GAFAと新自由主義④ 独占禁止 技術革新促す
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
―「独占規制は技術革新を妨げる」という主張があります。
社会的な規制
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の反トラスト法違反は、個人情報の乱用や人権の侵害に関わっています。デジタル・ネットワーク時代の新しい独占によって生じた新しい問題です。その規制には大きな社会的意義があります。単に市場独占に対する経済的規制であるだけではなく、人間の理性や自由を取り戻すための社会的な規制だといえます。
もう一つ大きな意義は、独占禁止措置が技術革新を促進する役割を果たすことです。逆説的にみえますが、米国におけるイノベーション(技術革新)の歴史の中で反トラスト法(独占禁止法)が果たしてきた役割はたいへん大きいのです。バイデン政権がめざすGAFA規制にも同じことが期待できます。
GAFAは当初、デジタル技術革新の担い手でした。しかし合併・買収(M&A)などで市場を独占し、独占的利益の追求を優先する中で変質してきました。いまや、IoT(モノのインターネット)などの新しい技術革新を進める障害となっています。ですからGAFAの独占規制は、技術革新を促進する社会制度・法的枠組みにもなるのです。
―1~3月期決算でアマゾンの純損益は赤字に転落し、グーグル(アルファベット)とフェイスブック(メタ)は前年同期比で減益となりました。
フェイスブックの事例をみてみましょう。
フェイスブックは交流サイト(SNS)のデジタル・ネットワーク技術を革新する最先端にいるようにみえます。しかし現実には、その技術を独占しているがゆえに、次世代の技術革新の投資からかなり遅れています。それはフェイスブックの経営環境の厳しさが増していることにも現れています。
フェイスブックは、アップルがプライバシー保護を強化したことに伴い、主力のネット広告事業の成長を鈍化させ始めました。また、元社員の内部告発に端を発する企業体質への批判は米国外にも広がり、広告事業はさらに落ち込んできています。フェイスブックは企業収益の9割を広告事業の収入に依存していますので、反トラスト法規制が加わると、経営環境が一層厳しくなるでしょう。
そこでフェイスブックは2021年10月、創業(04年)以来の事業転換に打って出ました。社名を「メタ」に変更し、事業の軸足をこれまでのSNSから仮想空間(メタバース)の構築や関連サービスに移すと発表したのです。しかし、その事業の収益化への道のりは遠く、一方で企業体質や管理体制への批判は高まっています。
メタ(フェイスブック)の初めての実店舗でヘッドセットの実演を行う新規事業責任者=5月4日、米カリフォルニア州(ロイター)
盛者必衰の理
かつてイノベーター(技術革新の担い手)であった優良な企業は、自社が開発した革新的技術の事業化に成功すると、その技術と事業から得られる独占的な利益に固執し、守ろうとします。そのために新しい技術革新の登場に気づかず、新しい技術革新の事業化に魅力を感じられなくなり、技術革新への投資で遅れを取るのです。
フェイスブックは、この「イノベーターのジレンマ」に陥ったといえるでしょう。「盛者必衰の理(ことわり)」(『平家物語』)を現しているかのようです。
社会的批判と反トラスト法規制によって独占的利益を失う危険に直面したフェイスブックは、21年12月期にメタバース事業に約100億ドル(約1兆3000億円)を投じ、さらに増やしていく考えを表明しています。これ自体、社会的規制が技術革新を促進することを証明する一つの事例だといえます。
ただし、フェイスブックの技術革新と事業転換が成功するかどうかはまだわかりません。世界最大規模のデジタル独占企業フェイスブックは現在、岐路に立たされているのです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年5月17日付掲載
GAFAへの独占規制は、個人情報の乱用や人権の侵害に関わってくる。デジタル・ネットワーク時代の新しい独占によって生じた新しい問題。その規制には大きな社会的意義が。単に市場独占に対する経済的規制であるだけではなく、人間の理性や自由を取り戻すための社会的な規制です。
もう一つ大きな意義は、独占禁止措置が技術革新を促進する役割を果たすこと。
平家ではありませんが、「盛者必衰の理(ことわり)」。市場の独占をすると、その技術の陳腐化が起こる。
フェイスブックは、事業の軸足をこれまでのSNSから仮想空間(メタバース)の構築や関連サービスに移すと発表。ヘッドセットなども独自開発です。
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
―「独占規制は技術革新を妨げる」という主張があります。
社会的な規制
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の反トラスト法違反は、個人情報の乱用や人権の侵害に関わっています。デジタル・ネットワーク時代の新しい独占によって生じた新しい問題です。その規制には大きな社会的意義があります。単に市場独占に対する経済的規制であるだけではなく、人間の理性や自由を取り戻すための社会的な規制だといえます。
もう一つ大きな意義は、独占禁止措置が技術革新を促進する役割を果たすことです。逆説的にみえますが、米国におけるイノベーション(技術革新)の歴史の中で反トラスト法(独占禁止法)が果たしてきた役割はたいへん大きいのです。バイデン政権がめざすGAFA規制にも同じことが期待できます。
GAFAは当初、デジタル技術革新の担い手でした。しかし合併・買収(M&A)などで市場を独占し、独占的利益の追求を優先する中で変質してきました。いまや、IoT(モノのインターネット)などの新しい技術革新を進める障害となっています。ですからGAFAの独占規制は、技術革新を促進する社会制度・法的枠組みにもなるのです。
―1~3月期決算でアマゾンの純損益は赤字に転落し、グーグル(アルファベット)とフェイスブック(メタ)は前年同期比で減益となりました。
フェイスブックの事例をみてみましょう。
フェイスブックは交流サイト(SNS)のデジタル・ネットワーク技術を革新する最先端にいるようにみえます。しかし現実には、その技術を独占しているがゆえに、次世代の技術革新の投資からかなり遅れています。それはフェイスブックの経営環境の厳しさが増していることにも現れています。
フェイスブックは、アップルがプライバシー保護を強化したことに伴い、主力のネット広告事業の成長を鈍化させ始めました。また、元社員の内部告発に端を発する企業体質への批判は米国外にも広がり、広告事業はさらに落ち込んできています。フェイスブックは企業収益の9割を広告事業の収入に依存していますので、反トラスト法規制が加わると、経営環境が一層厳しくなるでしょう。
そこでフェイスブックは2021年10月、創業(04年)以来の事業転換に打って出ました。社名を「メタ」に変更し、事業の軸足をこれまでのSNSから仮想空間(メタバース)の構築や関連サービスに移すと発表したのです。しかし、その事業の収益化への道のりは遠く、一方で企業体質や管理体制への批判は高まっています。
メタ(フェイスブック)の初めての実店舗でヘッドセットの実演を行う新規事業責任者=5月4日、米カリフォルニア州(ロイター)
盛者必衰の理
かつてイノベーター(技術革新の担い手)であった優良な企業は、自社が開発した革新的技術の事業化に成功すると、その技術と事業から得られる独占的な利益に固執し、守ろうとします。そのために新しい技術革新の登場に気づかず、新しい技術革新の事業化に魅力を感じられなくなり、技術革新への投資で遅れを取るのです。
フェイスブックは、この「イノベーターのジレンマ」に陥ったといえるでしょう。「盛者必衰の理(ことわり)」(『平家物語』)を現しているかのようです。
社会的批判と反トラスト法規制によって独占的利益を失う危険に直面したフェイスブックは、21年12月期にメタバース事業に約100億ドル(約1兆3000億円)を投じ、さらに増やしていく考えを表明しています。これ自体、社会的規制が技術革新を促進することを証明する一つの事例だといえます。
ただし、フェイスブックの技術革新と事業転換が成功するかどうかはまだわかりません。世界最大規模のデジタル独占企業フェイスブックは現在、岐路に立たされているのです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年5月17日付掲載
GAFAへの独占規制は、個人情報の乱用や人権の侵害に関わってくる。デジタル・ネットワーク時代の新しい独占によって生じた新しい問題。その規制には大きな社会的意義が。単に市場独占に対する経済的規制であるだけではなく、人間の理性や自由を取り戻すための社会的な規制です。
もう一つ大きな意義は、独占禁止措置が技術革新を促進する役割を果たすこと。
平家ではありませんが、「盛者必衰の理(ことわり)」。市場の独占をすると、その技術の陳腐化が起こる。
フェイスブックは、事業の軸足をこれまでのSNSから仮想空間(メタバース)の構築や関連サービスに移すと発表。ヘッドセットなども独自開発です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます