安保改定60年 第3部⑦ 米軍訓練移転(下) 沖縄の負担、解決せず
「沖縄の負担軽減」を逆手に取り、国民の税金を大量に投入して質量ともに訓練が強化されたのが、沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習でした。
在沖米海兵隊はキャンプ・ハンセン内を通過する県道104号線を封鎖して、その上空を飛び越える形で155ミリりゅう弾砲の実弾射撃演習を強行。沖縄県は同演習の中止・廃止を繰り返し要求していました。
日米両政府は1996年のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意に基づき、矢臼別(北海道)、王城寺原(宮城県)、北富士(山梨県)、東富士(静岡県)、日出生台(大分県)の本土5カ所に移転。危険な訓練のたらい回しに、地元では反対の声があがりましたが、政府がこれを抑え込みました。

移転に200億円
1995年の在日米軍駐留経費負担特別協定に基づき、費用は日本政府が負担。これまでの移転費用は199億4900万円にのぼります。費目は人員・物資の輸送費や、給食・宿舎の管理サービス費など。輸送は日本通運や三井倉庫エクスプレスなど民間業者を使い、1回あたり2~3億円かかっています。輸送する物資には弾薬なども含まれ、戦時における民間動員の予行演習ともいえます。
費用負担はこれだけではありません。本土移転の措置を迅速実施するためとして、訓練移転先の自治体に対するSACO交付金を出しています。
さらに、矢臼別、王城寺原、日出生台での米軍専用施設整備に127億3800万円(2018年度まで)を支払っています。射撃観測塔、車両整備場、着弾監視装置などがつくられました。政府は「安全管理施設」といいますが、米軍の「兵員待機施設」も含まれます。これは演習中、米軍の機材を保管するもので、砲撃演習に伴う事故防止などとは無縁。演習中、これらの待機施設には星条旗が掲げられ、演習場は米軍が優先的に使用します。事実上、自衛隊基地の米軍基地化です。宿泊施設や食堂もつくられ米軍が利用しています。演習情報を知らせる電光掲示板も設置されています。
大なのは、本土移転に際し、政府が「沖縄と同質同量」だと説明していながら、年を追う乙とに内容、部隊の参加規模が拡大するなど飛躍的な強化がされていることです。
当初は155ミリりゅう弾砲の砲撃でしたが、小銃、機関銃のほか白リン弾や照明弾まで使われるようになりました。白リン弾は、空中で爆発し人間の皮膚に付着すると高温で燃え続け、骨まで焼き尽くす残虐兵器です。
沖縄県によると、1973年から97年まで25年間行われた同演習の弾数は3万3100発(弾数不明の年が6回)。一方、本土移転後の23年間での発射弾数は8万1703発にものぼりました。
矢臼別で演習監視行動をしている矢臼別平和委員会の中村忠士事務局長は、「海兵隊という異質の軍隊の訓練を税金で全国各地に引き込んでしまっていることは許しがたい。演習自体を廃止し、その費用を新型コロナウイルス対策、少人数学級など教育・福祉に使うべきだ」と話します。

大分港に陸揚げされる、りゅう弾砲=2月8日、大分市
沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習の本土移転にかかる日本側負担額
(単位:100万円)
協定違反続く
さらに、地元との協定さえ踏み破られる事態が続いています。
今年2月に日出生台で行われた同演習では、地元自治体と国で交わした「夜間射撃の終了時間は20時まで」との約束が破られたほか、演習日数も超過。19年度は王城寺原でも日数超過し、本土での同演習は年間合計最大35日以内としたSACO合意にも反する計37日に及びました。
演習を監視する住民グループ「ローカルネット大分・日出生台」の浦田龍次事務局長は、「米軍司令官は地元説明会で“訓練が最優先”と言い放ちましたが、その姿勢が露骨にむき出しになった」と話します。
米軍は日本国民の税金を使って戦闘出撃態勢を強めています。では、肝心の沖縄の負担は軽減されたのでしょうか。
沖縄県平和委員会の大久保康裕事務局長は、在沖米軍に長射程の高機動ロケット砲システム(HIMARS)が配備され、本土での実弾演習にもHIMARSが使用されていると指摘。「むしろ全国的な強化になっている」と語ります。
06年度から費用負担が始まった嘉手納基地(沖縄県)などからの米軍機訓練移転も空対地射爆撃訓練を追加するなど規模が拡大。普天間基地のMV22オスプレイの訓練移転も、沖縄県の調査で、移転期間中に米軍機全体の飛行回数が逆に増えていた実態が明らかになっています。
大久保さんは「オスプレイは日米合意に反し深夜・早朝の飛行を繰り返し、新たな訓練も強化されている。移転で基地問題が解決しないことは明らかだ」と強調します。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月23日付掲載
県民が日常的に利用する県道104号線越えの実弾砲撃演習。
本当はキャンプ・ハンセンでやりたい米軍ですが、世論に押されて移転。
それも日本の税金を使ってです。
「沖縄の負担軽減」を逆手に取り、国民の税金を大量に投入して質量ともに訓練が強化されたのが、沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習でした。
在沖米海兵隊はキャンプ・ハンセン内を通過する県道104号線を封鎖して、その上空を飛び越える形で155ミリりゅう弾砲の実弾射撃演習を強行。沖縄県は同演習の中止・廃止を繰り返し要求していました。
日米両政府は1996年のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意に基づき、矢臼別(北海道)、王城寺原(宮城県)、北富士(山梨県)、東富士(静岡県)、日出生台(大分県)の本土5カ所に移転。危険な訓練のたらい回しに、地元では反対の声があがりましたが、政府がこれを抑え込みました。

移転に200億円
1995年の在日米軍駐留経費負担特別協定に基づき、費用は日本政府が負担。これまでの移転費用は199億4900万円にのぼります。費目は人員・物資の輸送費や、給食・宿舎の管理サービス費など。輸送は日本通運や三井倉庫エクスプレスなど民間業者を使い、1回あたり2~3億円かかっています。輸送する物資には弾薬なども含まれ、戦時における民間動員の予行演習ともいえます。
費用負担はこれだけではありません。本土移転の措置を迅速実施するためとして、訓練移転先の自治体に対するSACO交付金を出しています。
さらに、矢臼別、王城寺原、日出生台での米軍専用施設整備に127億3800万円(2018年度まで)を支払っています。射撃観測塔、車両整備場、着弾監視装置などがつくられました。政府は「安全管理施設」といいますが、米軍の「兵員待機施設」も含まれます。これは演習中、米軍の機材を保管するもので、砲撃演習に伴う事故防止などとは無縁。演習中、これらの待機施設には星条旗が掲げられ、演習場は米軍が優先的に使用します。事実上、自衛隊基地の米軍基地化です。宿泊施設や食堂もつくられ米軍が利用しています。演習情報を知らせる電光掲示板も設置されています。
大なのは、本土移転に際し、政府が「沖縄と同質同量」だと説明していながら、年を追う乙とに内容、部隊の参加規模が拡大するなど飛躍的な強化がされていることです。
当初は155ミリりゅう弾砲の砲撃でしたが、小銃、機関銃のほか白リン弾や照明弾まで使われるようになりました。白リン弾は、空中で爆発し人間の皮膚に付着すると高温で燃え続け、骨まで焼き尽くす残虐兵器です。
沖縄県によると、1973年から97年まで25年間行われた同演習の弾数は3万3100発(弾数不明の年が6回)。一方、本土移転後の23年間での発射弾数は8万1703発にものぼりました。
矢臼別で演習監視行動をしている矢臼別平和委員会の中村忠士事務局長は、「海兵隊という異質の軍隊の訓練を税金で全国各地に引き込んでしまっていることは許しがたい。演習自体を廃止し、その費用を新型コロナウイルス対策、少人数学級など教育・福祉に使うべきだ」と話します。

大分港に陸揚げされる、りゅう弾砲=2月8日、大分市
沖縄県道104号線越え実弾砲撃演習の本土移転にかかる日本側負担額
年度 | 負担額 |
1997 | 626 |
98 | 856 |
99 | 855 |
2000 | 847 |
01 | 823 |
02 | 876 |
03 | 899 |
04 | 982 |
05 | 1096 |
06 | 808 |
07 | 384 |
08 | 411 |
09 | 551 |
10 | 986 |
11 | 626 |
12 | 862 |
13 | 1068 |
14 | 1000 |
15 | 896 |
16 | 862 |
17 | 1087 |
18 | 1237 |
19 | 1311 |
合計 | 19949 |
協定違反続く
さらに、地元との協定さえ踏み破られる事態が続いています。
今年2月に日出生台で行われた同演習では、地元自治体と国で交わした「夜間射撃の終了時間は20時まで」との約束が破られたほか、演習日数も超過。19年度は王城寺原でも日数超過し、本土での同演習は年間合計最大35日以内としたSACO合意にも反する計37日に及びました。
演習を監視する住民グループ「ローカルネット大分・日出生台」の浦田龍次事務局長は、「米軍司令官は地元説明会で“訓練が最優先”と言い放ちましたが、その姿勢が露骨にむき出しになった」と話します。
米軍は日本国民の税金を使って戦闘出撃態勢を強めています。では、肝心の沖縄の負担は軽減されたのでしょうか。
沖縄県平和委員会の大久保康裕事務局長は、在沖米軍に長射程の高機動ロケット砲システム(HIMARS)が配備され、本土での実弾演習にもHIMARSが使用されていると指摘。「むしろ全国的な強化になっている」と語ります。
06年度から費用負担が始まった嘉手納基地(沖縄県)などからの米軍機訓練移転も空対地射爆撃訓練を追加するなど規模が拡大。普天間基地のMV22オスプレイの訓練移転も、沖縄県の調査で、移転期間中に米軍機全体の飛行回数が逆に増えていた実態が明らかになっています。
大久保さんは「オスプレイは日米合意に反し深夜・早朝の飛行を繰り返し、新たな訓練も強化されている。移転で基地問題が解決しないことは明らかだ」と強調します。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月23日付掲載
県民が日常的に利用する県道104号線越えの実弾砲撃演習。
本当はキャンプ・ハンセンでやりたい米軍ですが、世論に押されて移転。
それも日本の税金を使ってです。
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