遺骨が語る19世紀の英児童労働 栄養不足、呼吸器疾患の痕跡
科学的社会主義の創設者の一人エンゲルスの著書『イギリスにおける労働者階級の状態』は、19世紀、産業革命後のイギリスの工場で働いていた児童労働者の悲惨な生活を描き出しています。当時のイギリスの児童労働者の遺骨を分析した最近の研究で、そうした生活が健康をいかにむしばんでいたかを明らかにする初の直接的証拠が示されました。
(間宮利夫)
エンゲルスも著書で分析
イギリス中部ノースヨークシャーのフュースンにある教会の庭で2009年から10年にかけ建設工事に伴う発掘調査が行われ、154人の遺骨が発見されました。もともと墓地だったところですが、埋葬されていたのはどんな人たちだったのかを明らかにするため、ダラム大学(イギリス)のレベッカ・ゴウランド教授たちが調査しました。
埋葬の1/3未成年
棺(ひつぎ)に付けられたプレートや墓碑で身元が確認された遺骨は19世紀に生きていた人たちだったことから、そのほかの遺骨もほとんどが同時代の人たちと判断されました。研究者たちを驚かせたのは、骨格の分析の結果、10歳に満たない子どもから成年に達していない若い人たちの割合が全体の約3分の1と異常に高かったことです。
遺骨には生前飲んだり食べたりしたものに含まれていたさまざまな元素が残っています。ストロンチウムなどの同位体(化学的性質がほとんど同じで質量数が異なる核種)比は地域で異なるので、分析することで、どこに住んでいたか推定できます。測定の結果、若い人たちの遺骨の多くが地元出身者のものではないことがわかりました。
フューストンとその周辺には19世紀に紡績工場がいくつかありました。それらの工場では、当時、ロンドンなどの大都市にあった救貧院から子どもたちを連れてきて見習いとして働かせていました。
地元出身ではない若い人たちの遺骨は紡績工場で働いていた子どもたちのものだったと考えられます。
これらの遺骨には、成長の遅れとともに、くる病や壊血病といったビタミン欠乏症、呼吸器疾患などに伴う骨格の異常が高頻度でみられました。
教会の庭の地下から見つかった棺のプレート。1889年に54歳で死亡したと書かれています。=©Gowland et al., 2023, PL OS ONE, CC-BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
<span style="color:black;">紡績工場内の女児の写真を掲載した英ダラム大学リリース資料(左)とエンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』(新日本出版社)。同書は論文の参考文献です
大飢饉時に匹敵
遺骨に含まれている炭素と窒素の同位体比の測定から、地元出身者ではない若い人たちは、動物性タンパク質の摂取量が少なかったことがわかりました。研究グループは、その摂取量の少なさは、19世紀に、約100万人が餓死したり病死したりしたアイルランド大飢饉(ききん)の時に匹敵する可能性があると指摘します。
ゴウランド教授たちは、今回の研究結果について「児童労働者の発育中の体に負わされた犠牲を明確に浮き彫りにしている」と意義を述べています。そのうえで「児童労働は過去の問題でなく今日世界で最も一般的な児童虐待であり、(今回の研究結果は)それが子どもの健康、成長、死亡リスクに及ぼす影響についての明確な証拠を提供している」と強調しています。
研究結果は米科学誌『プロス・ワン』(5月17日付)に掲載されました。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年6月10日付掲載
科学的社会主義の創設者の一人エンゲルスの著書『イギリスにおける労働者階級の状態』は、19世紀、産業革命後のイギリスの工場で働いていた児童労働者の悲惨な生活を描き出している。
イギリス中部ノースヨークシャーのフュースンにある教会の庭で2009年から10年にかけ建設工事に伴う発掘調査が行われ、154人の遺骨が発見。
棺のプレートから19世紀に生きていた人と判明。研究者たちを驚かせたのは、骨格の分析の結果、10歳に満たない子どもから成年に達していない若い人たちの割合が全体の約3分の1と異常に高かったこと。
その若年層はロンドンの貧民窟から連れてこられた。動物性タンパク質の摂取量が少なかったこと。研究グループは、その摂取量の少なさは、19世紀に、約100万人が餓死したり病死したりしたアイルランド大飢饉(ききん)の時に匹敵する可能性があると指摘。
児童労働の虐待は今にも通ずるもの。繰り返さないことが求められます。
科学的社会主義の創設者の一人エンゲルスの著書『イギリスにおける労働者階級の状態』は、19世紀、産業革命後のイギリスの工場で働いていた児童労働者の悲惨な生活を描き出しています。当時のイギリスの児童労働者の遺骨を分析した最近の研究で、そうした生活が健康をいかにむしばんでいたかを明らかにする初の直接的証拠が示されました。
(間宮利夫)
エンゲルスも著書で分析
イギリス中部ノースヨークシャーのフュースンにある教会の庭で2009年から10年にかけ建設工事に伴う発掘調査が行われ、154人の遺骨が発見されました。もともと墓地だったところですが、埋葬されていたのはどんな人たちだったのかを明らかにするため、ダラム大学(イギリス)のレベッカ・ゴウランド教授たちが調査しました。
埋葬の1/3未成年
棺(ひつぎ)に付けられたプレートや墓碑で身元が確認された遺骨は19世紀に生きていた人たちだったことから、そのほかの遺骨もほとんどが同時代の人たちと判断されました。研究者たちを驚かせたのは、骨格の分析の結果、10歳に満たない子どもから成年に達していない若い人たちの割合が全体の約3分の1と異常に高かったことです。
遺骨には生前飲んだり食べたりしたものに含まれていたさまざまな元素が残っています。ストロンチウムなどの同位体(化学的性質がほとんど同じで質量数が異なる核種)比は地域で異なるので、分析することで、どこに住んでいたか推定できます。測定の結果、若い人たちの遺骨の多くが地元出身者のものではないことがわかりました。
フューストンとその周辺には19世紀に紡績工場がいくつかありました。それらの工場では、当時、ロンドンなどの大都市にあった救貧院から子どもたちを連れてきて見習いとして働かせていました。
地元出身ではない若い人たちの遺骨は紡績工場で働いていた子どもたちのものだったと考えられます。
これらの遺骨には、成長の遅れとともに、くる病や壊血病といったビタミン欠乏症、呼吸器疾患などに伴う骨格の異常が高頻度でみられました。
教会の庭の地下から見つかった棺のプレート。1889年に54歳で死亡したと書かれています。=©Gowland et al., 2023, PL OS ONE, CC-BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
<span style="color:black;">紡績工場内の女児の写真を掲載した英ダラム大学リリース資料(左)とエンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』(新日本出版社)。同書は論文の参考文献です
大飢饉時に匹敵
遺骨に含まれている炭素と窒素の同位体比の測定から、地元出身者ではない若い人たちは、動物性タンパク質の摂取量が少なかったことがわかりました。研究グループは、その摂取量の少なさは、19世紀に、約100万人が餓死したり病死したりしたアイルランド大飢饉(ききん)の時に匹敵する可能性があると指摘します。
ゴウランド教授たちは、今回の研究結果について「児童労働者の発育中の体に負わされた犠牲を明確に浮き彫りにしている」と意義を述べています。そのうえで「児童労働は過去の問題でなく今日世界で最も一般的な児童虐待であり、(今回の研究結果は)それが子どもの健康、成長、死亡リスクに及ぼす影響についての明確な証拠を提供している」と強調しています。
研究結果は米科学誌『プロス・ワン』(5月17日付)に掲載されました。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年6月10日付掲載
科学的社会主義の創設者の一人エンゲルスの著書『イギリスにおける労働者階級の状態』は、19世紀、産業革命後のイギリスの工場で働いていた児童労働者の悲惨な生活を描き出している。
イギリス中部ノースヨークシャーのフュースンにある教会の庭で2009年から10年にかけ建設工事に伴う発掘調査が行われ、154人の遺骨が発見。
棺のプレートから19世紀に生きていた人と判明。研究者たちを驚かせたのは、骨格の分析の結果、10歳に満たない子どもから成年に達していない若い人たちの割合が全体の約3分の1と異常に高かったこと。
その若年層はロンドンの貧民窟から連れてこられた。動物性タンパク質の摂取量が少なかったこと。研究グループは、その摂取量の少なさは、19世紀に、約100万人が餓死したり病死したりしたアイルランド大飢饉(ききん)の時に匹敵する可能性があると指摘。
児童労働の虐待は今にも通ずるもの。繰り返さないことが求められます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます