「骨太」の雇用政策③ 低賃金の原因 見誤る
全労連雇用労働法制局長 伊藤圭一さん
「骨太の方針2023」の雇用政策では、エッセンシャルワーカー(日常生活の根幹を支える労働者)や女性の働く環境も改善されないでしょう。
転換の視点なし
コロナ禍では、医療、福祉・介護・保育、物流、公務などでのエッセンシャルワーカー不足が浮き彫りになりました。その原因は、有用な労働に見合わない低い賃金と劣悪な労働条件、職員定数削減や少ない職員配置基準といった政策ミスにあります。ところが骨太の方針には、これらを転換する視点は全くありません。
加えて、企業の人事制度が成果・業績主義と競争主義を強める中、労働者は副業・兼業、リスキリングもやれというのですから、通算労働時間は長くなります。骨太の方針には、女性活躍推進や子育て支援のお題目もあります。しかし家族や自分のケアに時間を割けない労働者が増えれば、女性活躍にも悪影響を及ぼすでしょう。
骨太の方針の雇用政策の誤りは、デフレ(持続的な物価下落)経済・賃金停滞の要因に対する岸田文雄政権の認識の間違いに起因しています。岸田政権は、業務へのエンゲージメント(愛着心)が低く、自己啓発と転職を怠ってきた労働者の側に賃金低迷の原因があるととらえています。
しかしこの間、日本の労働者は「エンゲージメントが低い」どころか、過労死がおきるほどの長時間労働や、低賃金の非正規雇用による基幹的業務の遂行によって、企業利益に“貢献”してきました。一方、企業はコスト削減を優先し、労働分配を適正に行ってきませんでした。労働組合の賃金闘争も弱かったため、賃金が上がらず、大企業を中心に莫大(ばくだい)な内部留保が積み上げられました。こうして社会全体の消費購買力が低迷し、消費不況・デフレ経済に陥ったのです。
「保育士増やして」などのプラカードを掲げる「よりよい保育を!」集会の参加者=2022年11月3日、東京・日比谷野外音楽堂
内部留保を還元
必要なのは、企業の過剰な蓄積・内部留保を労働者に還元することです。それをせず、雇用流動化を進めれば、賃金はさらに下落し、労働者のスキルアップも滞り、成長産業も育たず、経済停滞が深刻化するでしょう。この「骨太の方針」の推奨者は、リストラで短期利益を狙うような経営者と、雇用流動化でもうかる人材ビジネスくらいではないでしょうか。
政府が進めるべき政策は、①女性活躍のネックである長時間労働を本気でなくしてジェンダー平等を実現すること②欧州連合(EU)諸国のように賃金・最低賃金を大幅に引き上げること③有期労働契約の乱用防止のための「入り口規制」と公的職業教育の拡充を行い雇用の安定をはかること④失業時の生活保障を確立して落ち着いてスキルアップと就職先探しをできるようにすること―です。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年7月7日付掲載
コロナ禍では、医療、福祉・介護・保育、物流、公務などでのエッセンシャルワーカー不足が浮き彫りに。その原因は、有用な労働に見合わない低い賃金と劣悪な労働条件、職員定数削減や少ない職員配置基準といった政策ミスに。ところが骨太の方針には、これらを転換する視点は全くない。
必要なのは、企業の過剰な蓄積・内部留保を労働者に還元することです。それをせず、雇用流動化を進めれば、賃金はさらに下落し、労働者のスキルアップも滞り、成長産業も育たず、経済停滞が深刻化。
政府が進めるべき政策は、①女性活躍のネックである長時間労働を本気でなくしてジェンダー平等を実現すること②欧州連合(EU)諸国のように賃金・最低賃金を大幅に引き上げること③有期労働契約の乱用防止のための「入り口規制」と公的職業教育の拡充を行い雇用の安定をはかること④失業時の生活保障を確立して落ち着いてスキルアップと就職先探しをできるようにすること。
全労連雇用労働法制局長 伊藤圭一さん
「骨太の方針2023」の雇用政策では、エッセンシャルワーカー(日常生活の根幹を支える労働者)や女性の働く環境も改善されないでしょう。
転換の視点なし
コロナ禍では、医療、福祉・介護・保育、物流、公務などでのエッセンシャルワーカー不足が浮き彫りになりました。その原因は、有用な労働に見合わない低い賃金と劣悪な労働条件、職員定数削減や少ない職員配置基準といった政策ミスにあります。ところが骨太の方針には、これらを転換する視点は全くありません。
加えて、企業の人事制度が成果・業績主義と競争主義を強める中、労働者は副業・兼業、リスキリングもやれというのですから、通算労働時間は長くなります。骨太の方針には、女性活躍推進や子育て支援のお題目もあります。しかし家族や自分のケアに時間を割けない労働者が増えれば、女性活躍にも悪影響を及ぼすでしょう。
骨太の方針の雇用政策の誤りは、デフレ(持続的な物価下落)経済・賃金停滞の要因に対する岸田文雄政権の認識の間違いに起因しています。岸田政権は、業務へのエンゲージメント(愛着心)が低く、自己啓発と転職を怠ってきた労働者の側に賃金低迷の原因があるととらえています。
しかしこの間、日本の労働者は「エンゲージメントが低い」どころか、過労死がおきるほどの長時間労働や、低賃金の非正規雇用による基幹的業務の遂行によって、企業利益に“貢献”してきました。一方、企業はコスト削減を優先し、労働分配を適正に行ってきませんでした。労働組合の賃金闘争も弱かったため、賃金が上がらず、大企業を中心に莫大(ばくだい)な内部留保が積み上げられました。こうして社会全体の消費購買力が低迷し、消費不況・デフレ経済に陥ったのです。
「保育士増やして」などのプラカードを掲げる「よりよい保育を!」集会の参加者=2022年11月3日、東京・日比谷野外音楽堂
内部留保を還元
必要なのは、企業の過剰な蓄積・内部留保を労働者に還元することです。それをせず、雇用流動化を進めれば、賃金はさらに下落し、労働者のスキルアップも滞り、成長産業も育たず、経済停滞が深刻化するでしょう。この「骨太の方針」の推奨者は、リストラで短期利益を狙うような経営者と、雇用流動化でもうかる人材ビジネスくらいではないでしょうか。
政府が進めるべき政策は、①女性活躍のネックである長時間労働を本気でなくしてジェンダー平等を実現すること②欧州連合(EU)諸国のように賃金・最低賃金を大幅に引き上げること③有期労働契約の乱用防止のための「入り口規制」と公的職業教育の拡充を行い雇用の安定をはかること④失業時の生活保障を確立して落ち着いてスキルアップと就職先探しをできるようにすること―です。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年7月7日付掲載
コロナ禍では、医療、福祉・介護・保育、物流、公務などでのエッセンシャルワーカー不足が浮き彫りに。その原因は、有用な労働に見合わない低い賃金と劣悪な労働条件、職員定数削減や少ない職員配置基準といった政策ミスに。ところが骨太の方針には、これらを転換する視点は全くない。
必要なのは、企業の過剰な蓄積・内部留保を労働者に還元することです。それをせず、雇用流動化を進めれば、賃金はさらに下落し、労働者のスキルアップも滞り、成長産業も育たず、経済停滞が深刻化。
政府が進めるべき政策は、①女性活躍のネックである長時間労働を本気でなくしてジェンダー平等を実現すること②欧州連合(EU)諸国のように賃金・最低賃金を大幅に引き上げること③有期労働契約の乱用防止のための「入り口規制」と公的職業教育の拡充を行い雇用の安定をはかること④失業時の生活保障を確立して落ち着いてスキルアップと就職先探しをできるようにすること。
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