検証 アベノミクス 同志社大学教授 浜矩子さん④ 憲法の精神 狼は子羊と共に宿る
―いまの日本経済の構造にはどのような問題がありますか。
21世紀に入ったころから、日本経済は「壊れたホットプレート」になっていると考えるようになりました。
二分極化した
ホットプレートの有用性の決め手は、鉄板上にむらなく熱が行き渡ることです。しかしたまに、できの悪いホットプレートがあります。熱が均等に行き渡らず、アツアツのホットスポットと冷え冷えのコールドスポットに二極分化してしまうのです。まさしく日本経済の今日的姿です。日本の壊れたホットプレート上で灼熱地帯に陣取るのが富裕層です。株価が上がれば盛り上がり、高額商品が飛ぶように売れます。かたや永久凍土に閉じ込められているのがワーキングプアといわれる人たちです。一度コールドスポットに追い込まれると、脱出することは至難の業です。
1990年代のバブル崩壊で日本経済が丸ごと集中治療室に入った後、何とか退院という段階で、日本企業を待ち受けていたのはグローバル競争の仮借なき淘汰(とうた)の論理でした。成果主義経営が一気に広がり、人に対する差別と選別が横行しました。グローバルジャングルに放り込まれた日本企業が自己保身に走った結果、壊れたホットプレート化現象が発生したのです。
安倍式経済運営が21世紀版大日本帝国の強い経済基盤づくりを政策目標にしたため、二極分化はさらに進みました。強者をサポートし、弱者を切り捨てるという構えが一段と顕著になりました。アツアツ部分は一段とアツアツになり、冷え冷え部分は一段と冷え冷えになりました。この格差を埋めるために必要なのは、分配です。鉄板全体に熱を上手に行き渡らせるのが分配機能なのです。
「守ろう平和・いのち・くらし」と一斉にアピールする憲法大集会の参加者=5月3日、東京都江東区
「三つの出会い」
―経済活動のあるべき姿と日本国憲法の関係をどう考えますか。
人間のための経済活動の基盤となるのは、三つの出会いです。一つ目は、多様性と包摂性の出会いです。
多様性が大きく包摂性が高い空間では、人の痛みが理解され、異なる者たちが受け入れられます。分かち合いの精神が芽生え、富の偏在を是正する力学が働きます。多様性と包摂性の出会いは、個人の尊重と分配の充実を可能にするのです。
二つ目は、正義と平和の出会いです。
キリスト教の旧約聖書には「正義と平和は抱き合う」という一節があります。胸を打つ美しいフレーズですが、実はとても難しいことをいっています。誰かの正義が誰かの正義と出会うとき、生まれ出るのは平和ではないケースがあまりに多いのです。それでもわれわれは、正義と平和の出会いをめざさなければ幸せになれません。
三つ目は、狼(オオカミ)と子羊の出会いです。
これも旧約聖書に登場する題材です。「狼は子羊と共に宿り、豹(ヒョウ)は子山羊と共に伏す」
狼は強い肉食獣であり、子羊は餌食となる草食動物です。しかし現代のグローバルジャングルでは、狼のような大企業も子羊のような中小零細企業のお世話にならなければ生きていけません。
この三つの出会いの実現している場所が日本国憲法です。とりわけ憲法前文の次のくだりは重要です。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
相手の公正と信義にすべてをゆだねるという大胆にして美しい精神。これこそは正義と平和の出会いを可能にする認識であり、正真正銘の積極的平和主義です。多様性と包摂性の出会いでもあります。異なる発想や文化を持つ者同士が互いを受容するのですから。そうなれば、強い国も弱い国も狼と子羊のごとく助け合って共生することができます。
これら三つの出会いがベースになって人間を幸せにする経済活動の姿ができるのです。21世紀版大日本帝国をめざすような経済運営ではなく、憲法に基づく本物の積極的平和主義の下でこそ、経済活動はその本来の姿を保てるということです。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月6日付掲載
しかしたまに、できの悪いホットプレートがあります。熱が均等に行き渡らず、アツアツのホットスポットと冷え冷えのコールドスポットに二極分化してしまうのです。まさしく日本経済の今日的姿。
日本の壊れたホットプレート上で灼熱地帯に陣取るのが富裕層。株価が上がれば盛り上がり、高額商品が飛ぶように売れる。かたや永久凍土に閉じ込められているのがワーキングプアといわれる人たち。一度コールドスポットに追い込まれると、脱出することは至難の業。
この格差を埋めるために必要なのは、分配です。鉄板全体に熱を上手に行き渡らせるのが分配機能。
人間のための経済活動の基盤となるのは、三つの出会いです。一つ目は、多様性と包摂性の出会い。二つ目は、正義と平和の出会い。
三つ目は、狼(オオカミ)と子羊の出会い。
現代のグローバルジャングルでは、狼のような大企業も子羊のような中小零細企業のお世話にならなければ生きていけない。
この三つの出会いの実現している場所が日本国憲法です。とりわけ憲法前文の次のくだりは重要。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
弱肉強食の新自由主義ではなく、憲法に基づく本物の積極的平和主義の下でこそ、経済活動はその本来の姿を保てる。
―いまの日本経済の構造にはどのような問題がありますか。
21世紀に入ったころから、日本経済は「壊れたホットプレート」になっていると考えるようになりました。
二分極化した
ホットプレートの有用性の決め手は、鉄板上にむらなく熱が行き渡ることです。しかしたまに、できの悪いホットプレートがあります。熱が均等に行き渡らず、アツアツのホットスポットと冷え冷えのコールドスポットに二極分化してしまうのです。まさしく日本経済の今日的姿です。日本の壊れたホットプレート上で灼熱地帯に陣取るのが富裕層です。株価が上がれば盛り上がり、高額商品が飛ぶように売れます。かたや永久凍土に閉じ込められているのがワーキングプアといわれる人たちです。一度コールドスポットに追い込まれると、脱出することは至難の業です。
1990年代のバブル崩壊で日本経済が丸ごと集中治療室に入った後、何とか退院という段階で、日本企業を待ち受けていたのはグローバル競争の仮借なき淘汰(とうた)の論理でした。成果主義経営が一気に広がり、人に対する差別と選別が横行しました。グローバルジャングルに放り込まれた日本企業が自己保身に走った結果、壊れたホットプレート化現象が発生したのです。
安倍式経済運営が21世紀版大日本帝国の強い経済基盤づくりを政策目標にしたため、二極分化はさらに進みました。強者をサポートし、弱者を切り捨てるという構えが一段と顕著になりました。アツアツ部分は一段とアツアツになり、冷え冷え部分は一段と冷え冷えになりました。この格差を埋めるために必要なのは、分配です。鉄板全体に熱を上手に行き渡らせるのが分配機能なのです。
「守ろう平和・いのち・くらし」と一斉にアピールする憲法大集会の参加者=5月3日、東京都江東区
「三つの出会い」
―経済活動のあるべき姿と日本国憲法の関係をどう考えますか。
人間のための経済活動の基盤となるのは、三つの出会いです。一つ目は、多様性と包摂性の出会いです。
多様性が大きく包摂性が高い空間では、人の痛みが理解され、異なる者たちが受け入れられます。分かち合いの精神が芽生え、富の偏在を是正する力学が働きます。多様性と包摂性の出会いは、個人の尊重と分配の充実を可能にするのです。
二つ目は、正義と平和の出会いです。
キリスト教の旧約聖書には「正義と平和は抱き合う」という一節があります。胸を打つ美しいフレーズですが、実はとても難しいことをいっています。誰かの正義が誰かの正義と出会うとき、生まれ出るのは平和ではないケースがあまりに多いのです。それでもわれわれは、正義と平和の出会いをめざさなければ幸せになれません。
三つ目は、狼(オオカミ)と子羊の出会いです。
これも旧約聖書に登場する題材です。「狼は子羊と共に宿り、豹(ヒョウ)は子山羊と共に伏す」
狼は強い肉食獣であり、子羊は餌食となる草食動物です。しかし現代のグローバルジャングルでは、狼のような大企業も子羊のような中小零細企業のお世話にならなければ生きていけません。
この三つの出会いの実現している場所が日本国憲法です。とりわけ憲法前文の次のくだりは重要です。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
相手の公正と信義にすべてをゆだねるという大胆にして美しい精神。これこそは正義と平和の出会いを可能にする認識であり、正真正銘の積極的平和主義です。多様性と包摂性の出会いでもあります。異なる発想や文化を持つ者同士が互いを受容するのですから。そうなれば、強い国も弱い国も狼と子羊のごとく助け合って共生することができます。
これら三つの出会いがベースになって人間を幸せにする経済活動の姿ができるのです。21世紀版大日本帝国をめざすような経済運営ではなく、憲法に基づく本物の積極的平和主義の下でこそ、経済活動はその本来の姿を保てるということです。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月6日付掲載
しかしたまに、できの悪いホットプレートがあります。熱が均等に行き渡らず、アツアツのホットスポットと冷え冷えのコールドスポットに二極分化してしまうのです。まさしく日本経済の今日的姿。
日本の壊れたホットプレート上で灼熱地帯に陣取るのが富裕層。株価が上がれば盛り上がり、高額商品が飛ぶように売れる。かたや永久凍土に閉じ込められているのがワーキングプアといわれる人たち。一度コールドスポットに追い込まれると、脱出することは至難の業。
この格差を埋めるために必要なのは、分配です。鉄板全体に熱を上手に行き渡らせるのが分配機能。
人間のための経済活動の基盤となるのは、三つの出会いです。一つ目は、多様性と包摂性の出会い。二つ目は、正義と平和の出会い。
三つ目は、狼(オオカミ)と子羊の出会い。
現代のグローバルジャングルでは、狼のような大企業も子羊のような中小零細企業のお世話にならなければ生きていけない。
この三つの出会いの実現している場所が日本国憲法です。とりわけ憲法前文の次のくだりは重要。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
弱肉強食の新自由主義ではなく、憲法に基づく本物の積極的平和主義の下でこそ、経済活動はその本来の姿を保てる。
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