56年宣言基礎に交渉加速 日ロ首脳会談 平和条約締結へ合意
【シンガポール小林宏彰、上家敬史】安倍晋三首相は14日夜(日本時間同)、滞在中のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、平和条約締結後の歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に条約締結交渉を加速させることで合意した。今月30日にアルゼンチンで開幕する20カ国・地域(G20)首脳会合の際に再会談するほか、来年1月をめどに首相が訪ロする方針も確認。首相は停滞する北方領土交渉の進展を目指し、ロシア側が2島返還の根拠とする同宣言に基づく交渉開始に踏み切った。
日ソ共同宣言は日ロ両国の国会が批准した唯一の文書で、プーチン氏も法的有効性を認めている。ただ国後、択捉両島の扱いには触れておらず、ロシア側はこれを根拠に「領土交渉の対象外」との立場を崩していない。同宣言を領土交渉の基礎とした場合、事実上の国後、択捉両島の返還断念につながる懸念がある。
首相は会談後、プーチン氏と通訳のみを交えた一対一の会談で「平和条約締結交渉について相当突っ込んだ議論を行った」と記者団に述べたが、具体的な内容は明らかにしなかった。日本政府内には同宣言に基づく歯舞、色丹両島の引き渡し協議入りを求めつつ、国後、択捉両島では共同経済活動を実現して自由な往来を可能にするという「2島プラスアルファ」論が強まっており、首相がこうした考えをプーチン氏に伝達した可能性もある。
首相は会談後、「私とプーチン大統領の2人で(領土問題に)終止符を打つという強い意思を完全に共有した。日ソ共同宣言を基礎に平和条約を加速させることで合意した」と表明。来年6月の大阪でのG20首脳会合に合わせてプーチン氏が来日し、首脳会談を行うことも確認した。
野上浩太郎官房副長官は会談後、首相の発言に関し「日ロ両国は日ソ共同宣言を含む諸文書、諸合意を踏まえた交渉を行ってきており、本日の会談で変更があったということではない」と記者団に説明。四島の帰属問題を解決して平和条約を締結することを確認した93年の東京宣言などを踏まえた交渉方針の転換ではないとの認識を強調した。
両首脳の会談は第1次安倍政権を含めて通算23回目で、プーチン氏が9月に前提条件なしでの平和条約の年内締結を提案して以降、公式会談は初めて。会談時間は約1時間30分で、このうち両首脳は一対一で約40分間、平和条約締結問題について協議した。
<ことば>日ソ共同宣言 鳩山一郎首相と旧ソ連のブルガーニン首相が1956年10月にモスクワで署名。第2次世界大戦で争った両国の戦争状態を終結し、国交を回復した。両国の国会で批准された唯一の法的文書で、条約と同等の効力を持つ。国交回復後に平和条約締結交渉を継続し、条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとしているが、国後、択捉両島の扱いについては触れられていない。