安保改定60年 第一部③ 第6条 基地国家の根源
日米安保条約の条文は、わずか10条しかありません。しかし、条約の下に、日本の国内法を上回る米軍の特権を定めた日米地位協定や合意議事録、米軍「思いやり予算」特別協定、さらに地位協定に基づく膨大な国内法、加えて「核密約」などの密約が連なり、「安保法体系」を形成。日本国憲法を頂点とした法体系との深刻な矛盾を生み出しています。
その中でも中核部分といえるのが、国内に米軍基地を置く根拠になっている第6条(表)です。
安保条約第6条の構造
地理的制約なし
1951年9月に署名された旧安保条約は、日本の「独立」後も占領軍=米軍の駐留を維持する「権利」を定めたものです。その内容を直接、引き継いだのが第6条です。
旧安保条約と共通するのは「全土基地方式」です。.第6条は、米軍が「日本国において施設及び区域を使用することを許される」と定め、地理的な制約を設けていません。外務省が1973年4月に作成した機密文書「日米地位協定の考え方」には、「米側は、わが国の施政下であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められている」と明記されています。
こうした「全土基地方式」は世界でも例のない異常なもので、米国の多くの同盟国では、条約に基づく協定などで基地を置く区域を定めています。
また、日米安保条約のモデルにもなった欧州の北大西洋条約や米フィリピン相互防衛条約には、そもそも米国への基地提供に関する条項がありません。この点をとっても、日米安保が「基地条約」という特異な条約であることが分かります。
住宅地に囲まれた横田基地(東京都福生市など多摩地区)
米軍関係10万人
第6条の下で、日本には78の米軍専用基地、自衛隊が管理する日米共同使用基地を含めれば131の米軍施設が存在します(2019年3月31日時点)。全国各地で米軍機の墜落や部品落下、騒音被害、米兵犯罪などが相次いでおり、住民の安全や権利が脅かされています。
米国防総省資料によると、海外に駐留する米兵約17・4万人のうち、最も多いのが日本の5万5245人で、在外兵力の3割以上を占めています(19年9月30日現在)。在日米軍のマルティネス前司令官は「軍人5万4000人、軍属8000人、扶養家族4万2000人で、総計10万4000人」と説明しています(19年1月の記者会見)。このうち5割以上が沖縄に集中しているとみられます。
また、米国防総省の「基地構造報告」18年版によると、米国の海外基地514のうち、121基地が日本に存在します。陸海空軍・海兵隊の米4軍すべての基地がそろっているのは日本だけ。基地の「資産評価額」は日本が約982億ドルで、2位ドイツの約449億ドルの2倍以上です。
この上、日本政府は2兆5500億円とも言われる巨額を投じて、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設を強行しようとしています。まさに、世界に例のない異常な米軍基地国家です。
地球規模で自由出撃
「極東条項」継ぐ
旧安保と異なっているのは、米軍が「日本国の安全に寄与する」点が加わったことですが、同時に、60年の安保改定に関する国会議論では、旧安保条約から引き継がれた「極東条項」が大問題になりました。
米側が極東条項を求めたのは、朝鮮半島や台湾など「西太平洋地域」に在日米軍や自衛隊を出撃させ、東アジア地域における米国防衛の前線とするためでした。
国内では、米軍が引き起こす戦争に日本が巻き込まれるのではないかとの世論が高まりました。後に首相となる中曽根康弘衆院議員でさえ、「(極東条項で)むこうの紛争が渡り廊下を通って日本へ入ってくる危険性がないとはいえない」と危惧しました。
当時の岸政権は「極東」の範囲を「フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域」(衆院予算委員会、60年2月)と説明し、事態収拾を図ろうとしました。しかし、政府は「地理的に正確に確定されたものではない」として、あいまいさは最後まで消えませんでした。
60年代半ば以降、米軍はベトナム・イラク・アフガニスタンなど地球規模に派兵。「極東」の枠組みすら逸脱し、米軍は自国の戦争のために基地を自由に使用しています。
異常な特権ぶり
第6条に基づく日米地位協定は、米軍基地や米軍関係者に日本の法律を逸脱した権利を認めています。例えば、国内で米兵や軍属が犯罪を起こしても、米側が「公務中」とみなせば第一次裁判権は米側が有し、日本側は裁けません。
日米地位協定に基づいて膨大な国内法も整備されています。例えば、航空法特例法によって「最低安全高度」を定めた航空法81条の適用を米軍は免除されています。こうした特権ぶりを変えようと、日本全国で地位協定改定を求める自治体決議が相次いでいます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年1月14日付掲載
もともと日本に駐留しているアメリカ軍は、日本を守るためでなく、東アジア全域に出ていくため。今は中東まで範囲に置いている。
「極東」などと言っても、実際は地理的な限定がない。
日米安保条約の条文は、わずか10条しかありません。しかし、条約の下に、日本の国内法を上回る米軍の特権を定めた日米地位協定や合意議事録、米軍「思いやり予算」特別協定、さらに地位協定に基づく膨大な国内法、加えて「核密約」などの密約が連なり、「安保法体系」を形成。日本国憲法を頂点とした法体系との深刻な矛盾を生み出しています。
その中でも中核部分といえるのが、国内に米軍基地を置く根拠になっている第6条(表)です。
安保条約第6条の構造
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため(①)、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される(②)。 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリ力合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される(③)。 | |
①極東条項 | 1960年当時、国会では「極東」の範囲をめぐって紛糾。その範囲はあいまいで、在日米軍の海外派兵を可能に。 |
②全土基地方式 | 米軍の施設・区域(基地)を置く地域を明示していない。米軍は「日本国」=日本全土に基地を置く権利を有する。 |
③日米地位協定 | 米軍の特権を定めた地位協定は6条に基づく。膨大な安保関連国内法も6条に基づく。 |
地理的制約なし
1951年9月に署名された旧安保条約は、日本の「独立」後も占領軍=米軍の駐留を維持する「権利」を定めたものです。その内容を直接、引き継いだのが第6条です。
旧安保条約と共通するのは「全土基地方式」です。.第6条は、米軍が「日本国において施設及び区域を使用することを許される」と定め、地理的な制約を設けていません。外務省が1973年4月に作成した機密文書「日米地位協定の考え方」には、「米側は、わが国の施政下であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められている」と明記されています。
こうした「全土基地方式」は世界でも例のない異常なもので、米国の多くの同盟国では、条約に基づく協定などで基地を置く区域を定めています。
また、日米安保条約のモデルにもなった欧州の北大西洋条約や米フィリピン相互防衛条約には、そもそも米国への基地提供に関する条項がありません。この点をとっても、日米安保が「基地条約」という特異な条約であることが分かります。
住宅地に囲まれた横田基地(東京都福生市など多摩地区)
米軍関係10万人
第6条の下で、日本には78の米軍専用基地、自衛隊が管理する日米共同使用基地を含めれば131の米軍施設が存在します(2019年3月31日時点)。全国各地で米軍機の墜落や部品落下、騒音被害、米兵犯罪などが相次いでおり、住民の安全や権利が脅かされています。
米国防総省資料によると、海外に駐留する米兵約17・4万人のうち、最も多いのが日本の5万5245人で、在外兵力の3割以上を占めています(19年9月30日現在)。在日米軍のマルティネス前司令官は「軍人5万4000人、軍属8000人、扶養家族4万2000人で、総計10万4000人」と説明しています(19年1月の記者会見)。このうち5割以上が沖縄に集中しているとみられます。
また、米国防総省の「基地構造報告」18年版によると、米国の海外基地514のうち、121基地が日本に存在します。陸海空軍・海兵隊の米4軍すべての基地がそろっているのは日本だけ。基地の「資産評価額」は日本が約982億ドルで、2位ドイツの約449億ドルの2倍以上です。
この上、日本政府は2兆5500億円とも言われる巨額を投じて、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設を強行しようとしています。まさに、世界に例のない異常な米軍基地国家です。
地球規模で自由出撃
「極東条項」継ぐ
旧安保と異なっているのは、米軍が「日本国の安全に寄与する」点が加わったことですが、同時に、60年の安保改定に関する国会議論では、旧安保条約から引き継がれた「極東条項」が大問題になりました。
米側が極東条項を求めたのは、朝鮮半島や台湾など「西太平洋地域」に在日米軍や自衛隊を出撃させ、東アジア地域における米国防衛の前線とするためでした。
国内では、米軍が引き起こす戦争に日本が巻き込まれるのではないかとの世論が高まりました。後に首相となる中曽根康弘衆院議員でさえ、「(極東条項で)むこうの紛争が渡り廊下を通って日本へ入ってくる危険性がないとはいえない」と危惧しました。
当時の岸政権は「極東」の範囲を「フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域」(衆院予算委員会、60年2月)と説明し、事態収拾を図ろうとしました。しかし、政府は「地理的に正確に確定されたものではない」として、あいまいさは最後まで消えませんでした。
60年代半ば以降、米軍はベトナム・イラク・アフガニスタンなど地球規模に派兵。「極東」の枠組みすら逸脱し、米軍は自国の戦争のために基地を自由に使用しています。
異常な特権ぶり
第6条に基づく日米地位協定は、米軍基地や米軍関係者に日本の法律を逸脱した権利を認めています。例えば、国内で米兵や軍属が犯罪を起こしても、米側が「公務中」とみなせば第一次裁判権は米側が有し、日本側は裁けません。
日米地位協定に基づいて膨大な国内法も整備されています。例えば、航空法特例法によって「最低安全高度」を定めた航空法81条の適用を米軍は免除されています。こうした特権ぶりを変えようと、日本全国で地位協定改定を求める自治体決議が相次いでいます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年1月14日付掲載
もともと日本に駐留しているアメリカ軍は、日本を守るためでなく、東アジア全域に出ていくため。今は中東まで範囲に置いている。
「極東」などと言っても、実際は地理的な限定がない。
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