GAFAと新自由主義⑤ 社会運動と結びつく規制
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
―米バイデン政権をGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)規制に突き動かしているものはなんでしょうか。
バイデン政権はGAFA規制に向けて本格的に始動しています。その内容は単なる経済的規制にとどまらず、個人のプライバシーや人権を守り、民主主義を守るうえで重要な社会的な規制となっています。こうした規制をめざすのは、GAFAのビジネスが米国内外で広範な批判を浴びているからです。新自由主義への批判が根底にあります。また、バイデン政権によるGAFA規制の動きは、民主的な規制を求める社会運動と結び付いている点が重要です。
刺激的な情報
欧米では、誤情報や偽情報、陰謀説を無責任に広げるソーシャルメディア(交流サイトやブログなど万人が参加できる双方向発信のメディア)への批判が高まっています。ターゲット(標的型)広告を利用する情報発信者は閲覧数などに応じて広告料の一部を配分されます。真偽に関係なく、刺激的な情報を拡散して注目を集めれば、広告収入が増えます。これは言論の自由の問題ではなく、ターゲット広告ビジネスが危険情報を広げ、人権を侵害し、民主主義を壊す基盤になっているという問題なのです。
2021年春には、欧州連合(EU)で個人データ保護の監視に責任を持つ欧州データ保護監督官がターゲット広告ビジネスを禁止する立法を呼びかけました。同時期に米国では多数の市民団体、非営利団体が共同でターゲット広告禁止の立法を求めるオンライン署名運動を立ち上げました。夏には欧州の団体が合流し、欧米共通の運動に拡大しました。
「監視資本主義」批判に始まり、GAFAへの社会的批判は大きな広がりを持っています。GAFAは優越的地位を乱用して中小企業に不公正な契約・取引関係を強いていると批判を浴びています。
アマゾンが物流センターの非正規労働者を劣悪な環境で働かせていることも非難の的となっています。インターネットを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」に宅配サービスを委ねていることも問題になっています。EUの政策執行機関である欧州委員会はギグワーカーの権利を擁護し、最低賃金や有給休暇を保障するために、欧州議会に法案を提出しました。
さらにGAFAは物的な工場や施設を国外に所有しないデジタル多国籍企業であることから、進出先の国々で課税を逃れているという問題が国際政治の焦点になっています。
米ニューヨーク州スタテン島にあるアマゾンの施設で開かれたアマゾン労働組合の集会で発言するマーニー・サンダース上院議員=4月24日(ロイター)
労組と市民で
―GAFA規制は実現するでしょうか。
バイデン政権によるGAFA規制の審議と実現のプロセスは、容易な道のりではありません。新自由主義を信奉する野党・共和党の反発が予想されます。また、すでに米国財界・産業界の反撃が始まっています。
21年11月19日、全米商工会議所が「連邦取引委員会(FTC)は米国企業に戦争をしかけている。自由企業や米国の競争力、経済成長を守るために反撃する」と宣言しました。FTCは「企業のロビイストから脅迫されても引き下がるつもりはない」と表明し、一歩も引かない構えです。
新自由主義を転換してGAFAを規制する道のりが平たんではないからこそ、社会的な規制を求める社会運動との結び付きが重要です。民主的な規制を実現するためには、経済民主主義の主体である労働組合と市民の運動が欠かせません。米国財界・産業界の圧力に対抗し、GAFAによる監視資本主義を克服するためには、労働組合と市民によるGAFA監視運動が重要な意味を持つのです。
他方、日本では岸田文雄政権が「デジタル化」一辺倒の姿勢をとり、個人情報の保護をなおざりにして監視資本主義を推進しています。「新しい資本主義」どころか、周回遅れの「マイナンバーカード資本主義」が岸田政権の素顔です。
GAFAの母国である米国のバイデン政権がGAFAを規制する方向へかじを切る中で、恥ずかしい限りです。GAFAの支配と岸田政権の逆行に歯止めをかける労働運動と市民運動を、日本で広げていくことが大事です。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年5月18日付掲載
新自由主義を転換してGAFAを規制する道のりが平たんではないからこそ、社会的な規制を求める社会運動との結び付きが重要。民主的な規制を実現するためには、経済民主主義の主体である労働組合と市民の運動が欠かせない。米国財界・産業界の圧力に対抗し、GAFAによる監視資本主義を克服するためには、労働組合と市民によるGAFA監視運動が重要な意味を持つ。
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
―米バイデン政権をGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)規制に突き動かしているものはなんでしょうか。
バイデン政権はGAFA規制に向けて本格的に始動しています。その内容は単なる経済的規制にとどまらず、個人のプライバシーや人権を守り、民主主義を守るうえで重要な社会的な規制となっています。こうした規制をめざすのは、GAFAのビジネスが米国内外で広範な批判を浴びているからです。新自由主義への批判が根底にあります。また、バイデン政権によるGAFA規制の動きは、民主的な規制を求める社会運動と結び付いている点が重要です。
刺激的な情報
欧米では、誤情報や偽情報、陰謀説を無責任に広げるソーシャルメディア(交流サイトやブログなど万人が参加できる双方向発信のメディア)への批判が高まっています。ターゲット(標的型)広告を利用する情報発信者は閲覧数などに応じて広告料の一部を配分されます。真偽に関係なく、刺激的な情報を拡散して注目を集めれば、広告収入が増えます。これは言論の自由の問題ではなく、ターゲット広告ビジネスが危険情報を広げ、人権を侵害し、民主主義を壊す基盤になっているという問題なのです。
2021年春には、欧州連合(EU)で個人データ保護の監視に責任を持つ欧州データ保護監督官がターゲット広告ビジネスを禁止する立法を呼びかけました。同時期に米国では多数の市民団体、非営利団体が共同でターゲット広告禁止の立法を求めるオンライン署名運動を立ち上げました。夏には欧州の団体が合流し、欧米共通の運動に拡大しました。
「監視資本主義」批判に始まり、GAFAへの社会的批判は大きな広がりを持っています。GAFAは優越的地位を乱用して中小企業に不公正な契約・取引関係を強いていると批判を浴びています。
アマゾンが物流センターの非正規労働者を劣悪な環境で働かせていることも非難の的となっています。インターネットを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」に宅配サービスを委ねていることも問題になっています。EUの政策執行機関である欧州委員会はギグワーカーの権利を擁護し、最低賃金や有給休暇を保障するために、欧州議会に法案を提出しました。
さらにGAFAは物的な工場や施設を国外に所有しないデジタル多国籍企業であることから、進出先の国々で課税を逃れているという問題が国際政治の焦点になっています。
米ニューヨーク州スタテン島にあるアマゾンの施設で開かれたアマゾン労働組合の集会で発言するマーニー・サンダース上院議員=4月24日(ロイター)
労組と市民で
―GAFA規制は実現するでしょうか。
バイデン政権によるGAFA規制の審議と実現のプロセスは、容易な道のりではありません。新自由主義を信奉する野党・共和党の反発が予想されます。また、すでに米国財界・産業界の反撃が始まっています。
21年11月19日、全米商工会議所が「連邦取引委員会(FTC)は米国企業に戦争をしかけている。自由企業や米国の競争力、経済成長を守るために反撃する」と宣言しました。FTCは「企業のロビイストから脅迫されても引き下がるつもりはない」と表明し、一歩も引かない構えです。
新自由主義を転換してGAFAを規制する道のりが平たんではないからこそ、社会的な規制を求める社会運動との結び付きが重要です。民主的な規制を実現するためには、経済民主主義の主体である労働組合と市民の運動が欠かせません。米国財界・産業界の圧力に対抗し、GAFAによる監視資本主義を克服するためには、労働組合と市民によるGAFA監視運動が重要な意味を持つのです。
他方、日本では岸田文雄政権が「デジタル化」一辺倒の姿勢をとり、個人情報の保護をなおざりにして監視資本主義を推進しています。「新しい資本主義」どころか、周回遅れの「マイナンバーカード資本主義」が岸田政権の素顔です。
GAFAの母国である米国のバイデン政権がGAFAを規制する方向へかじを切る中で、恥ずかしい限りです。GAFAの支配と岸田政権の逆行に歯止めをかける労働運動と市民運動を、日本で広げていくことが大事です。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年5月18日付掲載
新自由主義を転換してGAFAを規制する道のりが平たんではないからこそ、社会的な規制を求める社会運動との結び付きが重要。民主的な規制を実現するためには、経済民主主義の主体である労働組合と市民の運動が欠かせない。米国財界・産業界の圧力に対抗し、GAFAによる監視資本主義を克服するためには、労働組合と市民によるGAFA監視運動が重要な意味を持つ。
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