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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(下) 差別構造の全面解体必要

2024-06-25 07:03:08 | 政治・社会問題について
ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(下) 差別構造の全面解体必要

労働者教育協会 筒井晴彦理事

国連「ビジネスと人権」作業部会の報告書は結論部分で、国に25項目、ビジネス界に10項目、市民社会に3項目を勧告しています。労働に関わるものを中心に紹介します。

条約批准を
国に対する勧告ではまず、▽リスクに直面するグループに対する不平等と差別の構造の緊急かつ全面的な解体▽国際労働機関(ILO)「雇用と職業における差別禁止条約」(第111号)、同「職業上の安全と健康に関する条約」(第155号)など4条約、6議定書の批准(表)―を求めています。


国連「ビジネスと人権」作業部会が批准を求めている条約と選択議定書
・ILO「雇用と職業における差別禁止条約」(第111号)
・ILO「職業上の安全と健康に関する条約」(第155号)
・ILO「強制労働条約」(第29号)の2014年議定書
・ILO「原住民及び種族民条約」(第169号)
・国連「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約」
・国連「女性差別撤廃条約」の選択議定書
・国連「人種差別撤廃条約」の選択議定書
・国連「経済的・社会的・文化的権利に関する国際規約」の選択議定書
・国連「市民的・政治的権利に関する国際規約」の選択議定書
・国連「障がい者の権利に関する条約」の選択議定書


ILO第111号条約は、雇用と職業におけるあらゆる差別を禁止する条約です。第155号条約は、労働者の安全と健康を守るために具体的な対策を講じることを企業に求めています。この2条約はILOの中核的条約です。
そのほか以下のことを国に勧告しています。
▽人権デューデリジェンス(人権侵害を防止するための調査と対策)を義務付ける法律を制定する。
▽独立した強力な国内人権機関を遅滞なく確立すること。司法救済および裁判外救済へのアクセスを改善する。
▽同一価値労働同一賃金の原則を実施するための取り組みを強化し、男女間賃金格差を是正する。民間部門における女性代表の割り当て(クオータ制)の採用を含め、指導的地位に占める女性の比率を高める。
▽既存の差別禁止法を明確かつ包括的な差別の定義を盛り込む内容に改正することを含め、差別を公式に禁止し、制裁を科す。
▽技能実習生制度を改正する際は、国際的な人権基準に基づいて明確な人権保護を盛り込む。
▽労働監督を強化し、強制労働および人身売買の被害者の確認を強める。
▽在留資格にかかわらず、差別のない雇用機会への平等なアクセスと適正な賃金、安全な労働条件を保障することを含め、すべての労働者に労働法が適用されることへの認識を高める。

企業へ勧告
企業に対する勧告には以下のものがあります。
▽国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた苦情処理システムの確立。効果的な苦情処理システムとするため、すべての基準をジェンダーに配慮した方法で解釈する。
▽損害をあたえた被害者・共同体を効果的に救済する。
▽企業の意思決定機関に女性の代表を増やす。
▽就活生に対し、差別につながるような質問を撤廃する。あらゆる形態の差別、搾取、ハラスメント、権力乱用、その他の暴力を職場から撤廃する。
▽労働者の結社の自由と団結権、団体交渉権を促進する。
日本政府と経済界には、勧告内容の速やかな実施が求められています。
国連「ビジネスと人権」作業部会は、日本の人権状況について引き続き情報提供を求めています。人権後進国の日本の状況を国際社会に告発しながら、国際基準にもとついて、誰もが自分らしく生きることのできる社会を実現したいと思います。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月22日付掲載


国に対する勧告ではまず、▽リスクに直面するグループに対する不平等と差別の構造の緊急かつ全面的な解体▽国際労働機関(ILO)「雇用と職業における差別禁止条約」(第111号)、同「職業上の安全と健康に関する条約」(第155号)など4条約、6議定書の批准(表)―を求めています。
企業に対する勧告には以下のものがあります。
▽国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた苦情処理システムの確立。効果的な苦情処理システムとするため、すべての基準をジェンダーに配慮した方法で解釈する。
▽企業の意思決定機関に女性の代表を増やす。etc…
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ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(中) リスクに直面する人々

2024-06-24 07:13:27 | 政治・社会問題について
ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(中) リスクに直面する人々


労働者教育協会 筒井晴彦理事

国連「ビジネスと人権」作業部会の報告書は、差別などのリスクに直面しているグループとして、女性、LGBTQI+の人びと、障がい者、先住民(アイヌ民族)、マイノリティー、子ども、高齢者などをとりあげます。


2024年ジェンダーギャップ指数ランキング
順位(23年)国名指数
1(1)アイスランド0.935
2(3)フィンランド0.875
3(2)ノルウエー0.875
4(4)ニュージーランド0.835
5(5)スウエーデン0.816
6(7)二力ラグア0.811
7(6)ドイツ0.81
8(8)ナミビア0.805
9(11)アイルランド0.802
10(18)スペイン0.797
14(15)英国0.789
22(40)フランス0.781
36(30)カナダ0.761
43(43)米国0.747
87(79)イタリア0.703
94(105)韓国0.696
106(107)中国0.684
118(125)日本0.663
129(127)インド0.641
(0が完全不平等、1が完全平等)


深刻な差別
女性…世界経済フォーラムの2023年のジェンダーギャップ指数で146カ国中125位だったことや、日本政府の統計で女性労働者の68・2%が非正規雇用で働いていること、賃金もフルタイム同士の比較で男性の75・7%、非正規同士の比較で80・4%にとどまることを紹介。「女性の職業はしばしば補助的労働や臨時的雇用、パート労働に限定されている。その結果、キャリア昇進の機会が制限され、低賃金となっている」と強調しています。
大企業の男女賃金格差の公表を「積極的な第一歩」と評価する一方、女性の昇進差別やセクハラについて憂慮すべき事例が報告されているとし「指導的地位と意思決定機関においてジェンダー多様性の促進が必要」だとしています。
LGBTQI+の人びと…昨年成立したLGBT理解増進法について「LGBTQI+の個人への差別を禁止する条項が存在せず、差別の明確な規定が存在しない」と厳しく指摘しています。
障がい者…職場における差別と低賃金、見せかけだけ企業が雇用義務を果たす雇用代行事業の横行など「偽装雇用」に懸念を表明しています。障がい者の雇用促進には、法定雇用率の基準拡大が不可欠だと主張しています。
マイノリティー・先住民…アイヌ民族が職場で依然として差別に直面していること、在日コリアンや在日中国人の労働者に対し、雇用主がヘイトスピーチを含めた差別を繰り返していることに懸念を表明しています。
高齢者…差別的雇用慣行が存在すること、65歳以上の高齢者の70%が非正規で働いていること、60歳から65歳までの高齢者の賃金が同じ仕事をしている場合でも引き下げられていること、他のOECD(経済協力開発機構)諸国と異なり年齢差別禁止法が存在しないこと、雇用主が定年制を設け高齢者に劣悪な仕事を押し付けていることーなどを報告。「高齢者の労働権のための政策」を求めています。
アニメ制作者…報告書は、アニメ制作者が長時間労働を強いられているにもかかわらず初任給が年間150万円しかなく、制作者の30・8%がフリーランスまたは個人事業者で労働法の保護を受けていないとし、「アニメ業界は、これらの問題に取り組み、制作者に人間らしい労働を拡大することが絶対に欠かせない」と訴えています。

長時間労働
報告書は、企業による労働組合の日常活動への妨害や組合組織化を理由とした職場への立ち入り拒否などの事例があるとし、「公正で法律を順守する職場慣行を促進するうえで、労働組合は必須の役割を担っている。作業部会は、労働組合の重要性を繰り返し強調する」と主張しています。
長時間労働に関わって、職業に起因する病気、とりわけ精神疾患に対する損害賠償件数が増えていることに懸念を表明。残業時間の上限規制に例外が設けられていること、医師の場合は年1860時間もの残業が可能となっていることにも強い懸念を示しています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月21日付掲載


女性…世界経済フォーラムの2023年のジェンダーギャップ指数で146カ国中125位だったことや、日本政府の統計で女性労働者の68・2%が非正規雇用で働いていること、賃金もフルタイム同士の比較で男性の75・7%、非正規同士の比較で80・4%にとどまることを紹介。「女性の職業はしばしば補助的労働や臨時的雇用、パート労働に限定されている。その結果、キャリア昇進の機会が制限され、低賃金となっている」と強調。
障がい者…職場における差別と低賃金、見せかけだけ企業が雇用義務を果たす雇用代行事業の横行など「偽装雇用」に懸念を表明。
アニメ制作者…報告書は、アニメ制作者が長時間労働を強いられているにもかかわらず初任給が年間150万円しかなく、制作者の30・8%がフリーランスまたは個人事業者で労働法の保護を受けていないとし、「アニメ業界は、これらの問題に取り組み、制作者に人間らしい労働を拡大することが絶対に欠かせない」と。
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ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(上) 人権機関の不在に懸念

2024-06-23 07:13:47 | 政治・社会問題について
ビジネスと人権 国連「訪日報告書」を読む(上) 人権機関の不在に懸念

昨年夏、日本において企業活動が人権に与えている影響を12日間にわたって訪日調査した国連「ビジネスと人権」作業部会の報告書が、6月18日から始まった国連人権理事会(~7月12日)に提出されました。報告書の内容について労働者教育協会の筒井晴彦理事に寄稿してもらいました。

労働者教育協会 筒井晴彦理事

報告書の分析は多岐にわたります。報告書はまず、差別などのリスクに直面している人びととして、女性、LGBTQI+の人びと、障がい者、マイノリティーグループと先住民(アイヌ民族)、子ども、高齢者を挙げ、それぞれの人権状況を分析しています。
さらに、①健康・気候変動・自然環境(福島第1原発事故、PFAS=有機フッ素化合物)②労働権(労働組合、長時間労働、移住労働者と技能訓練制度)③メディアとエンターテインメント産業④バリューチェーン(原材料調達から販売までの事業活動)と金融の規制―という4テーマについても詳しく分析しています。
本連載ではこれらのうち、職場における人権問題を軸に報告書の内容を整理し、紹介します。

「LGBTQI+」:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング、インターセックスほか多様な性のあり方を表す言葉。



訪日調査の結果について日本記者クラブで会見する国連「ビジネスと人権」作業部会の専門家=2023年8月4日

国家の義務
報告書は、人権を保護する国の義務に関わり「日本国内において『国連ビジネスと人権に関する指導原則』への認識不足が全般的に、とりわけ東京以外の地方で見られることを注視する。指導原則が定める権利と義務、責任を関係者が全面的に理解するには、相当の努力が求められる」と指摘しています。
指導原則は、①人権を保護する国の義務②人権を尊重する企業の責任③被害者救済へのアクセス拡大―という3本柱(一般原則)で構成され、さらに柱ごとに「やるべき」原則を定めています。合計31のやるべき原則のうち14原則が企業の責任に関わるものです。
作業部会は、日本の関係者が指導原則を全面的に理解するために、日本政府に相当の努力を払うよう求めているのです。

企業の責任
報告書は企業の責任に関わって「企業の99・7%を占める中小企業において指導原則への理解が低い。指導原則を理解・実行する点で、企業間に大きな格差が存在する」と指摘します。また「もっと積極的に指導原則の義務を遂行する必要が国にはある。もっと実践的な指導を経済産業省と厚生労働省、外務省、法務省に求める」とのビジネス界の主張を紹介しています。
報告書は、司法の利用と効果的な救済に関し、「指導原則と広範な人権についての裁判官の低い認識が重大な問題の一つとなっている。作業部会は、日本において(政府から独立した)国内人権機関が存在しないことを強く懸念している。経済協力開発機構(OECD)38カ国のなかで、国内人権機関が存在しないのは日本を含め8カ国のみである。法務省の人権局は、国内人権機関の機能を果たしていない」と厳しく指摘しています。
国内人権機関はすでに世界120カ国に存在しています。国連はこれまでも、世界であたり前になっている国内人権機関の確立を繰り返し日本政府に勧告しています。
(つづく)(3回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月20日付掲載


作業部会は、日本の関係者が指導原則を全面的に理解するために、日本政府に相当の努力を払うよう求めている。
作業部会は、日本において(政府から独立した)国内人権機関が存在しないことを強く懸念している。経済協力開発機構(OECD)38カ国のなかで、国内人権機関が存在しないのは日本を含め8カ国のみ。
国連はこれまでも、世界であたり前になっている国内人権機関の確立を繰り返し日本政府に勧告。
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トヨタの不正(下) 新車短期開発の圧力

2024-06-22 08:19:02 | 政治・社会問題について
トヨタの不正(下) 新車短期開発の圧力

トヨタの完全子会社ダイハツは2023年4月28日に、内部告発で発覚した認証不正を公表しました。その後、第三者委員会の調査で新たに174件もの不正が判明。同年12月20日、国内外で生産する全車種の出荷を停止するに至りました。
第三者委員会の調査報告書(同日)には、トヨタの経営姿勢がダイハツの労働現場に大きな圧力と変化を加え、従業員を不正行為に追い込んだ経過が書かれています。
同報告書によると、不正多発の「真因」は「(不正の)未然防止や早期発見のための対策を何ら講ずることなく(新車の)短期開発を推進した」ことでした。短期開発の始まりは、05年にトヨタ出身の会長が就任し、「軽自動車で収益を上げられるビジネスモデルを確立するための事業構造改革に注力した」ことです。
「開発の工数と予算を削減する観点から」短期開発が推し進められました。16年にトヨタの完全子会社となり、トヨタの海外事業に参加した結果、短期開発に拍車がかかりました。



ダイハツの認証不正について社員の声(アンケート調査結果)を紹介する第三者委員会の調査報告書

試験の人員削減
人員が不足しても「開発部門の自助努力に頼って」短期開発が進められました。認証試験に関わる人員はコストカットのために削減されました。認証申請書類をつくる法規認証室の人員は最多だった09年と比べ43%(15年時点)に減らされ、衝突試験を担当する安全性能担当部署の人員は最多だった10年と比べ40%(15年時点)に減らされました。
不正行為の件数は、短期開発の弊害が強まった14年以降に増加しました。
完成車試験の省略も短期開発を進める中で始まりました。審査官の立ち会いが不要な試験項目で、開発段階の試験データを流用したのです。同報告書は「開発段階の試験データを可能な限り認証申請用にも利用する取り組みが行われて開発評価の試験と認証試験の区別が厳格ではなくなったことが本件問題の大きな原因」だと断定しています。流用が可能だったのは開発部門と試験部門が混然一体となっていたためです。
例えば、側面衝突時のエアバッグの作動を確認する試験では、本来の電子制御装置ではなくタイマーでエアバッグを作動させていました。開発試験と認証試験を兼ねた実験当日までに電子制御装置の設定が間に合わず、開発日程を優先させるために犯した不正でした。開発完了後の完成車で認証試験を行う原則を守っていれば、起こりえない事態です。

経営姿勢が根源
同報告書は、再発防止策として短期開発の見直しや開発試験データの流用禁止を提案しています。また、不正の多発を受けてダイハツが認証機能を開発部門から独立させたと記しています。労働運動総合研究所の佐々木昭三理事は話します。
「トヨタ本体も開発試験データを無断で認証試験に流用し、エアバッグの試験にタイマーを使う不正を行っていたのですから、グループ企業の不正の根源はトヨタ本体の経営姿勢にあるとみるべきです。企業利益を優先した結果、安全確保のために最優先で守るべき国際基準の認証ルールに違反したということです。安全管理体制を改め、十分な人員や開発・検査期間を確保するべきです。不正を見抜けなかった国も検査のあり方を見直し、体制を強化する必要があります」
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月19日付掲載


不正多発の「真因」は「(不正の)未然防止や早期発見のための対策を何ら講ずることなく(新車の)短期開発を推進した」こと。
報告書は「開発段階の試験データを可能な限り認証申請用にも利用する取り組みが行われて開発評価の試験と認証試験の区別が厳格ではなくなったことが本件問題の大きな原因」だと断定。流用が可能だったのは開発部門と試験部門が混然一体となっていたため。
報告書は、再発防止策として短期開発の見直しや開発試験データの流用禁止を提案。
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トヨタの不正(上) 完成車試験をサボる

2024-06-21 07:13:26 | 政治・社会問題について
トヨタの不正(上) 完成車試験をサボる

自動車の型式認証をめぐって大手メーカー5社の不正が発覚し、トヨタ自動車の対応が議論を呼んでいます。豊田章男会長らが自社の試験方法より認証制度の方に問題があるかのような前象操作を行ったためです。トヨタの安全管理体制に問題はないのか。不正の根源を探りました。
(杉本恒如)

自動車の型式認証制度は、新車の販売に際して安全・環境性能と品質の均一性について国土交通省の審査を受ける制度です。審査に合格して型式を指定されると1台ずつの検査を省いて同じ型式の車を量産販売できます。
トヨタが3日に発表した不正行為は6種類あります(表)。豊田会長は同日の記者会見で「正しい認証プロセスを踏まずに量産販売してしまった」と反省を口にした一方、「本来(法規が定める試験)よりも重い厳しい試験をやった」と弁明。さらに認証制度が「あいまい」で「仕向け地(輸出先)によってルールも変わる」ため「(トヨタの意見が)議論のきっかけになるといい」と述べ、問題を認証制度のあり方にすり替えようとしました。


トヨタ認証不正6種類
2014~15年、クラウン・アイシスの認証申請で、エアバッグをタイマー着火した開発試験データを流用。完成車での自動着火試験を実施しなかった。
15年、カローラの認証申請で、歩行者との衝突時に頭部に与えるダメージを確認する際に開発試験データを流用。衝撃角度(65度)が法定の角度(50度)と違った。
15年、カローラ・シエンタ・クラウンの認証申請で、歩行者と車が衝突した際の頭部や脚部へのダメージの確認に開発試験データを流用。片側のデータを左右両側分のデータとする虚偽データを提出した。
14年のクラウン、15年のシエンタの認証申請で、台車の後面衝突による燃料漏れなどの確認に開発試験データを流用。法規基準の1100キログラムに対し1800キログラムの台車を使用した。
20年、ヤリスクロスの認証申請で、衝突時の積み荷の移動による後部座席へのダメージの確認に開発試験データを流用。法規の変更で積み荷ブロックの要件が追加されていたが、古いブロックを使ったデータを使用した。
15年、レクサスRXの認証申請の際、エンジン出力の確認試験で狙った出力が得られなかったのに、原因を究明せず、コンピューター制御を調整して試験をしたデータを使用した。


開発期間の短縮
トヨタの完全子会社ダイハツなどの認証不正を分析してきた労働運動総合研究所の佐々木昭三理事は「ダイハツの不正とトヨタ本体の不正には共通性がある」といいます。
「国際競争に勝って世界一のトヨタグループを築くために、各社の実情を顧みずに開発期間を短縮した中で不正が起きています。豊田会長は、自社の構造的問題から国民の目をそらすために、自社試験の厳格性を強弁したようにみえます」
重大なのは、トヨタが開発完了後の完成車での試験を省き、開発段階の試験データを認証申請に流用していたことです。トヨタの発表によれば6種類の不正のうち5種類で開発試験データが流用されていました。国交省は「開発段階で試験をしても完成車で同じ結果が出るとは限らない」と指摘し、トヨタが無断で開発試験データを提出していたことを問題視しています。



トヨタ自動車の本社ビル

根源を反省せず
「厳しい試験をやった」どころか、完成車の性能を証明するための試験をサボっていたということです。開発試験データの流用が常態化し広範囲に及んでいるとすれば、過去にトヨタが得た型式指定全体の信頼性が揺らぐことになります。
実は、先行して認証不正が発覚したダイハツでも開発試験データの流用が行われており、それが不正多発の大きな要因になったと指摘されていました。佐々木氏は話します。
「開発試験データの流用が不正の温床になったことは、ダイハツが設置した第三者委員会の調査報告書に明記されています。トヨタ幹部らが自社の不正に関する記者会見でこの問題をあいまいにし、矮小(わいしょう)化とすり替えを図ったことは、不正の根源について全く反省していないことを示しています」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月18日付掲載


重大なのは、トヨタが開発完了後の完成車での試験を省き、開発段階の試験データを認証申請に流用していたこと。トヨタの発表によれば6種類の不正のうち5種類で開発試験データが流用。国交省は「開発段階で試験をしても完成車で同じ結果が出るとは限らない」と指摘し、トヨタが無断で開発試験データを提出していたことを問題視。
トヨタ幹部らが自社の不正に関する記者会見でこの問題をあいまいにし、矮小(わいしょう)化とすり替えを図ったことは、不正の根源について全く反省していないこと。
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