経済政策総点検 骨太方針と成長戦略 ① 財界要求丸のみ 金権腐敗を体現
岸田文雄政権が6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(成長戦略)は、政府の経済政策と予算編成の基本的な方向性をまとめた文書です。その全体を点検します。
骨太方針と成長戦略を貫く特徴は、自民党の金権腐敗政治を体現していることです。
骨太方針は内閣府の経済財政諮問会議で、成長戦略は内閣官房の新しい資本主義実現会議で議論されてきました。どちらの会議でも、岸田文雄首相が議長を務め、財界団体の代表者(十倉雅和経団連会長と新浪剛史経済同友会代表幹事)が構成員になっています。
財界代表者らは毎回の会議に要求書を提出し、大企業の利益を第一にする政策を求めました。それらの要求がそっくりそのまま骨太方針と成長戦略に取り入れられています。大企業からの献金にどっぷりつかった自民党が、大企業に巨大な見返りを与えるための政策集となっています。十倉氏と新浪氏は骨太方針が閣議決定された6月21日に談話を公表し、「日本経済を成長型の新たなステージへ移行させるための政策が数多く盛り込まれている」(十倉氏)などと賛美しました。
日本経済の現状は深刻です。賃金低迷と物価高騰により、実質賃金は26カ月連続で前年同月より減っています(グラフ1)。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(24年6月)では、景況感が「良くなった」との回答は7・7%にとどまり、「悪くなった」が57・5%を占めます。(グラフ2)
ところが骨太方針は「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」と述べます。
財界代表の意見をおうむ返しにし、国民生活を苦しめている物価高騰を歓迎するのです。異常円安と強欲インフレ(便乗値上げ)で大もうけしている多国籍大企業の立場を反映しています。
社会保障カット
財界代表が求めた経済・財政政策の中心は①社会保障を標的にした「歳出改革」②特定の大企業を支援する「投資促進策」③「人材確保」のための「労働移動円滑化」―でした。これらが丸ごと岸田政権の基本方針とされています。
骨太方針は国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に「黒字化」する目標を明記。国内総生産(GDP)比で政府債務残高を引き下げるため、25年度から27年度に集中的な「歳出改革」を行うなど、国の予算の削減・抑制を強調しています。「財政健全化」を口実に社会保障費を削減の標的とし、大企業の税・社会保険料負担の軽減を図るものです。5年で43兆円の大軍拡のツケを国民に回すという意味合いもあります。
社会保障については、23年12月に閣議決定した「改革工程」(全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋)を「着実に推進する」と表明。医療と介護の給付を減らし、患者や要介護者の負担を増やす方針を示しました。年金については毎年のように減額する現行制度を温存します。
「全世代型社会保障」とごまかして全世代に負担増を押し付け、経済に大打撃を与える政策です。国民の実質所得低下から人口減少を招いた「コストカット経済」の大失敗を繰り返そうとしています。
経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で発言する岸田文雄首相=6月21日、首相官邸ホームページから
雇用を不安定化
他方で、骨太方針も成長戦略も「経済あっての財政」を強調し、大企業優遇政策を列挙します。国民向け歳出には大ナタをふるいながら、特定の大企業には「官民連携」「経済安保」などの名目で政府財政からの支援を惜しみなく注ぎます。人工知能(AI)や半導体の分野で研究開発や国内拠点整備などに「政策支援を集中投入する」としました。
戦争する国づくりと日米軍需産業支援に向けた大軍拡にも熱心です。「防衛力強化」のための歳出については「多年度にわたり計画的に拡充する」と例外扱いする方針を明記。新たな軍拡増税で国民に負担を押し付ける方針まで示しています。
気候危機対策のGX(グリーントランスフォーメーション=脱炭素化)も、財界が切望する原発推進の口実として扱います。「脱炭素電源」として原発を「最大限活用する」と明記し、再稼働を狙うほか、「次世代革新炉の開発・建設」や老朽原発の「建て替えの具体化」を進めるとしました。
骨太方針と成長戦略は賃上げの重要性を強調しますが、そのための施策と偽って、財界の宿願である雇用の流動化を推し進める構えです。それが「三位一体の労働市場改革」(①労働者の学び直し促進②職務給の導入③労働移動の円滑化)です。大企業が雇用維持の・責任を放棄し、必要なときに必要なだけ「人材」を確保するための政策です。多くの労働者に賃下げと雇用の不安定化をもたらします。
(清水渡、杉本恒如)(つづく)(10回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年7月18日付掲載
骨太方針は内閣府の経済財政諮問会議で、成長戦略は内閣官房の新しい資本主義実現会議で議論。どちらの会議でも、岸田文雄首相が議長を務め、財界団体の代表者(十倉雅和経団連会長と新浪剛史経済同友会代表幹事)が構成員に。
日本経済の現状は深刻。賃金低迷と物価高騰により、実質賃金は26カ月連続で前年同月より減っています(グラフ1)。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(24年6月)では、景況感が「良くなった」との回答は7・7%にとどまり、「悪くなった」が57・5%を占めます。(グラフ2)
財界代表が求めた経済・財政政策の中心は①社会保障を標的にした「歳出改革」②特定の大企業を支援する「投資促進策」③「人材確保」のための「労働移動円滑化」―でした。これらが丸ごと岸田政権の基本方針と。
骨太方針と成長戦略は賃上げの重要性を強調しますが、そのための施策と偽って、財界の宿願である雇用の流動化を推し進める構え。それが「三位一体の労働市場改革」(①労働者の学び直し促進②職務給の導入③労働移動の円滑化)。
岸田文雄政権が6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(成長戦略)は、政府の経済政策と予算編成の基本的な方向性をまとめた文書です。その全体を点検します。
骨太方針と成長戦略を貫く特徴は、自民党の金権腐敗政治を体現していることです。
骨太方針は内閣府の経済財政諮問会議で、成長戦略は内閣官房の新しい資本主義実現会議で議論されてきました。どちらの会議でも、岸田文雄首相が議長を務め、財界団体の代表者(十倉雅和経団連会長と新浪剛史経済同友会代表幹事)が構成員になっています。
財界代表者らは毎回の会議に要求書を提出し、大企業の利益を第一にする政策を求めました。それらの要求がそっくりそのまま骨太方針と成長戦略に取り入れられています。大企業からの献金にどっぷりつかった自民党が、大企業に巨大な見返りを与えるための政策集となっています。十倉氏と新浪氏は骨太方針が閣議決定された6月21日に談話を公表し、「日本経済を成長型の新たなステージへ移行させるための政策が数多く盛り込まれている」(十倉氏)などと賛美しました。
日本経済の現状は深刻です。賃金低迷と物価高騰により、実質賃金は26カ月連続で前年同月より減っています(グラフ1)。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(24年6月)では、景況感が「良くなった」との回答は7・7%にとどまり、「悪くなった」が57・5%を占めます。(グラフ2)
ところが骨太方針は「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」と述べます。
財界代表の意見をおうむ返しにし、国民生活を苦しめている物価高騰を歓迎するのです。異常円安と強欲インフレ(便乗値上げ)で大もうけしている多国籍大企業の立場を反映しています。
社会保障カット
財界代表が求めた経済・財政政策の中心は①社会保障を標的にした「歳出改革」②特定の大企業を支援する「投資促進策」③「人材確保」のための「労働移動円滑化」―でした。これらが丸ごと岸田政権の基本方針とされています。
骨太方針は国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に「黒字化」する目標を明記。国内総生産(GDP)比で政府債務残高を引き下げるため、25年度から27年度に集中的な「歳出改革」を行うなど、国の予算の削減・抑制を強調しています。「財政健全化」を口実に社会保障費を削減の標的とし、大企業の税・社会保険料負担の軽減を図るものです。5年で43兆円の大軍拡のツケを国民に回すという意味合いもあります。
社会保障については、23年12月に閣議決定した「改革工程」(全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋)を「着実に推進する」と表明。医療と介護の給付を減らし、患者や要介護者の負担を増やす方針を示しました。年金については毎年のように減額する現行制度を温存します。
「全世代型社会保障」とごまかして全世代に負担増を押し付け、経済に大打撃を与える政策です。国民の実質所得低下から人口減少を招いた「コストカット経済」の大失敗を繰り返そうとしています。
経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で発言する岸田文雄首相=6月21日、首相官邸ホームページから
雇用を不安定化
他方で、骨太方針も成長戦略も「経済あっての財政」を強調し、大企業優遇政策を列挙します。国民向け歳出には大ナタをふるいながら、特定の大企業には「官民連携」「経済安保」などの名目で政府財政からの支援を惜しみなく注ぎます。人工知能(AI)や半導体の分野で研究開発や国内拠点整備などに「政策支援を集中投入する」としました。
戦争する国づくりと日米軍需産業支援に向けた大軍拡にも熱心です。「防衛力強化」のための歳出については「多年度にわたり計画的に拡充する」と例外扱いする方針を明記。新たな軍拡増税で国民に負担を押し付ける方針まで示しています。
気候危機対策のGX(グリーントランスフォーメーション=脱炭素化)も、財界が切望する原発推進の口実として扱います。「脱炭素電源」として原発を「最大限活用する」と明記し、再稼働を狙うほか、「次世代革新炉の開発・建設」や老朽原発の「建て替えの具体化」を進めるとしました。
骨太方針と成長戦略は賃上げの重要性を強調しますが、そのための施策と偽って、財界の宿願である雇用の流動化を推し進める構えです。それが「三位一体の労働市場改革」(①労働者の学び直し促進②職務給の導入③労働移動の円滑化)です。大企業が雇用維持の・責任を放棄し、必要なときに必要なだけ「人材」を確保するための政策です。多くの労働者に賃下げと雇用の不安定化をもたらします。
(清水渡、杉本恒如)(つづく)(10回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年7月18日付掲載
骨太方針は内閣府の経済財政諮問会議で、成長戦略は内閣官房の新しい資本主義実現会議で議論。どちらの会議でも、岸田文雄首相が議長を務め、財界団体の代表者(十倉雅和経団連会長と新浪剛史経済同友会代表幹事)が構成員に。
日本経済の現状は深刻。賃金低迷と物価高騰により、実質賃金は26カ月連続で前年同月より減っています(グラフ1)。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(24年6月)では、景況感が「良くなった」との回答は7・7%にとどまり、「悪くなった」が57・5%を占めます。(グラフ2)
財界代表が求めた経済・財政政策の中心は①社会保障を標的にした「歳出改革」②特定の大企業を支援する「投資促進策」③「人材確保」のための「労働移動円滑化」―でした。これらが丸ごと岸田政権の基本方針と。
骨太方針と成長戦略は賃上げの重要性を強調しますが、そのための施策と偽って、財界の宿願である雇用の流動化を推し進める構え。それが「三位一体の労働市場改革」(①労働者の学び直し促進②職務給の導入③労働移動の円滑化)。
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