安保改定60年 第3部③ ゴミ分別も“思いやり”
米軍「思いやり予算」映画で告発 監督リラン・バクレーさん
「全国どこでも、住民はゴミ分別で苦労しています。それなのに、分別しない米軍のために、日本国民の税金でゴミ分別施設まで建設することが許されるのか」。日本政府による米軍「思いやり予算」の実態を告発したドキュメンタリー映画「ザ・思いやり」監督のリラン・バクレーさん(神奈川県海老名市在住)は、こう憤ります。
予算の使途自由
日米両政府は1973年10月、「家族居住計画」の名の下で、米海軍横須賀基地(同県横須賀市)の空母母港化を強行。基地内の家族住宅が不足していたため、大量の米兵が家族を帯同して横須賀市や横浜市など、基地外の賃貸住宅に居住するようになりました。
バクレーさんが入手した93年4月付米海軍の文書によれば、米国人はゴミ分別の習慣がないため、曜日ごとに分別を行う日本の習慣に適応するのが難しく、基地外の米軍関係者は大量のゴミを基地内に持ち込んでいました。これを処理するため、分別施設を含む大規模な焼却炉の建設を提案。詳細な設計図まで添付されています。
文書は同施設について、「日本政府の資金による提供施設整備(FIP)に基づいて、日本政府が建設」すると明記しています。FIPとは、米軍「思いやり予算」の費目の一つで、米兵用の住宅や学校・娯楽施設、格納庫や倉庫など基地関連施設を建設する計画です。
防衛省南関東防衛局は本紙の取材に対し、分別施設は97年度に完成し、米軍「思いやり予算」1億2千万円が使われたことを明らかにしました。(現在は基地内で排出されたゴミに限定)
しかし、防衛局には分別施設のために資金を提供した記録はありません。「ユーティリティー(多目的施設)」などの費目で資金を提供し、あとは何を建設しようが米軍の自由。事実上の「つかみ金」であるという実態が浮かび上がりました。バクレーさんは、こうした経緯を現在作成中の「ザ・思いやり」・第3弾で明らかにする考えです。
「思いやり予算」で建てられたゴミ分別施設=2004年11月22日(日本共産党逗子市議団撮影)
在日米軍に疑問
2010年4月、内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した1本の動画が世界を震憾させました。イラク戦争真っただ中の07年12月、米兵がロイター通信の記者や一般市民をヘリから銃撃し、笑いながら殺害しているものです。映像を見て、あまりの怒りで3日間眠れなかったバクレーさんは、日本にいる米軍の存在に疑問を抱きます。建設的に何かできないかと模索する中で、「米軍への『思いやり予算』を東北の被災者に」と活動する人たちに出会いました。
民間人殺す米軍に豪華住宅提供
2011年4月、東日本大震災の翌月に被災地を訪問したバクレーさんは、仮設住宅について「物が何もなく、狭くてプライバシーもない。人間が住むような場所じゃなかった」と説明します。日本政府は、その後も相次ぐ自然災害の被災者には劣悪な住まいを押し付け、一方で米軍に対しては、豪華な住宅、ゴルフ場やプールなどの娯楽施設などを「思いやり予算」で提供してきました。
沖縄にある米海兵隊員の住宅(米軍の動画・画像共有サイト「DVIDS」から)
提供施設に2兆
防衛省の資料によると、1979年度から2019年度の提供施設整備費の総額は、2兆3473億円にものぼります。その間に、207棟の隊舎(独身兵用宿舎)、1万1461戸の家族住宅が建設されました。加えて、06年の在日米軍再編ロードマップに基づく米原子力空母艦載機の岩国移駐に伴い、山口県岩国市内の愛宕山に家族住宅262戸が建設されました。
米空軍が公開している、横田基地(東京都福生市など)の上級幹部用住宅の間取り図をみると、寝室が四つ、浴室が二つ、広大なリビングやテラスが備わっています。防衛省の資料によると、最も高価な上級将校用住宅の場合、建設費だけで9650万円、面積は約245平方メートルにのぼります。
米海兵隊が沖縄の住環境を紹介する映像には、米軍住宅の大きなリビングや寝室が流れ、「どの住まいにも、米国の家庭と同じ様式の家具や設備が備わっています」と説明。沖縄の景色と共に、そこで充実した生活を送る米兵やその家族が映し出されています。
「思いやり予算」で建てられた神武寺駅の米軍専用改札口=7月14日、神奈川県逗子市
在日米軍の光熱水道料等料金実績額
(電気、ガス、水道、下水道および暖房用等燃料の区分ごと)(単位:万円)
※計数は、四捨五入によっているため、符合しないことがあります
光熱費も税負担
住宅だけではありません。基地内で使用する光熱水費も全て「思いやり予算」で提供されています。防衛省の資料によれば、18年度は約400億円にのぼっています。(表)
米軍にとって日本は最適な場所であり、バクレーさんは、その理由として「利便性」をあげます。ドキュメンタリー映画「ザ・思いやり」第1弾で取り上げた、神奈川県逗子市にある神武寺駅。当駅でベビーカーを押した外国人女性が改札へ向かいましたが、その先は通常の改札ではなく、踏切を挟んだ先にある建物でした。そこには、「警告立ち入り制限区域許可されたもの以外の立ち入りを禁ず」とあります。米兵やその家族らが、隣接する米海軍池子住宅地区に直接行けるようにする目的で、08年につくられた米軍專用の改札口です。米軍人の「利便性」のために、1億2千万円もの「思いやり予算」が使われました。
ボルトン前米大統領補佐官の「回顧録」で明らかになった、トランプ米大統領の「思いやり予算」の増額要求について、バクレーさんは「彼には倫理は全くなく、全て“ディール”(取引)です。あれだけの額を請求することには何の根拠もなく、ただの脅迫みたいなもの。日本政府も意味のないところに払い続けるのをやめるべきです」と強調しました。
前作で、三沢基地近くの青森駅前でアンケートを実施。米軍がシリアやヨルダンで子どもたちや民間人を殺している事実を知った上で、その米軍が三沢基地を足場にしていることを伝えると、誰もが「おかしい」「日本を守るためではない」と声をあげます。
バクレーさんは語ります。「日本人にとって、米国の存在が当たり前になり、撤退されるのが怖くなってしまった。でも、戦後米軍が他国に対して何をやってきたのかを知れば、そういう人たちを日本においてはならないという気持ちになると思います。私は映画を通じて、米軍の本当の姿を知ってもらいたい」
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月2日付掲載
リラン・バクレーさん監督の映画「ザ・思いやり」は、思いやり予算の実態をリアルに告発しています。
山口県岩国市の海兵隊岩国基地には横須賀の空母艦載機が配備され、それに伴い愛宕山に米軍の家族住宅が建設されました。
毎月1のつく日に、愛宕山神社のある丘で「愛宕山みまもりの集い」が開かれています。
米軍「思いやり予算」映画で告発 監督リラン・バクレーさん
「全国どこでも、住民はゴミ分別で苦労しています。それなのに、分別しない米軍のために、日本国民の税金でゴミ分別施設まで建設することが許されるのか」。日本政府による米軍「思いやり予算」の実態を告発したドキュメンタリー映画「ザ・思いやり」監督のリラン・バクレーさん(神奈川県海老名市在住)は、こう憤ります。
予算の使途自由
日米両政府は1973年10月、「家族居住計画」の名の下で、米海軍横須賀基地(同県横須賀市)の空母母港化を強行。基地内の家族住宅が不足していたため、大量の米兵が家族を帯同して横須賀市や横浜市など、基地外の賃貸住宅に居住するようになりました。
バクレーさんが入手した93年4月付米海軍の文書によれば、米国人はゴミ分別の習慣がないため、曜日ごとに分別を行う日本の習慣に適応するのが難しく、基地外の米軍関係者は大量のゴミを基地内に持ち込んでいました。これを処理するため、分別施設を含む大規模な焼却炉の建設を提案。詳細な設計図まで添付されています。
文書は同施設について、「日本政府の資金による提供施設整備(FIP)に基づいて、日本政府が建設」すると明記しています。FIPとは、米軍「思いやり予算」の費目の一つで、米兵用の住宅や学校・娯楽施設、格納庫や倉庫など基地関連施設を建設する計画です。
防衛省南関東防衛局は本紙の取材に対し、分別施設は97年度に完成し、米軍「思いやり予算」1億2千万円が使われたことを明らかにしました。(現在は基地内で排出されたゴミに限定)
しかし、防衛局には分別施設のために資金を提供した記録はありません。「ユーティリティー(多目的施設)」などの費目で資金を提供し、あとは何を建設しようが米軍の自由。事実上の「つかみ金」であるという実態が浮かび上がりました。バクレーさんは、こうした経緯を現在作成中の「ザ・思いやり」・第3弾で明らかにする考えです。
「思いやり予算」で建てられたゴミ分別施設=2004年11月22日(日本共産党逗子市議団撮影)
在日米軍に疑問
2010年4月、内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した1本の動画が世界を震憾させました。イラク戦争真っただ中の07年12月、米兵がロイター通信の記者や一般市民をヘリから銃撃し、笑いながら殺害しているものです。映像を見て、あまりの怒りで3日間眠れなかったバクレーさんは、日本にいる米軍の存在に疑問を抱きます。建設的に何かできないかと模索する中で、「米軍への『思いやり予算』を東北の被災者に」と活動する人たちに出会いました。
民間人殺す米軍に豪華住宅提供
2011年4月、東日本大震災の翌月に被災地を訪問したバクレーさんは、仮設住宅について「物が何もなく、狭くてプライバシーもない。人間が住むような場所じゃなかった」と説明します。日本政府は、その後も相次ぐ自然災害の被災者には劣悪な住まいを押し付け、一方で米軍に対しては、豪華な住宅、ゴルフ場やプールなどの娯楽施設などを「思いやり予算」で提供してきました。
沖縄にある米海兵隊員の住宅(米軍の動画・画像共有サイト「DVIDS」から)
提供施設に2兆
防衛省の資料によると、1979年度から2019年度の提供施設整備費の総額は、2兆3473億円にものぼります。その間に、207棟の隊舎(独身兵用宿舎)、1万1461戸の家族住宅が建設されました。加えて、06年の在日米軍再編ロードマップに基づく米原子力空母艦載機の岩国移駐に伴い、山口県岩国市内の愛宕山に家族住宅262戸が建設されました。
米空軍が公開している、横田基地(東京都福生市など)の上級幹部用住宅の間取り図をみると、寝室が四つ、浴室が二つ、広大なリビングやテラスが備わっています。防衛省の資料によると、最も高価な上級将校用住宅の場合、建設費だけで9650万円、面積は約245平方メートルにのぼります。
米海兵隊が沖縄の住環境を紹介する映像には、米軍住宅の大きなリビングや寝室が流れ、「どの住まいにも、米国の家庭と同じ様式の家具や設備が備わっています」と説明。沖縄の景色と共に、そこで充実した生活を送る米兵やその家族が映し出されています。
「思いやり予算」で建てられた神武寺駅の米軍専用改札口=7月14日、神奈川県逗子市
在日米軍の光熱水道料等料金実績額
(電気、ガス、水道、下水道および暖房用等燃料の区分ごと)(単位:万円)
品目 | 実績額(2018年度) |
電気 | 248億7300 |
ガス | 46億8500 |
水道 | 37億3900 |
下水道 | 16億4800 |
燃料 | 47億400 |
合計 | 396億5000 |
光熱費も税負担
住宅だけではありません。基地内で使用する光熱水費も全て「思いやり予算」で提供されています。防衛省の資料によれば、18年度は約400億円にのぼっています。(表)
米軍にとって日本は最適な場所であり、バクレーさんは、その理由として「利便性」をあげます。ドキュメンタリー映画「ザ・思いやり」第1弾で取り上げた、神奈川県逗子市にある神武寺駅。当駅でベビーカーを押した外国人女性が改札へ向かいましたが、その先は通常の改札ではなく、踏切を挟んだ先にある建物でした。そこには、「警告立ち入り制限区域許可されたもの以外の立ち入りを禁ず」とあります。米兵やその家族らが、隣接する米海軍池子住宅地区に直接行けるようにする目的で、08年につくられた米軍專用の改札口です。米軍人の「利便性」のために、1億2千万円もの「思いやり予算」が使われました。
ボルトン前米大統領補佐官の「回顧録」で明らかになった、トランプ米大統領の「思いやり予算」の増額要求について、バクレーさんは「彼には倫理は全くなく、全て“ディール”(取引)です。あれだけの額を請求することには何の根拠もなく、ただの脅迫みたいなもの。日本政府も意味のないところに払い続けるのをやめるべきです」と強調しました。
前作で、三沢基地近くの青森駅前でアンケートを実施。米軍がシリアやヨルダンで子どもたちや民間人を殺している事実を知った上で、その米軍が三沢基地を足場にしていることを伝えると、誰もが「おかしい」「日本を守るためではない」と声をあげます。
バクレーさんは語ります。「日本人にとって、米国の存在が当たり前になり、撤退されるのが怖くなってしまった。でも、戦後米軍が他国に対して何をやってきたのかを知れば、そういう人たちを日本においてはならないという気持ちになると思います。私は映画を通じて、米軍の本当の姿を知ってもらいたい」
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月2日付掲載
リラン・バクレーさん監督の映画「ザ・思いやり」は、思いやり予算の実態をリアルに告発しています。
山口県岩国市の海兵隊岩国基地には横須賀の空母艦載機が配備され、それに伴い愛宕山に米軍の家族住宅が建設されました。
毎月1のつく日に、愛宕山神社のある丘で「愛宕山みまもりの集い」が開かれています。
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