軍拡と財政金融危機② 大学を軍事領域に動員
群馬大学名誉教授 山田博文さん
岸田文雄政権がねらう10兆円以上への軍事予算の倍増は、日米の軍需企業の軍事ビジネスを活発化させ、政府相手の安定した巨額の利益を保証するでしょう。
倍増される軍事費の恩恵は少数の軍需独占企業の経営を好転させるだけで、国内経済への波及効果は期待できません。軍事予算とその配分は、防衛省から天下りを受け入れる三菱重工など経団連傘下の大企業と、それらの大企業から多額の政治献金を受け取る政府与党の自民党など、政界・官界・財界の三位一体的な癒着の構造の中で決定されるからです。
上位10社で64%
2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円でした。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)でした。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円でした。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました(図)。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
軍事予算は、経済的には再生産外の消費であり、国民経済にとって無駄遣いの筆頭です。しかも、戦争は人命・街・環境を破壊します。また日米両政府は軍拡の背景として「台湾有事」などをあげ、自国にとって最大の貿易相手国である中国を仮想敵国にしています。もし戦火を交えたら日米は中国だけでなく自国の経済をも破壊する深い経済依存関係にあります。こんな戦争には真っ先に経済界が反対するでしょう。
「軍産学複合体」
現代の戦争は「宇宙・サイバー・電磁波」の領域にまたがる先端的な科学技術を駆使して行われています。かつて米アイゼンハワー大統領が警告した「軍産複合体」は、現代では「軍産学複合体」となって機能しています。
近年の日本で注目されるのは、大学の研究能力が軍事領域に動員されていることです。それによって、大学の自治・学問研究の自由・教員の境遇などが侵されています。とくに目立つのは、04年に国立大学法人になって以降の国立大学です。
第1に、教育研究の担い手である教員と教授会の意向が大学運営に反映されにくくなり、外部の有力者からなる役員会で学長・学部長人事が行われるようになりました。
第2に、教員が自主的に使用できる研究費は削減され、防衛省・大手企業のひも付き研究費が提供されるようになりました。今年、軍事研究開発費(3257億円)はとうとう科学研究費助成(2377億円)を上回りました。研究成果を学会で発表しようと思っても、守秘義務を強いられ、スポンサーからブレーキがかかり、「人類社会の福祉に貢献」(日本学術会議法・前文)する道が閉ざされがちです。
第3に、教員の新規採用に当たって任期付き採用が増えました。全国86の国立大学に勤める40歳未満の若手教員のうち、じつに63%が5年間の任期付き採用(16年度)です。5年で研究成果が出ないと6年目には不採用になる境遇では、長期におよぶ大きな創造的テーマの研究は不可能であり、すぐに成果の出る小さなテーマを選択せざるを得ません。教育に十分な時間をあてることもできなくなりました。
こんな現状では、日本の科学技術の発展は現在も将来も期待できず、他国に追い抜かれていく一方でしょう。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月19日付掲載
2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
岸田文雄政権がねらう10兆円以上への軍事予算の倍増は、日米の軍需企業の軍事ビジネスを活発化させ、政府相手の安定した巨額の利益を保証するでしょう。
倍増される軍事費の恩恵は少数の軍需独占企業の経営を好転させるだけで、国内経済への波及効果は期待できません。軍事予算とその配分は、防衛省から天下りを受け入れる三菱重工など経団連傘下の大企業と、それらの大企業から多額の政治献金を受け取る政府与党の自民党など、政界・官界・財界の三位一体的な癒着の構造の中で決定されるからです。
上位10社で64%
2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円でした。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)でした。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円でした。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました(図)。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
軍事予算は、経済的には再生産外の消費であり、国民経済にとって無駄遣いの筆頭です。しかも、戦争は人命・街・環境を破壊します。また日米両政府は軍拡の背景として「台湾有事」などをあげ、自国にとって最大の貿易相手国である中国を仮想敵国にしています。もし戦火を交えたら日米は中国だけでなく自国の経済をも破壊する深い経済依存関係にあります。こんな戦争には真っ先に経済界が反対するでしょう。
「軍産学複合体」
現代の戦争は「宇宙・サイバー・電磁波」の領域にまたがる先端的な科学技術を駆使して行われています。かつて米アイゼンハワー大統領が警告した「軍産複合体」は、現代では「軍産学複合体」となって機能しています。
近年の日本で注目されるのは、大学の研究能力が軍事領域に動員されていることです。それによって、大学の自治・学問研究の自由・教員の境遇などが侵されています。とくに目立つのは、04年に国立大学法人になって以降の国立大学です。
第1に、教育研究の担い手である教員と教授会の意向が大学運営に反映されにくくなり、外部の有力者からなる役員会で学長・学部長人事が行われるようになりました。
第2に、教員が自主的に使用できる研究費は削減され、防衛省・大手企業のひも付き研究費が提供されるようになりました。今年、軍事研究開発費(3257億円)はとうとう科学研究費助成(2377億円)を上回りました。研究成果を学会で発表しようと思っても、守秘義務を強いられ、スポンサーからブレーキがかかり、「人類社会の福祉に貢献」(日本学術会議法・前文)する道が閉ざされがちです。
第3に、教員の新規採用に当たって任期付き採用が増えました。全国86の国立大学に勤める40歳未満の若手教員のうち、じつに63%が5年間の任期付き採用(16年度)です。5年で研究成果が出ないと6年目には不採用になる境遇では、長期におよぶ大きな創造的テーマの研究は不可能であり、すぐに成果の出る小さなテーマを選択せざるを得ません。教育に十分な時間をあてることもできなくなりました。
こんな現状では、日本の科学技術の発展は現在も将来も期待できず、他国に追い抜かれていく一方でしょう。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月19日付掲載
2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
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