中小企業と賃上げ② 企業規模と生産性の関係
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/b8/44611567f7842da9ee1ad22638d2be7c.jpg)
日本大学教授 村上英吾さん
「中小企業淘汰(とうた)論」を振りまいたデービッド・アトキンソン氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータを用いて、中小企業で働く労働者の比率が高い国ほど生産性が低いことが証明されたと主張しています。
そこで私も、OECDデータを用いて散布図を作成しました(図1)。アトキンソン氏はOECD加盟38カ国中14カ国を抽出しましたが、私は直近で最もデータに欠損が少ない2016年のデータ(34カ国)を用いました。横軸は「大企業比率(250人以上の企業に勤める人の割合)」を、縦軸は「米ドル換算した労働時間あたりの国内総生産(GDP)」を示しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/04/321759fe1a29c9a4a8ff2c5e469cb970.jpg)
有意性見られず
図1の上方にある数式は、大企業比率を説明変数(x)、時間あたりGDPを被説明変数(y)として回帰分析した結果です。回帰分析は、特定の結果に特定の要因がどの程度影響したのかを調べる統計手法です。ここでは「労働時間あたりのGDP」という結果に、「大企業比率」という要因がどの程度影響したのかを分析しています。
回帰式の係数の下のカッコ内は、分析が統計的に有意かどうかを示しています(t値といいます)。t値はおおむね2を超えれば統計的に有意な結果と言えるのですが、x(大企業比率)の係数のt値は1・30で統計的に有意とは言えません。
グラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/02/c0576d0235657e12a6588c6d363c2cab.jpg)
豊かな社会とは
少し前にアトキンソン氏の母国であるイギリスの研究者が来日した際、かつて日雇い労働者の街だった東京都台東区山谷の老舗の喫茶店「カフェ・バッハ」へ案内したのですが、個人経営の喫茶店が日雇い労働者の街に残っていることに感銘を受けていました。同店の門下生は全国に200人以上いるようですが、従業員数は十数人です。
私は仕事や旅行先で時間があると、街のジャズ喫茶を探してコーヒーを飲みに行くのを楽しみにしているのですが、日本にはこうした地域に根付いた個人店が各地に残っています。これらを大手チェーン店に置き換えることが豊かな社会と言えるでしょうか?生産性を重視するあまり、中小企業の淘汰ありきの議論になっていないか注意が必要です。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月31日付掲載
図1のグラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。
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日本大学教授 村上英吾さん
「中小企業淘汰(とうた)論」を振りまいたデービッド・アトキンソン氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータを用いて、中小企業で働く労働者の比率が高い国ほど生産性が低いことが証明されたと主張しています。
そこで私も、OECDデータを用いて散布図を作成しました(図1)。アトキンソン氏はOECD加盟38カ国中14カ国を抽出しましたが、私は直近で最もデータに欠損が少ない2016年のデータ(34カ国)を用いました。横軸は「大企業比率(250人以上の企業に勤める人の割合)」を、縦軸は「米ドル換算した労働時間あたりの国内総生産(GDP)」を示しています。
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有意性見られず
図1の上方にある数式は、大企業比率を説明変数(x)、時間あたりGDPを被説明変数(y)として回帰分析した結果です。回帰分析は、特定の結果に特定の要因がどの程度影響したのかを調べる統計手法です。ここでは「労働時間あたりのGDP」という結果に、「大企業比率」という要因がどの程度影響したのかを分析しています。
回帰式の係数の下のカッコ内は、分析が統計的に有意かどうかを示しています(t値といいます)。t値はおおむね2を超えれば統計的に有意な結果と言えるのですが、x(大企業比率)の係数のt値は1・30で統計的に有意とは言えません。
グラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。
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豊かな社会とは
少し前にアトキンソン氏の母国であるイギリスの研究者が来日した際、かつて日雇い労働者の街だった東京都台東区山谷の老舗の喫茶店「カフェ・バッハ」へ案内したのですが、個人経営の喫茶店が日雇い労働者の街に残っていることに感銘を受けていました。同店の門下生は全国に200人以上いるようですが、従業員数は十数人です。
私は仕事や旅行先で時間があると、街のジャズ喫茶を探してコーヒーを飲みに行くのを楽しみにしているのですが、日本にはこうした地域に根付いた個人店が各地に残っています。これらを大手チェーン店に置き換えることが豊かな社会と言えるでしょうか?生産性を重視するあまり、中小企業の淘汰ありきの議論になっていないか注意が必要です。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月31日付掲載
図1のグラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。