検証 アベノミクス 同志社大学教授 浜矩子さん③ 円安神話 神風頼みの浦島太郎
―円安がアベノミクスの狙いの一つだったことは、安倍晋三氏らの当初の発言から明らかでした。浜さんは2013年5月に「円安だけで日本経済は復活しない」(『「アベノミクス」の真相』)と予言しています。この予言も的中しました。
安倍氏らが円安を狙ったのは発想が時代遅れだったからです。高度成長期のイメージに固執し、当時の日本を取り戻そうとしたのです。21世紀版大日本帝国の強い経済基盤という目的のためです。
日本が高度成長したのは1ドル=360円の時代です。1ドル=100円割れの水準を転換して円安に持っていけば、日本経済に神風が吹くと安倍氏らは信じてやまなかったのでしょう。「これは浦島太郎の経済学である」というのが私の考えでした。長い時間がたつうちに状況がまるで変わったことを見過ごしている、という意味です。
高度成長期の日本はまだ戦後の発展途上にあり、輸出主導型成長の国でした。しかし、いまの日本は国内総生産(GDP)世界3位の経済大国です。インフラが整い、経済は育ちあがっています。
千葉県富津市の火力発電所に向けてけん引される液化天然ガス(LNG)タンカー=2017年11月13日(ロイター)
輸入依存度高く
経済活動に占める輸出の割合は低下し、輸入依存度が高くなっています。多様な生活物資を輸入し、サプライチェーン(企業の供給網)もグローバル化しています。輸出企業も輸入部材に大きく依存しています。多少値段が上がっても、生活物資や生産財の輸入量を減らすわけにはいかないという構造です。
成長神話と円安神話を信じる安倍氏らは異次元金融緩和で円を過剰供給状態にし、円の価値を低下させて円安を実現しました。輸入物価が上がれば輸入は減ると考えたのでしょう。しかし輸入量は減らず、かえって輸入の円建て金額が大きく膨らんでしまいました。
輸出も同じです。
高度成長期の日本は高品質のものを低価格で輸出し、アメリカでは「ワンダラー(1ドル)ブラウス」が攻め込んできたと大騒ぎになりました。しかし、いまや低価格品の生産拠点は海外に移転し、日本の輸出品目は値段の安さに依存しない高付加価値品が主になっています。だから、円安で輸出品の値段が安くなるからといって、輸出量が顕著に増えることにはなりません。神風は吹かないのです。
円安追求は、安倍的な考え方の時代錯誤性を最も色濃く体現しているといえます。
―欧米諸国が金融引き締めに転じる中で日銀は緩和に固執し、円安が急進して物価上昇に拍車をかけました。それでも黒田東彦日銀総裁は、日本経済にとっては「全体として円安がプラス」(4月28日)だと述べました。
輸入物価指数は6月に前年同月比46・3%上がりました。生産者は生産コストの上昇に、生活者は生活コストの上昇に見舞われています。多くの中小零細企業は増えたコストを価格に転嫁できていません。その分、賃金に下方圧力が働く、とんでもない状況です。
しかし日銀が円安を止める方向に動くためには国債の大量購入をやめ、財政ファイナンスを断念しなければなりません。それでは「親会社」である政府の命令に反します。だから黒田日銀は「円安はプラス」というお題目を唱えて金融緩和を続けているのでしょう。円安で国民と企業を苦しめてでも財政ファイナンスを続けるという、反国民的な政策姿勢です。
国債保有5割超
―日銀は10年物国債利回りを0・25%以下に抑えるため、6月に国債を16兆円以上も買い入れました。
海外の投機筋が「日銀の政策は続かない」とみて国債を売り、金利に上昇圧力がかかったのです。国債の発行残高に占める日銀の保有割合は5割を超え、日本経済は異様な姿になっています。海外の機関投資家が本気で国債売りに動けば、国内の機関投資家も逃げたい気持ちが強まるでしょう。ものすごく危うい状況です。
最終的には、国債価格が暴落して金利が急騰するのを阻止するために、資金の国際移動を凍結して金融鎖国をするほかなくなる恐れがあります。筋違いな政策運営を続けると、こういうことになるのです。私がアホノミクスという言い方をしてきたゆえんです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月5日付掲載
日本が高度成長したのは1ドル=360円の時代です。1ドル=100円割れの水準を転換して円安に持っていけば、日本経済に神風が吹くと安倍氏らは信じてやまなかったのでしょう。「これは浦島太郎の経済学である」というのが私の考え。
いまや低価格品の生産拠点は海外に移転し、日本の輸出品目は値段の安さに依存しない高付加価値品が主流。だから、円安で輸出品の値段が安くなるからといって、輸出量が顕著に増えることにはなりません。神風は吹かない。
円安を止めるためには、政策金利を上げる必要がある。しかしそうすると、日銀が大量に抱え込んでいる国債の含み損が増えてしまう。
それをだれが負担するか。本来は市場に流通すべき国債。余剰資金をかかえる大資産家や大企業に負担してもらいましょう。
―円安がアベノミクスの狙いの一つだったことは、安倍晋三氏らの当初の発言から明らかでした。浜さんは2013年5月に「円安だけで日本経済は復活しない」(『「アベノミクス」の真相』)と予言しています。この予言も的中しました。
安倍氏らが円安を狙ったのは発想が時代遅れだったからです。高度成長期のイメージに固執し、当時の日本を取り戻そうとしたのです。21世紀版大日本帝国の強い経済基盤という目的のためです。
日本が高度成長したのは1ドル=360円の時代です。1ドル=100円割れの水準を転換して円安に持っていけば、日本経済に神風が吹くと安倍氏らは信じてやまなかったのでしょう。「これは浦島太郎の経済学である」というのが私の考えでした。長い時間がたつうちに状況がまるで変わったことを見過ごしている、という意味です。
高度成長期の日本はまだ戦後の発展途上にあり、輸出主導型成長の国でした。しかし、いまの日本は国内総生産(GDP)世界3位の経済大国です。インフラが整い、経済は育ちあがっています。
千葉県富津市の火力発電所に向けてけん引される液化天然ガス(LNG)タンカー=2017年11月13日(ロイター)
輸入依存度高く
経済活動に占める輸出の割合は低下し、輸入依存度が高くなっています。多様な生活物資を輸入し、サプライチェーン(企業の供給網)もグローバル化しています。輸出企業も輸入部材に大きく依存しています。多少値段が上がっても、生活物資や生産財の輸入量を減らすわけにはいかないという構造です。
成長神話と円安神話を信じる安倍氏らは異次元金融緩和で円を過剰供給状態にし、円の価値を低下させて円安を実現しました。輸入物価が上がれば輸入は減ると考えたのでしょう。しかし輸入量は減らず、かえって輸入の円建て金額が大きく膨らんでしまいました。
輸出も同じです。
高度成長期の日本は高品質のものを低価格で輸出し、アメリカでは「ワンダラー(1ドル)ブラウス」が攻め込んできたと大騒ぎになりました。しかし、いまや低価格品の生産拠点は海外に移転し、日本の輸出品目は値段の安さに依存しない高付加価値品が主になっています。だから、円安で輸出品の値段が安くなるからといって、輸出量が顕著に増えることにはなりません。神風は吹かないのです。
円安追求は、安倍的な考え方の時代錯誤性を最も色濃く体現しているといえます。
―欧米諸国が金融引き締めに転じる中で日銀は緩和に固執し、円安が急進して物価上昇に拍車をかけました。それでも黒田東彦日銀総裁は、日本経済にとっては「全体として円安がプラス」(4月28日)だと述べました。
輸入物価指数は6月に前年同月比46・3%上がりました。生産者は生産コストの上昇に、生活者は生活コストの上昇に見舞われています。多くの中小零細企業は増えたコストを価格に転嫁できていません。その分、賃金に下方圧力が働く、とんでもない状況です。
しかし日銀が円安を止める方向に動くためには国債の大量購入をやめ、財政ファイナンスを断念しなければなりません。それでは「親会社」である政府の命令に反します。だから黒田日銀は「円安はプラス」というお題目を唱えて金融緩和を続けているのでしょう。円安で国民と企業を苦しめてでも財政ファイナンスを続けるという、反国民的な政策姿勢です。
国債保有5割超
―日銀は10年物国債利回りを0・25%以下に抑えるため、6月に国債を16兆円以上も買い入れました。
海外の投機筋が「日銀の政策は続かない」とみて国債を売り、金利に上昇圧力がかかったのです。国債の発行残高に占める日銀の保有割合は5割を超え、日本経済は異様な姿になっています。海外の機関投資家が本気で国債売りに動けば、国内の機関投資家も逃げたい気持ちが強まるでしょう。ものすごく危うい状況です。
最終的には、国債価格が暴落して金利が急騰するのを阻止するために、資金の国際移動を凍結して金融鎖国をするほかなくなる恐れがあります。筋違いな政策運営を続けると、こういうことになるのです。私がアホノミクスという言い方をしてきたゆえんです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月5日付掲載
日本が高度成長したのは1ドル=360円の時代です。1ドル=100円割れの水準を転換して円安に持っていけば、日本経済に神風が吹くと安倍氏らは信じてやまなかったのでしょう。「これは浦島太郎の経済学である」というのが私の考え。
いまや低価格品の生産拠点は海外に移転し、日本の輸出品目は値段の安さに依存しない高付加価値品が主流。だから、円安で輸出品の値段が安くなるからといって、輸出量が顕著に増えることにはなりません。神風は吹かない。
円安を止めるためには、政策金利を上げる必要がある。しかしそうすると、日銀が大量に抱え込んでいる国債の含み損が増えてしまう。
それをだれが負担するか。本来は市場に流通すべき国債。余剰資金をかかえる大資産家や大企業に負担してもらいましょう。
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