検証金融政策② 富裕層だけが資産増
群馬大学名誉教授・山田博文さん
米バイデン政権はコロナ禍対策もあって「大きな政府」にかじを切り、大型景気対策に乗り出しましたが、金融政策の2%物価目標は掲げたままです。この20年間のアメリカの実質経済成長率平均2・1%(ちなみに経済協力開発機構〈OECD〉全体1・99%、日本0・9%)の実現を金融政策から支援しているのでしょう。
他国の物価目標を先取りしてきた日銀が「2%物価目標」の看板を降ろさない主な理由は、異次元金融緩和を継続することによって、低金利、バブル経済、円安を誘導し、「デフレ不況」対策という大義名分で、大資本・国家・富裕層の利益を増やしてやるためといえます。それは、異次元金融緩和下の日本の経済動向(表)から検証されます。
異次元金融緩和下(2012年→20年)の経済停滞・株高・円安・格差拡大
日本銀行『金融経済統計月報』各号、『全国銀行財務諸表』各号、『法人企業統計』各号、日銀HP、財務省HP、JPXHP、野村総合研究所HPなどから筆者作成。富裕層とは純金融資産1億円以上の世帯。
※輸出大手のトヨタは1円の円安で約400億円の為替差益。20円の円安で8000億円の差益
貧困格差は拡大
2012年以降、日銀が躍起になってマネタリーベースを5・7倍に増やしたというのに、マネーストックは1・4倍にとどまり、実体経済(GDP)は1・05倍にしか成長していません。むしろ消費税増税や社会保険料の増大で国民負担率が上がり、国民生活は悪化しました。年収200万円以下の勤労者は4人に1人の1200万人に増大し、国民生活は深刻化しました。政府債務も増大する一方で、とうとう1355兆円まで膨らんでしまいました。
他方で、異次元金融緩和下で大きく伸びた経済指標があります。株価、株式時価総額、全産業の利益剰余金、富裕層の純金融資産などは、この期間に2倍ほどへ増大しました。大資本や富裕層の利益だけが大きく伸びました。
金融政策のあり方を決定する日銀の「政策委員会」の9人のメンバーには国民生活と消費者の代表は含まれていません。異次元金融緩和政策で供給された大量のマネーは、生活を支える実体経済の成長や生産的な投資でなく、株式市場や海外投資などに向かい、株高や対外金融資産の積み上げに利用されました。株式投資や対外投資のできる大資本や富裕層は自分の金融資産を倍増できました。値上がり株の一部を売ったお金で、高級別荘や高額商品が飛ぶように売れる一方で、貯蓄のない世帯が3割に達しています。
異常に増大したマネタリーベースの中の現金通貨(うち日銀券)は116兆円です。その内訳を見ると、1万円札が一番多く109億枚(109兆円)ですが、買い物に一番使われる千円札は43億枚(4兆3000億円)にすぎません。増発された1万円札のほとんどは、家庭の「へそくり」・「タンス預金」というより、大資本や富裕層の脱税のための資産隠しとして秘密の場所に退蔵されているようです。
国会で答弁する黒田東彦日銀総裁=2019年2月19日、衆院財務金融委員会
日銀が株を買い
中央銀行が株式を買い、民間会社に資本金を提供する、世界に例のないことをやっているのが日銀です。日銀は、株価指数連動型上場投資信託(ETF)という金融商品を買って、株式市場に日銀マネーを供給し、官製株式バブルを誘導しています。海外投資家の日本株の売り逃げなどで株価が下落すると、すかさず日銀が買いに入り、株価を高値で維持する株価維持策を続けています。
すでに日銀の買った株式ETFは36兆円(簿価)に達しました。日銀が最大の「株主」になり、会社の経営に公的な意見が反映されるかと思いきや、日銀には株主の議決権はなく、株主総会で発言できず、経営のあり方に口出しできません。
株主の議決権は、野村・日興・大和など、株式ETFの三大運用会社にあります。日銀は、金は出すが、口は出せない存在です。その上、株価が下落し、日経平均株価で約2万円を割り込むと、日銀には株式の損失が発生し、「円」の信用が毀損(きそん)します。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年6月16日付掲載
日銀が躍起になってマネタリーベースを5・7倍に増やしたというのに、マネーストックは1・4倍にとどまり、実体経済(GDP)は1・05倍にしか成長していない。むしろ消費税増税や社会保険料の増大で国民負担率が上がり、国民生活は悪化。
年収200万円以下の勤労者は4人に1人の1200万人に増大し、国民生活は深刻化。
異常に増大したマネタリーベースの中の現金通貨(うち日銀券)は116兆円です。その内訳を見ると、1万円札が一番多く109億枚(109兆円)ですが、買い物に一番使われる千円札は43億枚(4兆3000億円)。市中に出回っているのが千円札より1万円札の方が多いって奇妙な現象ですね。
大資本や富裕層の脱税のための資産隠しとして、株式や預貯金ではなく現ナマで秘密の場所に退蔵。
群馬大学名誉教授・山田博文さん
米バイデン政権はコロナ禍対策もあって「大きな政府」にかじを切り、大型景気対策に乗り出しましたが、金融政策の2%物価目標は掲げたままです。この20年間のアメリカの実質経済成長率平均2・1%(ちなみに経済協力開発機構〈OECD〉全体1・99%、日本0・9%)の実現を金融政策から支援しているのでしょう。
他国の物価目標を先取りしてきた日銀が「2%物価目標」の看板を降ろさない主な理由は、異次元金融緩和を継続することによって、低金利、バブル経済、円安を誘導し、「デフレ不況」対策という大義名分で、大資本・国家・富裕層の利益を増やしてやるためといえます。それは、異次元金融緩和下の日本の経済動向(表)から検証されます。
異次元金融緩和下(2012年→20年)の経済停滞・株高・円安・格差拡大
項目 | 12年近傍(A) | 20年近傍(B) | B/A(B-A) |
マネタリーべース | 112 兆円 | 644兆円 | 5.7倍 |
マネーストック | 816兆円 | 1161兆円 | 1.4倍 |
実質GDP | 518兆円 | 526兆円 | 1.05倍 |
日経平均株価 | 1万395円 | 2万7444円 | 2.6倍 | 株式時価総額 | 300.7兆円 | 693.6兆円 | 2.3倍 |
日銀株式ETF保有 | 1.46兆円 | 35.87兆円 | 24.5倍 |
円・ドル相場 | 86円 | 106円 | 20円もの円安※ |
大企業内部留保金 | 333.5兆円 | 459.7兆円 | 1.4倍 |
経常利益 | 48.4兆円 | 81.4兆円 | 1.7倍 |
対外純金融資産 | 296.3兆円 | 364.5兆円 | 1.2倍 |
富裕層純金融資産 | 188兆円 | 333兆円 | 1.8倍 |
国民負担率 | 39.4% | 44.6% | 5.2ポイント負担増 |
政府債務 | 997.2兆円 | 1355.8兆円 | 1.3倍 |
年収200万円以下 | 1090万人 | 1200万人 | 110万人増大 |
※輸出大手のトヨタは1円の円安で約400億円の為替差益。20円の円安で8000億円の差益
貧困格差は拡大
2012年以降、日銀が躍起になってマネタリーベースを5・7倍に増やしたというのに、マネーストックは1・4倍にとどまり、実体経済(GDP)は1・05倍にしか成長していません。むしろ消費税増税や社会保険料の増大で国民負担率が上がり、国民生活は悪化しました。年収200万円以下の勤労者は4人に1人の1200万人に増大し、国民生活は深刻化しました。政府債務も増大する一方で、とうとう1355兆円まで膨らんでしまいました。
他方で、異次元金融緩和下で大きく伸びた経済指標があります。株価、株式時価総額、全産業の利益剰余金、富裕層の純金融資産などは、この期間に2倍ほどへ増大しました。大資本や富裕層の利益だけが大きく伸びました。
金融政策のあり方を決定する日銀の「政策委員会」の9人のメンバーには国民生活と消費者の代表は含まれていません。異次元金融緩和政策で供給された大量のマネーは、生活を支える実体経済の成長や生産的な投資でなく、株式市場や海外投資などに向かい、株高や対外金融資産の積み上げに利用されました。株式投資や対外投資のできる大資本や富裕層は自分の金融資産を倍増できました。値上がり株の一部を売ったお金で、高級別荘や高額商品が飛ぶように売れる一方で、貯蓄のない世帯が3割に達しています。
異常に増大したマネタリーベースの中の現金通貨(うち日銀券)は116兆円です。その内訳を見ると、1万円札が一番多く109億枚(109兆円)ですが、買い物に一番使われる千円札は43億枚(4兆3000億円)にすぎません。増発された1万円札のほとんどは、家庭の「へそくり」・「タンス預金」というより、大資本や富裕層の脱税のための資産隠しとして秘密の場所に退蔵されているようです。
国会で答弁する黒田東彦日銀総裁=2019年2月19日、衆院財務金融委員会
日銀が株を買い
中央銀行が株式を買い、民間会社に資本金を提供する、世界に例のないことをやっているのが日銀です。日銀は、株価指数連動型上場投資信託(ETF)という金融商品を買って、株式市場に日銀マネーを供給し、官製株式バブルを誘導しています。海外投資家の日本株の売り逃げなどで株価が下落すると、すかさず日銀が買いに入り、株価を高値で維持する株価維持策を続けています。
すでに日銀の買った株式ETFは36兆円(簿価)に達しました。日銀が最大の「株主」になり、会社の経営に公的な意見が反映されるかと思いきや、日銀には株主の議決権はなく、株主総会で発言できず、経営のあり方に口出しできません。
株主の議決権は、野村・日興・大和など、株式ETFの三大運用会社にあります。日銀は、金は出すが、口は出せない存在です。その上、株価が下落し、日経平均株価で約2万円を割り込むと、日銀には株式の損失が発生し、「円」の信用が毀損(きそん)します。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年6月16日付掲載
日銀が躍起になってマネタリーベースを5・7倍に増やしたというのに、マネーストックは1・4倍にとどまり、実体経済(GDP)は1・05倍にしか成長していない。むしろ消費税増税や社会保険料の増大で国民負担率が上がり、国民生活は悪化。
年収200万円以下の勤労者は4人に1人の1200万人に増大し、国民生活は深刻化。
異常に増大したマネタリーベースの中の現金通貨(うち日銀券)は116兆円です。その内訳を見ると、1万円札が一番多く109億枚(109兆円)ですが、買い物に一番使われる千円札は43億枚(4兆3000億円)。市中に出回っているのが千円札より1万円札の方が多いって奇妙な現象ですね。
大資本や富裕層の脱税のための資産隠しとして、株式や預貯金ではなく現ナマで秘密の場所に退蔵。
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