ、中小企業での賃上げは進まず、非正規をふくむ労働者全体のなかでは、各層の間の格差と貧困がいっそう細分化されつつ拡大していく可能性が高いといわなければならない。経団連流の2023「賃上げ」策のなかにも、賃金抑制のDNAは形を変えて根強く生きているのである。(つづく 5回連載)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年2月18日付掲載


経団連のいう賃上げは「人への投資」だと。生産性の向上。スキルアップが伴わないと賃上げはしないと。
「賃金と物価の好循環」と称して、物価も上げる必要があると。
本来なら消費税減税で物価の引き下げこそひつようなのに。
「雇用者の約4割に上る有期雇用労働者、パートタイム労働者の処遇改善」が大事だといいながら、地域最低賃金の引き上げには抵抗・反対。
「ジョブ型雇用」など正規社員もより不安定な働き方に…。

コメント
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