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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

半導体バブル 揺れる北海道① 「経済安保」 不安を圧殺

2023-11-17 06:50:49 | 経済・産業・中小企業対策など
半導体バブル 揺れる北海道① 「経済安保」 不安を圧殺

岸田文雄政権が日本の半導体産業「復活」の“切り札”とする先端半導体企業「ラピダス」が北海道彩歳市に工場の建設を進めています。岸田政権は「経済安全保障」を口実に同社に巨額の税金を投入。一方、ラピダスの進出に伴い、地下水量の低下や汚染物質の懸念など重大問題が浮上しています。(日隈広志)

木々の間から大型クレーンの首が伸び、砂煙をあげて大型の工事車両が通り抜けます。うっそうとした森を切り開く工事は「ラムサール条約」に登録されているウトナイ湖の自然環境を変質させようとしています。ウトナイ湖の湿原は工場を建設する千歳市に隣接した苫小牧市に広がります。



ラピダスの工場建設現場=北海道千歳市(画像の一部を加工)

地下水低下
同湖の水源の地下水量は1990年代に計画された工業団地の大規模開発などで低下。ラピダスと関連企業の進出でさらに低下する恐れがあります。
日本野鳥の会苫小牧支部の鷲田善幸支部長は個人的な意見だとした上で「国際的にも貴重な湿原や渡り鳥の結集地が失われてからでは遅い」と強調しました。
工業排水には、人体に有害とされる有機フッ素化合物(PFAS)が含まれる可能性も浮上しています。
環境悪化の危険もある事業を岸田首相が進める背景にあるのが、「安全保障」問題です。岸田首相は10月23日の所信表明演説で「安全保障に関係する大型投資」だとして、ラピダスが求める5兆円規模の補助などを念頭に「集中支援」を明言しました。

軍需に貢献
先端半導体は、スマホやパソコンなどに不可欠な一方で、「極超音速」ミサイルや高性能人工知能(AI)搭載の自律型ドローン兵器など最新兵器に使われています。ラピダスの東哲郎会長は、自社製品で米国の軍需に貢献すると明言しています。
米国は昨年10月以降、先端半導体の製造装置の対中輸出規制を強化し、日本も今年7月、米国に追随して対中輸出規制を開始。日米は一体的に軍事・経済の対中包囲網を構築しています。
住民の中で高まる不安を、岸田政権は「経済安全保障」の掛け声で押し殺そうとしています。


ラピダス支援 国・財界・自治体一体
ラピダス 2022年8月にトヨタ自動車、NTT、ソニー、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行の大手8社が共同出資して設立。新工場は新千歳空港に隣接する工業団地「千歳美々ワールド」内に立地。25年に試作ラインの開始、27年に量産を開始するとしています。敷地面積は約27万1千平方メートル。

ラピダスの工場進出に伴い、オランダや米国の大手半導体企業が次々に道内への進出を表明しています。
ラピダスが扱うのは回路線幅「2ナノメートル(ナノは10億分の1)」の先端半導体。「2ナノメートル」品を量産する企業はまだ世界になく、政府は「『2ナノ』こそ、勝ち筋だ」(経済産業省担当者)と鼻息を荒くします。
ラピダスの小池淳義社長は、米シリコンバレーをまねた「北海道バレー」構想を提唱。千歳市を中心に、札幌市や石狩市、苫小牧市などに関連事業・企業を集める狙いです。
北海道財界はこうしたラピダス事業の成功を当て込み、最大限のもうけを引き出そうとしています。
北海道経済連合会と北海道商工会議所連合会は6月、メガバンクや金融庁、経済産業省などと共に産官学の連携団体「チーム札幌・北海道」を結成し、8月に国に要望書を提出。そこで「半導体生産拠点の誘致」や「金融特区の設立」を掲げ、そのために「世界レベルの規制緩和や税制優遇措置等」を求めました。
参加企業からは「北海道IR(カジノを中核とした統合型リゾート)」を求める声まで上がっています。
岸田政権は、2日に閣議決定した総合経済対策で、半導体や蓄電池向けに、▽投資の減税制度▽工場建設のための工業用水や道路などインフラ整備の交付金▽開発を制限してきた「市街化調整区域」の規制緩和―などを盛り込みました。北海道や、受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が進出した熊本県などの地方財界の要望に応えた形です。




共産党質問
日本共産党道議団は、国、財界、自治体が一体になったラピダス支援に「待った」をかけました。
北海道の鈴木直道知事は「全庁一丸」だとして全面的な支援を掲げ、予算措置も講じました。しかし道庁職員からは「対応できるのか」と困惑の声も聞かれました。
道によると、経済効果の試算は「調査依頼中」で、まだありません。道の担当者は、道内の半導体関連企業数が把握している21社よりも「もっとあるかもしれない」と指摘。実態すら把握できていない現状です。
日本共産党の真下紀子道議は7月の予算特別委員会で、ラピダスへの予算支出の問題を取り上げ、支出の根拠となる分析を示すよう追及。道側は示すことができませんでした。
地元経済誌はこの質疑を紹介。「ラピダスの野心的な構想に慎重な意見もあるのは事実」
「ところが道内主要メディアに、そうした論調は見当たらない」として真下道議の質問は「真っ当追及」だと評価しました。
真下道議は、「国の悪政から住民を守る“防波堤”になるべき地方自治を自ら壊しかねない」として岸田政権追随の鈴木道政を批判します。地場産業が衰退する懸念もあり、「一部の大企業の利益への奉仕ではなく、北海道の貴重な環境や資源、産業を守らないといけない」と指摘。ラピダス製品の軍事利用は日本国憲法第9条を持つ国として許されないとした上で、「平和と自然に寄与する産業支援にこそ力を注ぐべき」だと語りました。



ラムサール条約に登録されたウトナイ湖=北海道苫小牧市

住民を無視
住民からはラピダスの進出に冷ややかな声が出されました。
千歳市内のイオンモール前で街頭取材に応じた女性(57、介護職)は、「また同じことになるのでは」と指摘。千歳市では30年前に工業団地の誘致計画が立ち上がりましたが、誘致は進みませんでした。
女性は、子どもの病気の治療のために快速電車で30分かけて札幌市まで通院。「大企業だけ支援を受けて、こっちの苦労は置き去り」だとして「市内の病院、医師不足を解決してほしい。介護職の給料を上げて」と語りました。
地元の中小企業の経営者たちの思いは複雑です。
「地元が潤えばいいが」と話す千歳市内の有限会社・共盛自転車商会の寺西敏雄代表は「工場は長期間稼働してくれるのか。従業員が長く住んでこそ地元商店や企業にお金が回る」と胸の内を語ります。
父親の代から営む寺西さんの店の土地は、地価の基準点に指定され、7月1日の観測では全国2位の上昇率を記録。市内では、住宅地、商業地など基準地点15カ所中12カ所で地価が20%以上上昇しました。
高騰分は3年後の固定資産税の増額に跳ね返ります。寺西さんは「今は営業を圧迫するほどではない」と言いますが、先行きは不透明です。
ラピダス工場付近の牧場経営者からは、岸田首相が打ち出した「市街化調整区域の規制緩和」に対する不安が語られました。
都市計画法を根拠法とする市街化調整区域は、農地や森林を守るための開発の制限が目的です。規制緩和は調整区域の除外対象を半導体工場にも広げます。基幹的農業従事者は直近13年間でほぼ半減。規制緩和によって離農が加速する恐れがあります。
ラピダスの東哲郎会長は、第2、第3の工場棟建設を表明しています。
日本共産党の吉谷徹千歳市議は9月の市議会で、ラピダスの上下水道の工事費用を市が負担する問題を取り上げ、市の巨額援助を批判。地価高騰から住民生活を守るべきだとして市長に固定資産税の据え置きを迫りました。
吉谷市議は「ラピダスの成功が市政の第1課題ではない。生活不安に正面から応える市政こそ必要だ」と話しました。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年11月16日付掲載


真下道議は、「国の悪政から住民を守る“防波堤”になるべき地方自治を自ら壊しかねない」として岸田政権追随の鈴木道政を批判。地場産業が衰退する懸念もあり、「一部の大企業の利益への奉仕ではなく、北海道の貴重な環境や資源、産業を守らないといけない」と指摘。ラピダス製品の軍事利用は日本国憲法第9条を持つ国として許されないとした上で、「平和と自然に寄与する産業支援にこそ力を注ぐべき」だと。
半導体で遅れをとってきた日本。挽回を図りたいという思いは分かりますが、自然環境を破壊し、地場産業を衰退させるようなことはあってはいけませんね。
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