安保改定60年 第3部⑥ 米軍訓練移転(上) 税金使い日本全土に拡散 「負担軽減」口実に589億円
日本政府がこれまで負担してきた在日米軍の訓練移転費が累計で589億円にのぼることが分かりました。米軍の同盟国で、訓練移転経費まで支払っているのは日本だけです。「地元負担の軽減」のためといいながら、日本全土を米軍の訓練場として強化し、基地被害の苦しみを拡散しているのが実態です。
オスプレイからロープ降下する隊員=2017年3月10日、群馬・相馬原演習場
155ミリりゅう弾砲を射撃する米海兵隊=北海道・矢臼別演習場(矢臼別平和委員会提供)
負担の根拠なし
日本政府が経費負担をしている米軍訓練の移転は、①米空母艦載機による夜間離着陸訓練(NLP)の厚木基地(神奈川県)から硫黄島(東京都)への移転②SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意に基つく在沖縄米海兵隊の県道104号線越え実弾砲撃演習の本土5カ所への移転③SACO合意に基づくパラシュート降下訓練の読谷(沖縄県)から伊江島(同)への移転④在日米軍再編に係る米軍機の訓練移転1の4分野(表)です。
支払い根拠になっているのは、1995年に改定された在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)特別協定第3条。改定に伴う日米の往復書簡では、訓練移転経費の見積もりは米政府が行い、日本はその見積もりを「考慮」するとしており、米側の要求次第で金額が拡大する仕組みになっています。
そもそも、日米地位協定は、地代や補償などを除き「日本に米軍を維持するためのすべての経費は、日本に負担をかけないで米国が負担する」(24条)としており、訓練費用を負担する根拠はありません。
政府もかつては、「訓練、演習そのものの経費、これは米軍が負担すべき経費だというふうに考えます」(1995年2月27日衆院外務委員会・時野谷敦外務省北米局長)と答弁しています。
米軍訓練移転費の日本負担(2019年度まで)
(単位:100万円)④については、19年度分が未確定のため18年度分までの金額
騒音さらに激化
①~④の訓練移転はいずれも、基地周辺住民の「負担軽減」を口実に行われています。
しかし、米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の一部であるNLPは、硫黄島移転後も厚木のほか横田(東京都)や岩国(山口県)などで実施され、騒音被害をもたらしました。艦載機が移駐された岩国では騒音がいっそう激化しています。
沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習移転も、当初は沖縄と「同質同量」とされていましたが、使用兵器や部隊規模が拡大し、質・量とも大きく超えています。加えて、移転先の自衛隊基地に米軍専用施設を建設するなど、自衛隊基地の「米軍基地化」が加速。18年度までの施設整備の支払額は127億3800万円にのぼります。
沖縄の嘉手納基地や普天間基地から「訓練移転」として米軍機が全国に飛来する一方、嘉手納・普天間には、新たな外来機の飛来が急増するなど訓練が激化。騒音被害が拡大し続けています。
移転費負担 他国に例なし
そもそも日米地位協定上、日本側に米軍の訓練経費を支払う義務もなく、政府もそう考えていました。
しかし、米国は1995年2月27日に公表した「東アジア・太平洋安全保障戦略」で、同盟国に対して海・外での軍事作戦の強化や駐留米軍の経費負担など「責任分担」を強調しました。さらに米国防総省は同年4月から「共同防衛に対する同盟国の貢献度報告」を公表。同盟国に経費負担の拡大を露骨に要求する立場を示しました。
ζうした戦略を背景に行われた米軍「思いやり予算」特別協定の延長協議の中で、米国は新たに米空母艦載機のNLP(夜間離着陸訓練)等の訓練移転費の負担などを要求。95年9月に調印された特別協定で「合衆国軍隊の効果的な活動を確保する」ことを目的に、米軍の訓練費の一部を日本が負担するようになりました。
いっそう増額
訓練移転費の負担について、折田正樹外務省北米局長(当時)は、「双方で協議をしている中でこういうアイデアが出てきた」(95年11月9日、参院外務委員会)などと述べています。
これを機に訓練移転経費負担はいっそう拡大。沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)経費の一部として、「沖縄の負担軽減」を口実に、97年度から沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習、2000年度からパラシュート降下訓練の費用負担が始まりました。
06年度からは在日米軍再編経費の一部として、米軍機訓練移転の費用負担を開始。嘉手納(沖縄県)、三沢(青森県)、岩国(山口県)の三つの基地の米軍機が、千歳(北海道)、三沢(青森県)、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城(福岡県)、新田原(宮崎県)の自衛隊施設での共同訓練に参加することに関する経費負担です。
「訓練移転費については、他国で同様の費用を負担している例は見当たらない」(08年3月26日、衆院外務委員会、西宮伸一外務省北米局長=当時)。政府自身がこう認めているように、米軍の世界規模での出撃、即応体制強化を、財政面からも支援する新たな段階へ踏み込みました。
16年9月の日米合同委員会で、普天間基地(沖縄県)所属の垂直離着陸機MV22オスプレイなどの訓練を、日本側の全額経費負担で県外へ移転することで合意し、これまでに国内で計10回訓練が行われました。
米軍の分まで
重大なのは、米軍機訓練移転は日米共同訓練を兼ねていることです。従来は日米それぞれが費用を負担していた共同訓練の米側負担分を、「負担軽減」を口実に日本側が支払うようになったのです。
さらに、米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転をめぐり、馬毛島(鹿児島県西之表市)への基地建設も狙われて、用地買収費だけで当初鑑定額の3倍となる160億円。その上に、滑走路2本の最新鋭基地が建設されます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月22日付掲載
沖縄の負担軽減を口実に、日本全国に米軍の訓練基地が展開。
米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の一部であるNLPは、硫黄島移転後も厚木のほか横田(東京都)や岩国(山口県)などで実施されています。
日本政府がこれまで負担してきた在日米軍の訓練移転費が累計で589億円にのぼることが分かりました。米軍の同盟国で、訓練移転経費まで支払っているのは日本だけです。「地元負担の軽減」のためといいながら、日本全土を米軍の訓練場として強化し、基地被害の苦しみを拡散しているのが実態です。
オスプレイからロープ降下する隊員=2017年3月10日、群馬・相馬原演習場
155ミリりゅう弾砲を射撃する米海兵隊=北海道・矢臼別演習場(矢臼別平和委員会提供)
負担の根拠なし
日本政府が経費負担をしている米軍訓練の移転は、①米空母艦載機による夜間離着陸訓練(NLP)の厚木基地(神奈川県)から硫黄島(東京都)への移転②SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意に基つく在沖縄米海兵隊の県道104号線越え実弾砲撃演習の本土5カ所への移転③SACO合意に基づくパラシュート降下訓練の読谷(沖縄県)から伊江島(同)への移転④在日米軍再編に係る米軍機の訓練移転1の4分野(表)です。
支払い根拠になっているのは、1995年に改定された在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)特別協定第3条。改定に伴う日米の往復書簡では、訓練移転経費の見積もりは米政府が行い、日本はその見積もりを「考慮」するとしており、米側の要求次第で金額が拡大する仕組みになっています。
そもそも、日米地位協定は、地代や補償などを除き「日本に米軍を維持するためのすべての経費は、日本に負担をかけないで米国が負担する」(24条)としており、訓練費用を負担する根拠はありません。
政府もかつては、「訓練、演習そのものの経費、これは米軍が負担すべき経費だというふうに考えます」(1995年2月27日衆院外務委員会・時野谷敦外務省北米局長)と答弁しています。
米軍訓練移転費の日本負担(2019年度まで)
①「思いやり予鼻」のNLP移転費(1996年度~) | 8667 |
②SACO経費の実弾砲撃演習移転費(97年度~) | 19949 |
③SACO経費のパラシュート降下訓練移転費(2000年度~) | 44 |
④米軍再編経費の米軍機訓練移転費(06年度~) | 30256 |
合計 | 58916 |
騒音さらに激化
①~④の訓練移転はいずれも、基地周辺住民の「負担軽減」を口実に行われています。
しかし、米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の一部であるNLPは、硫黄島移転後も厚木のほか横田(東京都)や岩国(山口県)などで実施され、騒音被害をもたらしました。艦載機が移駐された岩国では騒音がいっそう激化しています。
沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習移転も、当初は沖縄と「同質同量」とされていましたが、使用兵器や部隊規模が拡大し、質・量とも大きく超えています。加えて、移転先の自衛隊基地に米軍専用施設を建設するなど、自衛隊基地の「米軍基地化」が加速。18年度までの施設整備の支払額は127億3800万円にのぼります。
沖縄の嘉手納基地や普天間基地から「訓練移転」として米軍機が全国に飛来する一方、嘉手納・普天間には、新たな外来機の飛来が急増するなど訓練が激化。騒音被害が拡大し続けています。
移転費負担 他国に例なし
そもそも日米地位協定上、日本側に米軍の訓練経費を支払う義務もなく、政府もそう考えていました。
しかし、米国は1995年2月27日に公表した「東アジア・太平洋安全保障戦略」で、同盟国に対して海・外での軍事作戦の強化や駐留米軍の経費負担など「責任分担」を強調しました。さらに米国防総省は同年4月から「共同防衛に対する同盟国の貢献度報告」を公表。同盟国に経費負担の拡大を露骨に要求する立場を示しました。
ζうした戦略を背景に行われた米軍「思いやり予算」特別協定の延長協議の中で、米国は新たに米空母艦載機のNLP(夜間離着陸訓練)等の訓練移転費の負担などを要求。95年9月に調印された特別協定で「合衆国軍隊の効果的な活動を確保する」ことを目的に、米軍の訓練費の一部を日本が負担するようになりました。
いっそう増額
訓練移転費の負担について、折田正樹外務省北米局長(当時)は、「双方で協議をしている中でこういうアイデアが出てきた」(95年11月9日、参院外務委員会)などと述べています。
これを機に訓練移転経費負担はいっそう拡大。沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)経費の一部として、「沖縄の負担軽減」を口実に、97年度から沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習、2000年度からパラシュート降下訓練の費用負担が始まりました。
06年度からは在日米軍再編経費の一部として、米軍機訓練移転の費用負担を開始。嘉手納(沖縄県)、三沢(青森県)、岩国(山口県)の三つの基地の米軍機が、千歳(北海道)、三沢(青森県)、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城(福岡県)、新田原(宮崎県)の自衛隊施設での共同訓練に参加することに関する経費負担です。
「訓練移転費については、他国で同様の費用を負担している例は見当たらない」(08年3月26日、衆院外務委員会、西宮伸一外務省北米局長=当時)。政府自身がこう認めているように、米軍の世界規模での出撃、即応体制強化を、財政面からも支援する新たな段階へ踏み込みました。
16年9月の日米合同委員会で、普天間基地(沖縄県)所属の垂直離着陸機MV22オスプレイなどの訓練を、日本側の全額経費負担で県外へ移転することで合意し、これまでに国内で計10回訓練が行われました。
米軍の分まで
重大なのは、米軍機訓練移転は日米共同訓練を兼ねていることです。従来は日米それぞれが費用を負担していた共同訓練の米側負担分を、「負担軽減」を口実に日本側が支払うようになったのです。
さらに、米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転をめぐり、馬毛島(鹿児島県西之表市)への基地建設も狙われて、用地買収費だけで当初鑑定額の3倍となる160億円。その上に、滑走路2本の最新鋭基地が建設されます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月22日付掲載
沖縄の負担軽減を口実に、日本全国に米軍の訓練基地が展開。
米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の一部であるNLPは、硫黄島移転後も厚木のほか横田(東京都)や岩国(山口県)などで実施されています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます