検証金融政策③ 国債ビジネスを活性化
群馬大学名誉教授・山田博文さん
中央銀行は時の政権から独立しないと、安定した国民生活や経済のための金融政策を実施できません。歴史的には、どの国の政権も、中央銀行を戦費調達などの「金庫」として利用してきたからです。
第2次安倍晋三政権の出発点は、日銀の独立性を奪い政権に従属させる「政府・日銀の共同声明」(2013年)でした。アベノミクスの異次元金融緩和政策の仕組みは、政府-民間銀行-日銀の三者間で、大量の国債を取引すること(図)でしたから、大量の国債がスムーズに取引されるために日銀の役割が不可欠だったのです。
フル回転で増発
まず政府が国債を発行すると、民間銀行がその国債を入札し、次いで日銀が民間銀行から国債を買い入れます。国債買い入れ代金が民間銀行に渡されると、また国債入札に向かう、といった仕組みがフル回転しています。国債が日銀の間接的な引き受け(財政法第5条の空文化)で増発され、日銀は国債増発機構に組み込まれています。その結果、日銀は国債発行残高のほぼ半分の500兆円の国債を抱え込みました。
日銀を後ろ盾にして国債が発行され、予算が成立する異常事態です。国債は雪だるま式に膨張し、国内総生産(GDP)の2倍を超え、日本は主要国でトップの「政府債務大国」に転落しています。日本国債は60年間かけて償還するという世界に例を見ないルールですから、現在の世代だけでなく将来世代にも深刻な負担をかけます。
国債は政府が利子の支払いと元本の償還を保証する政府の借用証書です。現在、一般会計予算の2割超がその返済(国債費)に費消されています。もし、日銀の「2%物価目標」が達成されると大変なことが起きます。国債の利子も2%ほどに引き上げないと買い手がいなくなり、国債が発行できず、予算が組めなくなるからです。
現在の国債の利率加重平均は超低金利の0・87%ですが、これが2%まで上昇すると、単純計算で国債の利払い費用は倍増することになり、財政は破綻します。また500兆円もの国債を保有する日銀も、国債価格の下落によって損失を抱え込んでしまいます。
国会で答弁する黒田日銀総裁(左)と安倍首相(当時=中央)=2018年2月28日、衆院財務金融委員会
ふくらむ償還損
「政府債務大国」のもう一つの顔は、旺盛な国債ビジネスが展開されていることです。
「2%物価目標」を掲げる異次元金融緩和政策は、政府・日銀相手の国債ビジネスを活性化させています。それは日銀が民間金融機関から年間100兆円前後の国債を大量に買い入れてやる政策だからです。民間金融機関は、政府から安く入札した国債のほとんどを日銀に額面を上回る高値で売却することで、日銀から国債売却益を得ています。その結果、日銀は約12兆円もの国債の償還損(償還時に確定する損失)を抱えました。
国債は国家の信用に支えられた金融商品(証券)で安心できる投資物件であり、しかも発行額も兆円という単位ですから、大金を運用する内外の大口投資家の資金運用の舞台となっています。日本国債の売買高は2京円という天文学的規模に達しています。
日本につきまとう財政破綻や日銀信用毀損(きそん)のリスクを回避するには、政府債務や異次元金融緩和からの「出口戦略」を提示することが必要ですが、まったくやっていません。コロナ禍対策で日本と同じように政府債務を増大させた欧米は、法人税・所得税の引き上げや富裕層への課税にかじを切り、応能負担による解決策に踏み出しました。こうした解決策は、大企業が460兆円もの内部留保金を抱える「政府債務大国」日本の菅義偉政権こそ、真っ先に取り組むべき課題だといえるでしょう。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年6月17日付掲載
まず政府が国債を発行すると、民間銀行がその国債を入札し、次いで日銀が民間銀行から国債を買い入れ。国債買い入れ代金が民間銀行に渡されると、また国債入札に向かう、といった仕組みがフル回転。
国債が日銀の間接的な引き受け(財政法第5条の空文化)で増発され、日銀は国債増発機構に組み込み。
民間資金のキャパシティをはるかに超えた国債が発行されている。政府債務や異次元金融緩和からの「出口戦略」を提示することが必要。
群馬大学名誉教授・山田博文さん
中央銀行は時の政権から独立しないと、安定した国民生活や経済のための金融政策を実施できません。歴史的には、どの国の政権も、中央銀行を戦費調達などの「金庫」として利用してきたからです。
第2次安倍晋三政権の出発点は、日銀の独立性を奪い政権に従属させる「政府・日銀の共同声明」(2013年)でした。アベノミクスの異次元金融緩和政策の仕組みは、政府-民間銀行-日銀の三者間で、大量の国債を取引すること(図)でしたから、大量の国債がスムーズに取引されるために日銀の役割が不可欠だったのです。
フル回転で増発
まず政府が国債を発行すると、民間銀行がその国債を入札し、次いで日銀が民間銀行から国債を買い入れます。国債買い入れ代金が民間銀行に渡されると、また国債入札に向かう、といった仕組みがフル回転しています。国債が日銀の間接的な引き受け(財政法第5条の空文化)で増発され、日銀は国債増発機構に組み込まれています。その結果、日銀は国債発行残高のほぼ半分の500兆円の国債を抱え込みました。
日銀を後ろ盾にして国債が発行され、予算が成立する異常事態です。国債は雪だるま式に膨張し、国内総生産(GDP)の2倍を超え、日本は主要国でトップの「政府債務大国」に転落しています。日本国債は60年間かけて償還するという世界に例を見ないルールですから、現在の世代だけでなく将来世代にも深刻な負担をかけます。
国債は政府が利子の支払いと元本の償還を保証する政府の借用証書です。現在、一般会計予算の2割超がその返済(国債費)に費消されています。もし、日銀の「2%物価目標」が達成されると大変なことが起きます。国債の利子も2%ほどに引き上げないと買い手がいなくなり、国債が発行できず、予算が組めなくなるからです。
現在の国債の利率加重平均は超低金利の0・87%ですが、これが2%まで上昇すると、単純計算で国債の利払い費用は倍増することになり、財政は破綻します。また500兆円もの国債を保有する日銀も、国債価格の下落によって損失を抱え込んでしまいます。
国会で答弁する黒田日銀総裁(左)と安倍首相(当時=中央)=2018年2月28日、衆院財務金融委員会
ふくらむ償還損
「政府債務大国」のもう一つの顔は、旺盛な国債ビジネスが展開されていることです。
「2%物価目標」を掲げる異次元金融緩和政策は、政府・日銀相手の国債ビジネスを活性化させています。それは日銀が民間金融機関から年間100兆円前後の国債を大量に買い入れてやる政策だからです。民間金融機関は、政府から安く入札した国債のほとんどを日銀に額面を上回る高値で売却することで、日銀から国債売却益を得ています。その結果、日銀は約12兆円もの国債の償還損(償還時に確定する損失)を抱えました。
国債は国家の信用に支えられた金融商品(証券)で安心できる投資物件であり、しかも発行額も兆円という単位ですから、大金を運用する内外の大口投資家の資金運用の舞台となっています。日本国債の売買高は2京円という天文学的規模に達しています。
日本につきまとう財政破綻や日銀信用毀損(きそん)のリスクを回避するには、政府債務や異次元金融緩和からの「出口戦略」を提示することが必要ですが、まったくやっていません。コロナ禍対策で日本と同じように政府債務を増大させた欧米は、法人税・所得税の引き上げや富裕層への課税にかじを切り、応能負担による解決策に踏み出しました。こうした解決策は、大企業が460兆円もの内部留保金を抱える「政府債務大国」日本の菅義偉政権こそ、真っ先に取り組むべき課題だといえるでしょう。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年6月17日付掲載
まず政府が国債を発行すると、民間銀行がその国債を入札し、次いで日銀が民間銀行から国債を買い入れ。国債買い入れ代金が民間銀行に渡されると、また国債入札に向かう、といった仕組みがフル回転。
国債が日銀の間接的な引き受け(財政法第5条の空文化)で増発され、日銀は国債増発機構に組み込み。
民間資金のキャパシティをはるかに超えた国債が発行されている。政府債務や異次元金融緩和からの「出口戦略」を提示することが必要。
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