2024年 経済の潮流① 通用しない米の支配
東京工科大学名誉教授 工藤昌宏さん
2024年の世界と日本の経済の潮流について、識者の寄稿を掲載します。
昨夏、地球は異様な酷暑に見舞われました。7月、グテレス国連事務総長は、地球は温暖化の段階を過ぎて沸騰化の時代に突入したと述べました。確かに地球はおかしくなっています。昨年12月の国連地球温暖化対策会議COP28では対応が分かれました。各国の足並みはそろいません。石炭火力発電の温存を図る日本は、脱炭素に後ろ向きと判断され「化石賞」なる不名誉な賞を受けました。
国連気候変動会議(COP28)で記者会見するグテレス国連事務総長=2023年12月11日(ドバイ=ロイター)
沸騰化の時代に
変調をきたしているのは自然環境ばかりではありません。地球は今、戦火に見舞われています。ウクライナやパレスチナをめぐる戦争は、大量殺りくを通じて世界に衝撃を与えたばかりか、エネルギー、食糧価格の高騰を通じて世界各国経済を軒並み大混乱に陥れています。外国為替相場、株価、金利は日々乱高下し、各国政府は対応に苦慮しています。戦争を契機に世界の対立、分断化がさらに進み、しかも各国の複雑に絡み合った利害関係が戦火や対立の鎮静化を妨げています。欧米諸国はロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、イスラエルのガザ侵攻は自衛のためだとして正当化するという二重基準で対応しています。そして今、世界は軍事力増強の時代に突入しています。世界の政治経済もまた沸騰化の時代に突入しているように思います。
対立は、2020年のコロナパンデミックを起点に激化したようです。部品や部材の供給網や人流が切断され、世界各国経済は軒並み停滞を余儀なくされました。停滞を背景に対立も強まりました。とくに、米国と中国の大国同士の対立は従来の世界のパワーバランスを崩し、世界の分断と二極化を招いています。その後の戦火は対立と分断をさらに助長しました。もはや、米国の力による支配は通用しません。
物価は高止まり
他方、経済が停滞しているにもかかわらず消費者物価は世界中で高止まりし国民生活を苦しめています。米国では金利引き上げを契機に中規模銀行の破綻が相次ぎ、中国経済は不動産不況を通じて沈み込んでいます。さらに、途上国では多くの国が通貨安、物価高、債務危機、外貨不足に陥っています。各国とも物価対策を講じてはいるものの思うようにいかず、政権を揺さぶっています。窮地に陥った先進国はそろって半導体、EVなどの自国産業向けの補助金支出を増額し、途上国は資源の囲い込みに走っています。
他方、自然環境破壊、温暖化、国家間対立、戦争などは結局は社会システムやそれをつくり出した人間の所業です。人間は自らを窮地に追い込むシステムを自らつくり出しているということになります。とくに、ウクライナ、パレスチナをめぐる戦争を契機に勢いづいた世界的な軍拡競争をみると、おかしくなっているのは自然環境ではなく人間や国家の在り方そのものではないかと思います。とりわけ、世界を沸騰させているのは先進国の身勝手なふるまいではないでしょうか。
世界的な物価高、分断・対立、戦火がどうなるのか予断を許しません。為替、株価、金利の乱高下は避けられないこと、米国の「力」による戦後世界の秩序はもはや過去のものになっていることだけは確かなようです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年1月10日付掲載
対立は、2020年のコロナパンデミックを起点に激化。部品や部材の供給網や人流が切断され、世界各国経済は軒並み停滞を余儀なく。停滞を背景に対立も強まりました。とくに、米国と中国の大国同士の対立は従来の世界のパワーバランスを崩し、世界の分断と二極化を。その後の戦火は対立と分断をさらに助長。もはや、米国の力による支配は通用しません。
東京工科大学名誉教授 工藤昌宏さん
2024年の世界と日本の経済の潮流について、識者の寄稿を掲載します。
昨夏、地球は異様な酷暑に見舞われました。7月、グテレス国連事務総長は、地球は温暖化の段階を過ぎて沸騰化の時代に突入したと述べました。確かに地球はおかしくなっています。昨年12月の国連地球温暖化対策会議COP28では対応が分かれました。各国の足並みはそろいません。石炭火力発電の温存を図る日本は、脱炭素に後ろ向きと判断され「化石賞」なる不名誉な賞を受けました。
国連気候変動会議(COP28)で記者会見するグテレス国連事務総長=2023年12月11日(ドバイ=ロイター)
沸騰化の時代に
変調をきたしているのは自然環境ばかりではありません。地球は今、戦火に見舞われています。ウクライナやパレスチナをめぐる戦争は、大量殺りくを通じて世界に衝撃を与えたばかりか、エネルギー、食糧価格の高騰を通じて世界各国経済を軒並み大混乱に陥れています。外国為替相場、株価、金利は日々乱高下し、各国政府は対応に苦慮しています。戦争を契機に世界の対立、分断化がさらに進み、しかも各国の複雑に絡み合った利害関係が戦火や対立の鎮静化を妨げています。欧米諸国はロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、イスラエルのガザ侵攻は自衛のためだとして正当化するという二重基準で対応しています。そして今、世界は軍事力増強の時代に突入しています。世界の政治経済もまた沸騰化の時代に突入しているように思います。
対立は、2020年のコロナパンデミックを起点に激化したようです。部品や部材の供給網や人流が切断され、世界各国経済は軒並み停滞を余儀なくされました。停滞を背景に対立も強まりました。とくに、米国と中国の大国同士の対立は従来の世界のパワーバランスを崩し、世界の分断と二極化を招いています。その後の戦火は対立と分断をさらに助長しました。もはや、米国の力による支配は通用しません。
物価は高止まり
他方、経済が停滞しているにもかかわらず消費者物価は世界中で高止まりし国民生活を苦しめています。米国では金利引き上げを契機に中規模銀行の破綻が相次ぎ、中国経済は不動産不況を通じて沈み込んでいます。さらに、途上国では多くの国が通貨安、物価高、債務危機、外貨不足に陥っています。各国とも物価対策を講じてはいるものの思うようにいかず、政権を揺さぶっています。窮地に陥った先進国はそろって半導体、EVなどの自国産業向けの補助金支出を増額し、途上国は資源の囲い込みに走っています。
他方、自然環境破壊、温暖化、国家間対立、戦争などは結局は社会システムやそれをつくり出した人間の所業です。人間は自らを窮地に追い込むシステムを自らつくり出しているということになります。とくに、ウクライナ、パレスチナをめぐる戦争を契機に勢いづいた世界的な軍拡競争をみると、おかしくなっているのは自然環境ではなく人間や国家の在り方そのものではないかと思います。とりわけ、世界を沸騰させているのは先進国の身勝手なふるまいではないでしょうか。
世界的な物価高、分断・対立、戦火がどうなるのか予断を許しません。為替、株価、金利の乱高下は避けられないこと、米国の「力」による戦後世界の秩序はもはや過去のものになっていることだけは確かなようです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年1月10日付掲載
対立は、2020年のコロナパンデミックを起点に激化。部品や部材の供給網や人流が切断され、世界各国経済は軒並み停滞を余儀なく。停滞を背景に対立も強まりました。とくに、米国と中国の大国同士の対立は従来の世界のパワーバランスを崩し、世界の分断と二極化を。その後の戦火は対立と分断をさらに助長。もはや、米国の力による支配は通用しません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます